第1154話 楽園の見回り

翌日。寝室を出てアレクと食事をしているとリリスがやって来た。


「旦那様、こちら一年間の売上のうち、旦那様の取り分でございます。」


食堂の机にどんと置かれた布袋。中身は全て……金貨か。


「二千三百五十二枚ございます。お納めください。」


「これは驚いた。かなり上手くやったんだな。お見事だ。リリス、よくやった。」


やっぱ娼館って儲かるんだなぁ。しかもここで行った経済活動は全て無税だもんな。


「これも全て旦那様の雷名のおかげです。騎士すらいない無法地帯にあってほとんどの冒険者が礼儀正しく振る舞っております。ゴミを捨てる者すらほぼおりません。袖の下を要求する役人、税を取り立てに来る役人もいませんし、盗みに入るコソ泥もいません。それでも警戒はしておりますが、非常に治安の良い地となっております。何度か魔物の大襲撃にも遭いましたが、冒険者達が総力を結集して撃退してくれました。その時は一週間かけて全員で歓待したこともあります。」


「大襲撃か……大変だったな。何人か女が死んだってのはその時か?」


「いいえ、違います。心得違いの冒険者の仕業です。五人組の六等星パーティーでした。娼館中全ての女と遊んだにもかかわらず、代金を踏み倒し、すがりついた女を三人殺しました。」


なん……だと……?


「そいつらはどうした?」


「後で私が殺しました。旦那様からいただいた短剣とコートがあれば簡単でした。」


「そうか……そいつらの身元は分かるか?」


「はい。バンダルゴウの冒険者パーティー『ジャックボックス』でした。」


「なるほど。分かった。」


王都の南東バンダルゴウかよ……やっぱロクな奴がいないな。


「なおそいつらの死体は楽園の南側に見せしめとして放置してあります。」


「放置? アンデッドになってないか?」


「その通りです。とっくにアンデッドとなっております。ですから鉄の檻に閉じ込めてあります。なお、次に不埒な者が現れた場合は生きたままその檻に放り込む予定です。」


「へー。色々考えてるんだな。リリスは偉いな。大変だとは思うが、がんばってな。あ、リリス自身が欲しいものはないのか?」


「ございません。大変充実した日々を過ごさせていただいております。」


「分かった。何か欲しくなったら言えよ。例えばリリス用の豪邸とか、ドレスとかな。」


私の取り分から考えるとリリスの手元に残ったのは金貨四、五百枚。ここほどの豪邸を建てるには十年かかるが、それなりの大きさのきれいな家ならすぐにでも建てられる。


「ありがとうございます。それではおそれながら、これと同じデザインのメイド服をお願いできますか?」


「分かった。後で一着用意しておいてくれ。そのサイズで注文を出そう。」


メイド服ってところに仕事へのこだわりを感じるね。今やリリスはここの主人なのに服装はメイド服。どの素材で作ってやろうか……ここは奮発してサウザンドミヅチかな。もう残り少ないことだし。エメラルドドラゴンではメイド服にするにはゴツ過ぎるだろうしな。





それから一週間。私とアレクは口にするのも憚られるような怠惰で淫猥な日々を過ごした。ここはすでに娼館なんだから当たり前と言えば当たり前か。リリスやメイドゴーレムも私達をあれこれと世話をすることなどなく、こちから声をかけない限り放置してくれていた。おかげで非常にのびのびと過ごすことができたものだ。消音の魔法を使わなくても私達の寝室周辺には客室はないし。静かなものだ。

やはり楽園はいいなぁ。


ちなみにカムイは狩りに行ってくれた。おかげで肉にも苦労はしなかった。


そして出発の日。


「じゃあリリス、服が出来たらまた来るからな。」

「あなたもがんばってね。」

「ガウガウ」

「ピュイピュイ」


「ありがとうございます。お待ちしております。」


そう言って私達は歩く。せっかくだから掘立小屋エリアを歩いてからアンデッドを見物、それから飛び立つ予定なんだよな。


近くを歩いてみると、ただの掘立小屋から家と言っていいレベルの建物まで。こんな家をよく建てたよな。それとも私と同じように魔力庫に入れて持って来たんだろうか。


「ん? おま、まさか魔王か!?」

「なんだと!? 魔王だと!?」

「うおお! マジじゃねぇか!」

「こんなとこで何してんだぁ!?」


「なーに。ちょっと見物してるだけだ。いい家建ててんじゃねーか。一平方メイルあたり月に銀貨一枚を忘れるなよ?」


「当たりめえだ!」

「きっちり払ってるぜ!」

「宴会しねぇのか?」

「魔王はいい肉持ってんだよな?」


宴会かぁ。そういえば今回の滞在では外でバーベキューやってなかったな。


「悪いな。今回はなしだ。近いうちに帰ってくるからその時やろうぜ。」


たかられてる気もするが、こいつらもかわいい領民みたいなもんだ。楽しくやろうではないか。


「おお! 楽しみにしてっからな!」

「スペチアーレ持ってるぜ!」

「早く帰ってこいよぉ!」

「ドラゴンの肉が食いてぇなぁ……」


エメラルドドラゴンの肉があるな。


「おう、またな。」


私だって宴会は嫌いじゃないからな。こいつらとはまたアレクを褒めさせるゲームをしよう。あれはいいゲームだ。領主のパワハラって気もするが、気にしない。だって領主だもん。

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