第1167話 カース、味噌汁を飲む

風呂から上がった私達はいつも通り寝室へ一直線。もうお互いしか見えていない。今夜から十日ほどはひたすら退廃的に過ごすのさ。ふふふ。


そうかと思ったら、いきなり寝室のドアが開いた。あら、鍵を閉めてなかったかな。


「おうカース、明日は暇か?」


「暇じゃねぇよ。アレクとだらだら過ごすんだからよ。」


「よし、暇だな。俺を工事現場まで連れてってくれ。頼んだぜ。」


ダミアンはそう言って寝室から出ていった。あの野郎……


気を取り直してアレクとイチャイチャしていたら……今度はノックの音が。誰だよ……


「開いてるよ。」


「失礼します。」


リゼットか。


「どうした? 急ぎの用か?」


「いえ、その、一言お詫びをと……」


「お詫び? どうした?」


まさか子供の件?


「あれほどカース様一筋だなんて言っておきながら……つい体の疼きに負けてしまって……そして子供まで……」


「心配するな。何とも思ってないさ。しっかりダミアンを支えてやんな。」


リゼットには悪いが私としては都合のいい展開だ。私に報われぬ想いを抱くより余程建設的ってもんだ。


「それはそれで複雑ですけどね……」


「それよりマイコレイジ商会の調子はどうだ? 何か困ってることはないか?」


例えばあのポンコツ護衛のジャンヌとか。


「ええ、幸いにしてトンネル工事もありますので好調です。ありがとうございます。」


「それはよかった。ならついでに聞いておこうか。カールスという名前は誰がつけた?」


「そ、それは……私が……」


「そうか。分かった。ここには十日ぐらい滞在するから、もしその間に何か困ったことがあったら言ってくるんだぞ?」


「はい! ありがとうございます! アレックス様、お邪魔しました!」


「ええ。頑張ってね。」


そしてリゼットは出ていった。ふう。カールスか……


さあ、今度こそアレクと二人だけの夜だ。




来ないな?


ラグナまで来るパターンかと思って鍵は開けたまま、照明もつけたままにしているのだが。来ないならいいや。鍵かけて暗くして自動防御も張って……


「アレク……」


「カース……」


ん? ノックの音が聴こえる。しまった、消音を使ってなかったか。金操で鍵とドアを開ける。


「ボス……」


ラグナかよ。タイミングが悪い!


「来るならもっと早く来いよ。どうした?」


「ボスぅ……アタシ……ダミアンの子供が欲しいんだよぉ……」


「そりゃあそうだろ。」


「どうしたらいいんだよぉ……」


知るわけないだろ!


「とりあえず教会ね。ローランド神教会で生と安産の神カーリーティ様に祈ることね。」


おお、アレク。こっち方面は詳しいんだね。


「お嬢……やっぱそうだよねぇ……アタシみたいな悪人でも、神は助けてくれるのかなぁ……」


「神の祝福は平等よ。信じる者、祈りを捧げる者に平等に祝福を与えてくださるわ。」


なるほど。神は平等か。つまりたくさん祈った者、信仰のあつい者を優先するってことだな。神らしい。


「分かったよぉ……お嬢、ボス、ありがとう……アタシ、がんばるよ……がんばってダミアンの子供を……」


ふう。出ていった。三人ともわざわざここに来なくても飯の時に言えって話だがな。まあ仕方あるまい。ダミアンも大変だな。でもこれでもう邪魔は入るまい。


「アレク……」


「カース……」


二人だけの夜が始まった。





翌日。私が目を覚ました時、隣にアレクはいなかった。風呂かトイレか。


「ピュイピュイ」


コーちゃんおはよー。起こしに来てくれたの? ありがとね。


あくびをしながら食堂に行くと、全員揃ってた。


「いよぉカース、お前にしちゃあ早ぇじゃねーか。」

「ボスぅおはよう。」

「おはようございますカース様。」

「ガウガウ」


「おはよ。みんなして早起きだな。」


「カース、おはよう。朝食ができてるわよ。」


ま、まさか、アレク?


「早起きして作ってくれたの?」


「ええ。カースに食べて欲しくて。」


うっ、この匂い……まさか!


味噌まいそ汁! 作ってくれたの!?」


「ええ、カースが飲みたいって言ってたから。」


うおお……アレクに味噌を渡しておいたのだが、まさかこんなにも早く作ってくれるとは……


「いただきます!」


うおおおおお! 旨い! さすがに前世と同じ味とは言えないが、旨い! 味噌に香辛料で味付けをしたらこうなるって感じの味わいだ。旨い!


「アレク、すごく美味しいよ。ありがとう。」


「どういたしまして。味噌まいそって不思議な食材ね。ヒイズルもなかなかやるわね。」


「行くのが楽しみだね。たくさん買って帰るとしようかな。」


「酒を飲んだ翌日にぁ効きそうな味だぜ。うめぇじゃねぇか。」


ダミアンの言うことはもっともだな。旨いなぁ。やっぱ味噌汁はいいなぁ……


私は味噌汁に夢中になっていた。これは毎日飲んでも飽きない味……いや、香辛料が邪魔かな? まあそこはこつこつ改善ってことで。

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