第1182話 氷と炎

「こんにちは。毎度お世話になっております。シーブリーズ商会のタムロ・マツモでございます。ムラカ様はいらっしゃいますか?」


おお、タムロが初対面の時の営業モードだ。


「あぁん? おやおや元シー何とかのタムさんじゃねーですかぁ?」

「げひゃひゃ、マジでタムロじゃーん? 昨日の今日でよく顔ぉ出せたなぁ?」

「ウエストコートのガキにあっさり潰されたんだろぉ? よく生きてられるよなぁ?」


おやおや、もうそこまで噂が広まってるのか。それにしてもウエストコートのガキ……そんなに目撃者なんていたか?


「ええ、シーブリーズは潰れてランディさんとこに吸収されました。今の私はシーブリーズ商会のタムロです。それで、ムラカ様は? あ、もしかしてこちらのお方が怖くてお逃げなされたとか?」


おー、煽るねぇ。


「あ? てめぇ何ムラさんにでけぇ口きいてんだ!?」

「なんじゃあ? チャラチャラしたガキぃ連れてよぉ!? ん? その服装……」

「ぎゃはは! もしかテメー! そんなガキにやられたんかぁ!? そんでぶっ潰れたってマジか!? ダサすぎんだろ!?」


「ぎゃっはぁ! それよりもそっちの女だぁ! 極上じゃねぇか! かなりの値がつくぜぇ!?」

「おおマジだ! こりゃ億行くんじゃねぇ!? 俺らにも分け前たんまりだぜ! よーし、タムちゃんよ。帰っていいぜ。今日の暴言は勘弁してやる。お、ランディさんも気をつけてお帰りくださーい。」

「おっと、ウエストコートのガキは置いてけよ? お揃いのウエストコートなんか着ちゃってよぉ?」


おーおー。調子の乗り方がエゲツないな。


「おう、タムロにランディ。帰っていいよ。」


まったく、人が友好的に話そうとしているってのに。これだから闇ギルドってやつは。


「おい……いいのかよ魔王さん……」

「お先でーす。お疲れーっす。」


タムロって一体どんなキャラなんだ……


「ぎゃっはぁ! さすがシーブリーズのタムロさん! 変わり身はぇー!」

「さっさと帰った帰った! 今ならなんと無傷! ツイてるね、乗ってるね!」

「ほれほれ、ランディも帰った帰った。げははぁ! お疲れちゃーん!」


苦い顔をしたランディと清々しい顔をしたタムロは帰っていった。外が安全とは限らないけどね。まあカムイを護衛につける必要はないけどね。


「さて、お前ら。上のモンを出しな。どうやら俺のことを知らないようだが、それならそれで構わんさ。ま、外国に来てあんま調子に乗るなよ?」


ちなみにローランド王国とヒイズルでは言葉にそこまで違いはない。これはセキヤとクワナで実証済み。ちょっと方言がキツいぐらいかな。


「ぶふっ、ぎゃはははははぁ! こいつ頭おかしいぜ! 何大物コイてやがんだよ!」

「誰がテメーのことなんか知るかよ! どこのお貴族様でちゅかー? 貴族にしちゃあ地味だけどよお? 平民にしちゃあチャラついてんなぁ?」

「上のモンだってよぉ! ムラさんは男ぁ趣味じゃねぇんだよ! ガキにぁいい職場を紹介してやるからよぉ! たっぷり可愛がってもらいなぁ!」


あらー、こいつらマジで私のことを知らないんだな。タムロはちゃんと知ってたってのに。大手のくせに情報収集が甘いな。でもまあ、こいつらが悪党ってのは間違いないみたいだし、遠慮はいらないよね。


『狙撃』

『狙撃』


とりあえず二人殺した。


「えっ? あ……ちょっ、おま、だ、誰かぁーー! エナとヒヨがやられたぁぁーー!」


『氷壁』


あ、アレクも? 首から下が凍ってる。


「私とカースをいいように言ってくれたわね。頭を冷やして反省しなさい。」


頭以外が冷えてるけどね。




おかしいな? 誰も出てこないぞ?


「おい、どうなってんだ? 早く呼べよ。」


「たす、たすけ、エナとヒヨがやられたんだって! 誰か出てこいよお!」


誰も来ないなら仕方ない。家探しは後でやるとして……


「とりあえず、吐け。」


「あぁ!? 舐めんなガキぃ!」


例によって殴る。ぼこぼこ。


「ほれ、さっさと吐け。」


「なめ、ぼ、がばぁ……」


「ガウガウ」


ん? カムイどうした? 焦げ臭い? 言われてみれば。


うわ、証拠隠滅かよ。丸ごと燃やすってか。


「お前も可哀想な奴だな。生きたまま焼けて死ねってよ。どうする? 助けてやろうか?」


「く、な、ふざ……」


「そうか。じゃあこのまま焼け死ぬといい。アレク、出ようか。」


「そうね。正確には焼け死ぬ前に毒気を吸って終わりかしら。良かったわね。苦しまなくて済むわよ。」


あー、一酸化炭素中毒ね。それって私にはどうなんだろう。毒は効かないけど一酸化炭素はなぁ……分からん。


「たす……たすけえぇ……」


やっとかよ。もうだいぶ火が回ってるってのに。


「じゃあ約束な。命は助けてやるから俺に絶対服従な。」


「あぁ……おうぐっ……」


よし、かかった。こんな下っ端の情報なんて大したことはないだろうけど。ないよりマシかな。さあ、出よう出よう。少しだけ顔が熱いんだよね。

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