第1168話 カースのトンネル工事
朝食後、 ダミアンとラグナを工事現場まで連れて行く。魔物が蔓延るムリーマ山脈まで。もちろんアレク達も一緒だ。
ちなみにリゼットはお迎えが来たので馬車でマイコレイジ商会へと向かった。ポンコツ護衛ジャンヌのお迎えで。
私達が着いた所は領都から南に百キロルってところだろうか。山の三合目を切り拓いてあった。あまり広くはないが、それは今後の発展次第ってとこか。周囲は岩や柵で囲ってあるな。ここではしっかり警戒しないといけないもんな。
「ダミアン様! お務めご苦労様です!」
「ご苦労様です!」
「ご苦労様です!」
柵の門番や警備の騎士がダミアンに敬礼をしてくる。騎士がいることはいるんだな。治安維持も必要だもんな。
「おう。変わりぁないか?」
「はっ! 岩盤が崩れて怪我人が四名出たぐらいです!」
「生きてんなら問題ないな。バーンズはいるか?」
「はっ! バーンズ殿なら中央事務所にいるかと」
「おう。ありがとよ。」
あー、ここはバーンズさんが仕切ってんのか。騎士もいるのによくやれるもんだな。
「行くぜ。後でトンネルの中も見せてやるよ。」
「おお、楽しみにしとくぜ。」
トンネル工事か。もちろん前世でも見たことなどない。どうやって進めるものなのか知りもしない。落盤、山はね、肌落ちなど危険がいっぱいってことぐらいは知ってるが。
ダミアンについて歩くこと五分。掘立小屋の中に一つだけ立派な建物があった。ここが中央事務所か。つかつかと入るダミアン。
「おう、バーンズいるかー?」
入ってすぐの内部にはバーンズさんと数人の冒険者がいた。何やら指示をしているようだ。
「おおダミアン、それにカースか? 珍しい所で会うじゃないか。手伝ってくれんのか?」
「お久しぶりですバーンズさん。ここにはダミアンを連れて来ただけですよ。」
「そういうこった。酒をたっぷり持って来たぜ。みんなに飲ませてやってくれや。」
「おおそいつはありがてぇ、ってか何で俺がここを仕切ってんだよ? お前がやれよな?」
「俺ぁ俺で忙しいからよぉ。バーンズみてえに頭と力のあるダチがいると頼りんなるぜ。なあカース?」
「なんと! さすがバーンズさん! これだけの現場を仕切ってるんですか!? すごい! 技術官僚ですか!」
ここはダミアンに乗っておいてやろう。
「おだてるなよ。俺ができるのぁ人員配置ぐれぇだぜ? 危険も多いが稼げる現場だからよ。」
そりゃあトンネル工事に関する指示なんかできるわけないわな。私だって無理だ。
「そんじゃあちょいと中に入ってくるぜ? 岩盤が落ちたそうじゃねぇか。もう復旧してんのか?」
「ちょうど最中だな。カースがいるんなら打ってつけじゃないか?」
落盤したのかな? トンネル工事って掘って固めて掘って固めてってイメージだが、どうやって固めてんだろうな。
「待ちな、お嬢。アタシらぁここまでだよぉ?」
ラグナが何か言ってる。
「あー、ローランド神教会の神官が言うにはだな、山の女神は嫉妬深いから工事中は女人をトンネル内に入れない方がいいってよ。だからラグナみてぇな美女は立入禁止ってわけよ。アレックスちゃんもかなりの美少女だからよぉ。入らない方がいいぜ?」
「うむ! 当然だな! アレクほどの美貌だ! 女神すら嫉妬する! 間違いない! よしアレク、待っててね。」
全く、女神すら嫉妬させるとは……アレクは罪な女だぜ。いや、アレクはすでに女神。そりゃあ嫉妬が止まらないわな。さすがアレクだ。
「もう、カースったら。山と森の女神シャルマーシャ様がそんなわけないのに。でも、待ってるわね。」
「ガウガウ」
カムイはトンネルなんかに興味がないからアレクの護衛だな。ありがとよ。コーちゃんは私と一緒だ。
「じゃあ行ってくるね。」
ダミアンと連れ立ってトンネル内部へ。
なるほど、どうやって固定しているのかと思ったら石を組んでるのか。これなら色んな方向からの力にめっぽう強いもんな。ふむふむ、十メイルごとに道を付けて石を組んでいるのか。
こうして歩くこと約四百メイル。足元に道がなくなり、ただの岩肌となった。視界の先では大量の岩が崩れ落ちている。そこでは大勢の人間が復旧にあたっていた。
『光源』の魔法を使う者。『風操』で換気を行う者。『浮身』で岩をどかす者。岩を収納する者。四輪車で岩を外に運ぶ者。
全員が一丸となったチームプレイか。何か手伝おうかとも思ったが、これなら必要あるまい。私が一人で全部収納してしまっては今後によくない影響を残すかも知れないしな。
「カース、お前ならあんぐらい収納できんだろ?」
「そりゃできるけどさぁ……」
「せっかく来たんだ。魔王の腕前を見せてくれや?」
「オメーが連れて来いっつったんだろうが。まあいいや。職人さーん、上の岩から収納するよ。 ちょっと任せてみて。」
「お、おお……」
岩は上から収納。これは常識だからな。
うん、上の岩を収納してもさらに崩れてくることはないようだな。ならばさっさと収納して、素早く補強をするべきだろうな。
よし、全部終わり。
「おーしゃあ! 次だぁ! これ以上崩れんように柱ぁ立てるでぇ!」
おお、職人達が張り切っている。手伝ってよかった。
見る見るうちに補強が終わった。これにて復旧作業は終了か?
「ようジブル。調子ぁどうよ?」
「ダ、ダミアン様……このような危険な場所に……」
あー、職人から見ればダミアンは雲の上の身分か。
「この度の落盤で四人ほど怪我をしました……そいつらの治療をきっちりと……お願いできますでしょうか……」
「当たりめーだ。死んでたらどうにもならねーが、生きてるうちぁ全力で助けてやるぜ。 」
「ありがとうございます……」
「それよりどーよ、こいつ。すげーだろ?」
私のことか。
「あれだけの岩を収納するとは、さぞかし名のある魔法使いで?」
「魔王だよ。知ってんだろ? 俺んダチの魔王カースだぜ。」
「どーも。魔王でーす。」
最近はすっかり自分のことを魔王と呼ぶのに抵抗がなくなってしまったな。
「ま、魔王……様?」
「昼まで使ってやってくれや。こいつは役に立つぜぇ?」
聞いてないぞ。まあいいけど。トンネル内って初めてだから興味深いんだよな。
「言ってくれたら大抵のことはできると思う。どんどん指示をくれ。例えば、ガンガン掘り進めとかな?」
落盤、肌落ちのことを考えなければ私の『水錐』の魔法はトンネル工事に向いてるんだよな。
「ほ、掘り進めることができるのですか? 魔王様の魔法で……?」
「ああ、こんな感じでな。」
『水錐』
高速回転する水の円錐だ。ガンガン掘れるぜぇー?
「な……なんと……」
ちなみにトンネルの直径は十五メイルぐらいだろうか。結構大きいんだよな。馬車がすれ違える程度の広さかな。
さーて、昼までに何メイル掘り進めることやら。
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