第1166話 ヒイズルへのルート

それからはカールスが話題の中心となった。夜泣きがどうとか、母乳の飲み具合がどうとか。特にアレクが強い興味を示していた。ダミアンの子供だけど、やっぱり赤ちゃんはかわいいよなぁ。キアラの小さい時を思い出しちゃうね。


あ、リゼットを見て思い出した。


「そうそう、リゼット。リリスが女の補充が欲しいってさ。それからこれ、リゼットの取り分。」


「わざわざありがとうございます。まあ、こんなに。」


金貨四百枚ちょっとあるそうだ。


「女の補充ですね。そんなこともあろうかと目星はつけてあります。いつ頃ご出発されますか?」


「十日後かな。前回みたいにここを出る時に受け取りに行くさ。」


「かしこまりました。それまでに集めておきますね。ところで男娼は必要ありませんか?」


うーん、それはどうなんだろう?


「リリスからは女の補充しか頼まれてないからな。必要ないな。」


幅広いニーズに応えることも大事かも知れないが、手を広げすぎるのもよくないだろう。リリスに頼まれたらその時考えよう。


「そんなら賭場はどうだ? ぜってぇ盛り上がるぜ?」


ダミアンめ。こんなことには頭が回るな。


「いい考えだな。でもきっちり仕切れる奴がいないと無理だろうな。たちまち殺し合いが起こりそうだぞ。」


「それもそうだな。うまくやれりゃあいい商売になりそうなんだがよぉ。」


「そりゃあなるだろうよ。酒に薬、賭場に女。全部揃えたら完全に名前の通りの楽園らくえんじゃないか。俺達が旅から帰ってきたら楽園エデンの本格経営に精を出すのもありだな。」


私がひとっ飛びすれば仕入れも簡単だ。誰にも真似できない最強の歓楽街ができてしまう。冒険者だけでなく、先王の街ノルドフロンテからの集客も見込めるか。まあ先の話だな。


こんな感じでわいわいとお喋りをしていたら、カールスがぐずり始めたので、私とアレクとカムイは風呂へと移動した。コーちゃんはダミアンと酒を飲み続けている。




ここの風呂も久しぶりだよな。うーん、懐かし……いようなそうでないような、妙な気分だ。


「なんだか帰ってきたって気がするわね。」


「そうだね。でもあれから一年経ったって気がしないんだよね。ずっと木の上にいたからかな。」


「私もよ。あれだけ大変だったのに一瞬の出来事のように思えるわ。不思議な体験だったわね。」


「降りてからも色々あったしね。ヒイズルではどんな事が起こるか楽しみだね。」


「そうね。あ、カース。ヒイズルでのお金はどうする? 金貨や銀貨の持ち出しは厳禁だから魔力庫の貨幣を空にしておく必要があるわ。」


「もちろん考えてるよ。フェルナンド先生によるとヒイズルでは鉄が喜ばれるそうなんだよね。だから楽園に寄った後、ヘルデザ砂漠で鉄塊の魔法を使って魔力庫を鉄だらけにしておくつもりだよ。」


「さすがカースね。ミスリルやオリハルコンも持ち出しは禁止だけど大丈夫?」


「あー、魔力庫内に少し残ってるんだよね。まあこれはこのままにしておくよ。ヒイズルで魔力庫から出さなければ問題ないし。」


「それもそうね。そこらの平民だと容易く意志を曲げることもあるけど、カースは違うものね。誰が見てなくてもカースはご定法を犯したりしないものね。」


「そう? 照れるよ。あ、それよりアレク、ヒイズルに行くルートはどうしよう? 飛んで行くかのんびり船で行くか。」


船は酔うからなぁ……


「本音はカースに飛んで連れて行って欲しいわ。でも、初めてのヒイズルだから正式なルートで入国しないと問題が出る可能性があるわね。カースは国王陛下直属の身分証があるし、私もアレクサンドル家だからどうにでもなると言えばなるけど……」


「それもそうだね。よし、なら素直に船で行こうか。バンダルゴウで適当にヒイズル行きの船の護衛依頼を受けるか、乗客として乗るかってとこかな。」


「たぶん護衛を受けるしかないと思うわ。王都のポルトホーンからだと乗客として乗る手もあるとは思うけど。」


うーん、なるほど。やっぱそうなるか。


「よし、ならバンダルゴウに行ってから決めようかな。ちょうどいいタイミングで船があるといいね。」


「そうね。そればっかりは行ってみないと分からないわよね。」


王都からだと距離が長いからな。なるべく船には乗りたくないもんな。バンダルゴウからヒイズルまで、船でどれぐらい時間がかかるんだろうな。あ、フェルナンド先生に聞いておけばよかった。どのルートで行ったのか、とか、どこで刀を買ったのかとか。


まあ何にしても楽しみだよな。ローランド王国から出るなんて初めてだもんな。わくわくするぜ。

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