第1156話 争う魔物達
「そう。ついにあの猛毒を解毒できるようになったのね。偉いわカース。」
この歳になっても母上に褒められるってのは嬉しいもんだな。
「うん、今度はスライムの相手が大変だけどね。」
「あの毒を使えば簡単だったかも知れないわね。」
「だよね。でもまかり間違って猛毒スライムが誕生したら最悪だしね。だから毒を使う気はなかったよ。」
「賢明ね。やはり偉いわ。スライムはどう成長するかが読めないものね。一体何をどうしたらあそこまで巨大に成長するのか、見当もつかないわ。」
母上でも見当がつかないものが、私に分かるはずもない。明日はノヅチが現れることを期待しておこう。奴さえ現れたら一気に解決だからな。うすのろスライムでは太刀打ちできまい。全部吸い込まれてしまえ!
それはそうと、やたらジーンが気まずそうにしている。私は全然気にしてないのに。私を裏切ったとでも思っているのだろうか。全然そんなことないのに。むしろ私に相手にされなかったから父上に行くなんて判断の良さを褒めてやりたいぐらいだ。実現不可能なことにいつまでも関わっても未来はないからな。
その夜は何事もなく就寝。平穏でいいね。
そして朝。朝食を済ませたらアレクを迎えにアレクサンドル家まで。サービスのいいことにベレンガリアさんが御者をしてくれると言うので馬車に乗って出た。ペガサスが馬車を引くなんてうちぐらいだよな。馬車を引かない時はベレンガリアさんが騎乗しているらしい。一人ぐらいなら乗せても自在に空を飛ぶとか。楽しそうに話してくれた。
それからアレクサンドル家でアレクとカムイを乗せて北の城門へ。
「じゃあベレンガリアさん。夕方には帰ると思うから。ありがとね。」
「ありがとうございました。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
「行ってらっしゃい。あんまり無茶しないでね。それと、ジーンを許してあげてね。」
「いやいや、許すも何も少しも怒ってないし、気にもしてないよ。」
「それはそれで酷いわね。まあいいわ。カース君がそう言うなら私の判断は正しかったようね。」
むしろベレンガリアさんは父上に女が増えても平気なのか? 母上が平気そうなのは今さらか? 変な夫婦。
そしてヘルデザ砂漠へひとっ飛び。一応周囲に人気がないことを確認して……
「じゃあ、吹くね。」
「え、ええ……ドキドキするわね……」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ!」
コーちゃんは気軽にオッケーだと。カムイは片っ端から戦うと言っている。別にいいけどノヅチが現れたら戻ってこいよ?
ーーーーーーぴぃぃぃんーーーーーー…………
呪いの魔笛は誰が吹いても同じ音が出る。
そして、誰が吹いても周囲から魔物が集まってくる……
はずなんだが……
眼下に見えるスライムが普段より激しく触手を伸ばし、その周囲のイービルジラソーレが盛んに種を撃ち込んでくるぐらいだ。
乾燥を使ったり風斬を使ったりしながらやり過ごすこと五分。ようやく魔物達が現れた。まるで砂漠中から集まったために時間がかかったかのようだ。でもなぁ……雑魚ばっか集まっても巨大スライムの餌になるだけなんだよな。
地中からはグランサンドワーム、ヴェノムスコルピオン、エビルパイソンロードなど。定番の大物だな。地上からはジャッカルやコヨーテ、サンドゴーレムなどこれまた定番の魔物だ。大きくはないけどね。
そして空からは……人骨頭の鳥スカルバードの群れか。大小様々で気持ち悪っ。
カムイは下に降りて、魔物の間を駆け抜けるように戦っている。というか駆け抜けているようにしか見えない。カムイとすれ違った魔物は軒並み上下に分断されているではないか……早過ぎだろ……白い閃光ってか。
それにしてもノヅチが現れない……
下ではスライムと魔物達の争いで地獄絵図になってるってのに。
もう一回吹いてみよ。意味があるのは分からないが。
ーーーーーーぴぃぃぃんーーーーーー…………
うーん、いい音色だなぁ。
おおっ? 湖そのものと化したスライムがへこみ……大穴が……
きたぁ! ノヅチだぁー!
「よし、アレク! 逃げるよ!」
「あ、あれがノヅチ……なんて魔力なの……」
『風操』
カムイがこっちに飛び込んできたので迎え入れる。そして全速力で逃げる!
あれ? おかしいぞ?
ノヅチってあんなに小さかったか?
土管のような口は直径二十メイルはあったよな? そして半径二キロル内の物を全て吸い込みまくったはずだ。全長だって五、六十メイルは軽くあったはずだ。
それがどうだ……
見たところその半分もない……
でも、吸引力は健在。いや、あの時より凄い。全速力で逃げてるのに少しぐらいしか進んでない。これって最初にある程度の距離を空けてなかったら吸い込まれてたかもな。まるで怒り狂っているかのように暴れてるではないか。
何かムカつくことでもあったのか?
例えば、気持ちよく寝ているところを叩き起こされたとか……
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