第1155話 クタナツでの所用
楽園の南側には頑丈そうな鉄の檻があった。うーん、まだ春なのに臭いなあ。南から塀を越えた奴はこれを目の当たりにするんだよな。私に変なイメージがついてしまわないか?
よく見ると立札まであるではないか。
『これらの者、魔王カースの領内にて無法を働きし者也。よって代官リリス・キスキルにより死罪、並びに不死晒しの刑に処すもの也』
その下には全員の出身や名前が晒されていた。全員バンダルゴウ出身か。アンデッドっていつまで動き続けるんだろうなあ。ドラゴンゾンビやスライムゾンビは厄介だったけど、こいつらみたいな雑魚はゾンビになっても雑魚か。あ、よく見たら一匹は尻から喉まで串刺しにされてる。それなのに手足だけは動き続けているじゃないか。あーキモい。これは犯罪抑制には抜群だよな。リリスは本当によくやってるなあ。リリス代官、メイド服を着たお代官様か。おもしろいな。
「ねえカース。スライムはどうするの?」
「スライム?」
「ほら、スティクス湖の……」
やべ……本気で忘れてた……どうしよう……
あれだけのスライム……どうやったら退治できるってんだ? 周囲への被害なんか無視して巨大な氷山でも落としてやるか……
乾燥の魔法を使いまくってやるか……
「とりあえず行ってみようか。あれから何か変化があったかも知れないし。」
あの時は結構ごっそりと削りはしたが、あいつの全体からすると誤差みたいなもんだよな。マジでどうしよう……
うーん、改めて見ても変化なし。見渡す限りスライムの湖。とりあえず『乾燥』
うん、効く。めっちゃ効く。乾燥一回でプール一つ分ぐらいの体積が減ってるな。仮に今の分を四百立方メイルとすると……前回の概算でここのスライムの体積が三十立方キロルだから……乾燥を七千五百万回……
だめだ。やってられない。
ならばもう少し魔力を込めて……
『乾燥』
うーん、ごっそりとスライムが消えた。目分量で私の魔力庫、つまり一万二千五百立方メイルぐらいだろうか。
だとしても二百四十万回……魔力をおよそ一割も消費してこれだもんなぁ……全力でやっても二十四万回ってことになる。
無理だろ……
しかもこうしている間にもスライムから触手が伸びてくるし。これが結構厄介なんだよな。触られても魔力を吸われることはないだろうが、たぶんその部位が溶ける。くそー、めんどい! ノヅチ出てこいよ! 出てきて全部吸えよな!
うーむ、ノヅチか……
一つアイデアを思い付いた。ひとまずクタナツに戻ろう。
「アレク、クタナツに帰るよ。アレクは実家でゆっくりしてていいからね。明日迎えに行くよ。」
「そうね。たまにはそれもいいかも。そうさせてもらうわね。」
細かい用が多いことだしね。たまには別行動もいいだろう。ちなみにカムイはアレクに同行してもらった。ボディーガードを頼むぞ?
「ガウガウ」
クタナツのギルドにやって来た。組合長ゴレライアスさんに用があるのだ。
受付に伝えると、すぐに通してもらった。私とゴレライアスさんはツーカーだからな。
「スライムぁどうなったぁ? どうにかできそうなんかぁ?」
「ダメですね。お手上げです。デカすぎるんですよ。そこで組合長に相談に来ました。スパラッシュさんの笛、呪いの魔笛を貸してください。」
「ほぉ? 相変わらず無茶しやがるな。いいぜぇ、持ってけぇ。つーかもうお前が持ってていいんじゃねぇかぁ? スパラッシュさんの形見でもあるんだからよぉ。」
「それもそうですね。いただいていきます。」
話が早い。さすがクタナツの男。
「期待してんぞぉ?」
「はは、がんばります。」
よし、次だ。
「こんにちはー。」
「いらっしゃーい。」
仕立て屋ファトナトゥールだ。ここでリリスのメイド服を発注する。
「これと同じサイズ、同じデザインをお願いします。素材はこれで。」
「あらー坊っちゃん久しぶりなのねー。へぇーいつかのサウザンドミヅチねー。これでメイド服を作るとは相変わらずねー。」
この革には既にあらゆる魔法効果が付けてあるからな。自動修復に温度調節、サイズ自動調整に防汚など。無敵のメイド服になるな。
「どれぐらいかかりますか?」
「うーん、仮縫いなしで二週間ぐらいねー。代金は金貨百枚でいいよー。」
「じゃあそれでお願いします。」
代金を払って店を出る。次は鍛冶屋ラジアルだ。いつだったか私がミスリルナイフを買ったりミスリルギロチンの研ぎを頼んだ店だ。今回も頼むものは同じ、新しいミスリルギロチンの研ぎを依頼するのだ。新しいのを作ったのはいいが、長いこと研ぎに出してなかったからな。これで安心。
ついでにコバルトドラゴンの角で短剣を発注してみた。脇差よりやや長いぐらいのサイズになりそうだ。代金には牙一本で足りた。
よし、細かい用事も済んだことだし実家に顔を出そうかな。スティクス湖で笛を吹くのは明日だ。母上にあれこれ報告しておかないとな。
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