第1165話 ダミアンとリゼット。そしてラグナ

「カース、ありがとう……」


「いえ、大したことでは。」


「この紙が分かるか?」


いきなり何だ? そう言われてもな……学校時代にテストなんかでよく使われてたワラ半紙以下の紙にしか見えないが。


「普通の紙ですか?」


「そうだな。そこらの平民にとっては普通の紙だ。だが、上級貴族や王族にとっては違う。とても先王様ほどのお方が手紙を書かれる際にお使いになるような紙ではない。先王様のご苦労が偲ばれる……」


なるほどね。そりゃあんなド辺境にいるんだから当然と言えば当然だが。


「だが、先王様は物資を、気遣いを、訪問を、殊のほか喜ばれておった。カース、よく行ってくれた。」


「どうも。お役に立てて幸いです。それから手紙とは別に先王様から頂いたものがたくさんあります。魔石や素材ですね。それからこれも。」


白金貨を一枚手渡す。身銭を切って開発を進める代官への私からの気持ちだ。先王からと言えば素直に受け取るだろう。


「ふっ、カースよ……嘘は良くないな。すでに退位された先王様がこのような大金をお持ちであるはずがない……」


もうバレた……バレバレだったか。


「冗談です。私からの気持ちです。色々大変だと聞いておりますので。」


「知られておったか。もはやどこからも金を借りられないほど借り尽くしてしまってな。助かる……すまぬな、カースよ。」


「私財まで投げうってると聞いております。そんなお代官様に私も心が動いたもので。お納めください。」


「ああ、ありがたくいただくさ。そしてカースよ。いつぞやも言ったが、我らはすでに同格だ。そのような堅苦しい言葉を使うものではないな。」


「あはは、そうでしたね。まあその件はおいおいと。」


それから魔石などの素材を受け渡した。代官の顔はそれはもう嬉しそうだった。どんだけ先王が好きなんだよ……




「カース、アレクサンドリーネ嬢。今回は助かった。ありがとう。」


「どういたしまして。クタナツの役に立てたなら本望です。」

「同感でございます。」


今代官が破産なんかしちまったらクタナツもヤバいもんな。そもそも公共事業に私財を突っ込むなって話だがね。


「また旅に出るそうだな。無事に帰ってきて欲しい。」


「お代官様もお元気で。破産しないでくださいね。」

「行って参ります。」


思わぬ長居をしてしまったな。





「アレク、昼から何かしたいことはある?」


「特にないわね。どこかでのんびりお茶でもしましょうよ。」


「そうなると、タエ・アンティかな。かなり久しぶりじゃない?」


「そうね。何年ぶりかしら。懐かしいわ。」




ちなみにタエ・アンティには母上だけでなくスティード君ママのサリーナおば様とセルジュ君ママのシメーヌおば様もいた。いつものお茶会か。この三人って仲良いよなぁ。


この一年の土産話も含め、茶飲み話に花が咲いてしまった。こんなのも楽しいよな。あー平和で豊かでいいなぁ。

話の流れでサリーヌおば様もシメーヌおば様も火と熱の神アグニアーマの祝福を持っていることが分かった。火の魔法の威力が結構アップしているらしいし、鍛冶屋に羨ましがられることが多いそうだ。ただ、それでも鉄を溶かすほどの威力ではないそうだ。ふふふ、私は溶かせるぞ。


夕方になる前に私達はタエ・アンティを出て領都に向かった。アレクと二人っきりでのんびりするには宿でもいいが、ここはやはり自宅が一番。久々にマーリンにも会いたいしね。心労で痩せたりしてないよな?





領都。いつもの事務的な騎士もいた。領都って感じだよな。


自宅。懐かしき自宅。うーん、植木がきちんと手入れされているね。オリバーさんありがとう。


「ギャハハハ! だからカースはよぉー!」

「アハハハハ! だからボスってさぁー!」

「ウフフフフ! だからカース様ってー!」

「オホホホホ! だから旦那様は……」


うーん、一年ちょいぶりでもいつもの光景。嬉しくなるね。


「ただいま。」

「ただいま帰ったわ。」

「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


「カース! 帰ってきやがったか!」

「ボスぅ、お嬢!」

「カース様! アレックス様!」

「旦那様! お嬢様! お帰りなさいませ!」


ダミアン、ラグナ、リゼットにマーリン。みんな元気そうだな。


ダミアン達はすでに飲みながら食べているので私達用に新たに食事を用意してもらう。酒も少々。


そして食事をしながら情報交換。


領都の状況としては……

・長男派より優位に立っている。

・トンネル工事をまあまあ安全に進めていることが大きい。

・このまま順調にいけは辺境伯の座はダミアンが得る。


頑張ってるじゃないか。

私達の状況も知らせた。


そして驚いたのが……


「こいつが俺とリゼットのガキ、カールスだ。」


生後半年に満たない男の子がそこにいた。


「かわいいじゃないか。リゼットの子なんだな?」


「カ、カース様……つ、つい、体が疼いてしまって……その、ダミアン様を襲ってしまって……」


「ふふっ、リゼットも中々やるな。おめでとう。」

「おめでとうリゼット。かわいい赤ちゃんね!」


あれ? でもいいのか?


「そういやダミアン、ラグナとの間の子供をリゼットとの間の子供にするって話じゃなかったか?」


「あぁ、そっちは今のところナシだ。」


「できないんだよぉ……アタシだってダミアンの子が欲しいさぁ……」


なるほどね。それはどうしようもないな。


まあ何にしてもこのまま順調にいくといいが。トンネル工事も、辺境伯の座も。

それにリゼットも幸せになりそうだし、嬉しいな。やはり仮面夫婦なんてよくないよな。

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