第1087話 即位式

係の人が呼びに来た時、私とアレクの戦績は一勝一敗だった。くっ、前世では将棋がそこそこ強かったのに……やはり勝手が違うのだろうか。アレクはただの初心者ではないようだな。さすが首席で卒業するだけあるよな。

フランツはキアラに一勝だけしたようだ。


「ではみんな、行くぞ。」


私達はフランツに続いて廊下を歩き、何回か来た覚えのある王の間へ普段と違う入り口から入る。王族はこっちから入るんだろうな。


「カースか。よくぞ来てくれた。フランツと仲良くしてくれて嬉しいぞ。私も王太子となった身、そなたほどの者が出席してくれて嬉しく思うぞ。」


「お久しぶりでございます。王太子へのご即位おめでとうございます。」

「おめでとうございます。」

「ピュイピュイ」


コーちゃんまでもが祝福している。ブランチウッド王子、いやもう王太子か。こいつは安泰かな。


「兄上! おめでとうございます!」

「おめでとうございまーす!」


兄弟で骨肉の争いにならなくてよかったよな。


「ご入場をお願いします」


よし、行こうか。フランツの後に続いて歩く。おーおー、重臣どもが勢揃いか? フランツを品定めしようとする視線が集中している。かなりのプレッシャーだろうな。私は気楽なもんだ。今日は礼服すら着てない、いつものドラゴンの装備一式だし。普段着だが、カフリンクスだけオリハルコンに金緑紅石付きのやつだぜ。人差し指にはアレクとお揃いのオリハルコンの指輪だってしてるのさ。


『ブランチウッド王太子殿下! ご入来ぃ〜!』


紫の礼服に身を包んだ王太子が入場し、王座の隣に立つ。


『第十六代ローランド王国国王に即位するは偉大なる統一勇王の血を引きし王者! クレナウッド・ヴァーミリアン・ローランド国王陛下ご入来ぃ〜!』


おお……元王太子、今は国王か。なんだか体が一回り大きくなったように見える。足音もしないような軽やかな歩みなのに重厚さを感じるな。

クレナウッド国王はゆっくりと歩き、王座に座った。右隣には王太子ブランチウッド、左隣には王妃アントワーヌ。これが次代のローランド王国の体制ってことか。


国王の着席と同時に全員が臣下の礼をとる。もちろん私も、フランツも。王太子も王妃もだ。ローランド王国において『陛下』と呼ばれるべき者は国王ただ一人。前国王ですら譲位した瞬間から『先王』と呼ばれるべきであり、陛下と呼ぶのは現国王に対する侮辱ですらある。校長や代官は普通に陛下って読んでそうだけど。


「皆の者、楽にしてよい。此度は余のためによくぞ集まってくれた。そなたらの忠誠を余は嬉しく思う。さて、今から即位式を執り行なうわけだが先に聞いておこう。余が国王に即位したことに不満のある者はおらぬか? 知っての通り本日は無礼講である。本日ならば如何なる反乱も許される。例え余の首を狙おうともな?」


そうなの!? 初耳だぞ!? 極端な話、私かキアラなら簡単に王座を奪えてしまうぞ!? もちろんそんな面倒なことをする気はないけど。




一、二分の静寂を経て式は続くようだ。体感では十数分にも思えるような重苦しい時間だったが。


「ふむ。異存はないようだな。では、これより即位式を始める。トゥーサルバン!」


「はっ! 王剣承継の儀を行います! 霊代、オリヴィエール・ド・ローランド大公殿下!」


あれが新しい宰相、クタナツ代官の父親か。呼ばれた方は大公、ウリエン兄上の側室の一人デルフィーヌさんの父親か。偉丈夫といった雰囲気だ。王座横より剣を両手で恭しく抱え上げてゆっくりと歩いてきた。そのまま新国王の目の前に跪き、剣をさらに高く持ち上げた。立ち上がり、それを右手で掴み取る国王。すっと立ち上がり退場する大公。

大公がいた位置に歩み寄る宰相。同じように跪き一言「宰相トゥーサルバン・ド・アジャーニ、陛下に忠誠を誓います」そう言った。

すると国王は剣を抜き、宰相の両肩を軽く叩く。宰相は立ち上がり、元の位置へと戻った。


そこからは近衛騎士団長や騎士長、宮廷魔導士長や何とか大臣、何とか公爵や何とか侯爵など、新体制を担う幹部達や国内の有力貴族が次々と同じことをしていった。当然私達はしていない。そんな話を聞いていないこともあるが、フランツは新体制には加わってないということもあるのだろう。前に言ってたもんな。『自分は何者にもなれない』と。そりゃあタンドリア領も狙うわな。さもなくば部屋住みで終わるってわけか。


「これにて王剣承継の儀が終わりました! 続いて祝賀御列の儀を行います! 国王陛下御退場!」


国王が立ち上がると私達は一斉に臣下の礼をとる。これからパレードか。ちょっとダルくなってきたな。

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