第1086話 第二王子フランツウッド
即位式までの数日、私達は王都でのバカンスを楽しんだ。昼は海辺を散歩したり、魔法学院では魔法が反射する回路で遊んだり。夜はデビルズホールに行ったり、ゼマティス家でのささやかなパーティーを楽しんだり。
そしてついに即位式の当日となった。
「カー兄はフランツ君の所に来ておいて欲しいんだってー。」
「分かった。一緒に行こうか。」
まさか王族と同じ席に並ぶことになるのか?
まあいいや。それにしてもキアラのドレス姿とは珍しい。うーん、かわいいぞ。頭なでなで。
「えへへー!」
「キアラちゃんのドレスよく似合ってるわね。新作かしら?」
「ありがとー! フランツ君がプレゼントしてくれたのー!」
なん……だと……
あの野郎……キアラにドレスをプレゼントだと……まさか、あれか? 服をプレゼントするってことは、脱がしたいって考えてるってことか!?
「に……似合ってるぞ……」
でもかわいいキアラを褒めずにはいられない。
「えへへー! アー姉のドレスもきれいだよねー! アー姉って胸がおっきくていいなー!」
おお、もうキアラはそんなことを気にする歳になっていたのか……
「そ、そうかな……キアラちゃんだってお義母様があんなだからきっと、ねぇカース?」
おおぅ、私に飛び火してきたよ。確かに母上の胸は大きい方だと思う。アレクといい勝負かな。
「そ、そうだね。母上や姉上があれだしキアラもきっと……ね?」
姉上はアレクほど大きくはないよな。
「えへへー! そっかー! そしたらフランツ君も喜んでくれるかなー!」
なん……だと……!?
「あらあら、キアラちゃんはフランツウッド王子が好きなの?」
「うん好きー! かっこいいし美味しい料理を食べさせてくれるからー!」
なんてこった……キアラが骨抜きにされている……クソ王子め……女の落とし方まで王族か……
「そっかー。じゃあカースと王子はどっちが好き?」
アレク……嫌な質問をするじゃないか……
「うーん、どっちも好きだよー! カー兄も大好きー!」
おおおーー! キアラ! お前はかわいい妹だ! フランツの野郎が浮気したらすぐ言うんだぞ……王宮を更地にしてやるからな! 頭なでなでなでなで。
「えへへー!」
こんな話をしていたら王城に到着。門番の騎士も慣れたものだろう、キアラにも笑顔で挨拶をしてくれるではないか。馬車はそのまま進み、王宮への入り口で止まった。いつものことだが、ここからの歩きが長いんだよな……と、思ったらフランツ自らお出迎えかよ。キアラは愛されてるねぇ。
「キアラ! 待っていたぞ! よく来てくれた!」
「昨日も遊んだのにー。大袈裟だよー。」
「カースにアレックスもよくぞ来てくれた。今日は父上が国王に即位したことを王都中に広く知らしめる日だ。ここで式を終えたらパレードだ。少々長くなるが付き合ってくれ。」
パレードだと? それは初耳だ。まあいいや。
「悪いな。魔法学院に行かなくてさ。やっぱり旅って抗いがたい魅力があるね。長旅から帰ったら魔法学院に入りたいって言うかも知れないから、その時は頼むよ。」
「お招きいただき光栄に存じます。」
私とアレクの温度差がすごいな。
「ああ、キアラから聞いている。残念だが仕方あるまい。その時はむしろ魔法学院の教師を頼みたいところだな。それよりアレックスよ。そなたもカースのように気安く話して欲しいものよ。すぐにとは言わぬ。気に留めておいてくれると嬉しい。」
「御意にございます。」
分かってないじゃないか。そりゃいきなりは難しいよな。
「さあ、即位式の開始は一時間後、王の間にてだ。それまで私の部屋で寛いでおいてくれ。」
フランツに続いて廊下を歩く。キアラは隣に並んでいる。手こそ繋いでないものの二人の距離はほぼゼロ。おのれ……
それはそうと今日のアレクは地味でシックなドレスだ。存在が派手だから地味なドレスですら目立つよな。胸元にはアルテミスの首飾りも輝いているし。あぁきれいだなぁ。
さてと、フランツの部屋か。どんな部屋だったっけな。
あれ? こんなに物が多い部屋だったっけ? もっとシンプルと言うか殺風景な部屋だった気がするが。
「フランツ君あれやろー!」
あ、アレだと!? な、何をヤルんだ!?
「うむ、キアラは強いからな。だが、まだまだ負けんぞ。」
あ、なんだチェスか。私はやったことないんだよな。駒の動かし方ぐらいは知ってるが。
「アレクは分かる?」
「うーん、駒の動かし方ぐらいかしら。」
同じレベルか。
「じゃあ時間もありそうだし、ひと勝負やってみる?」
「初めてね。手加減しないわよ?」
「負けたら罰ゲームね。勝った方の言うことを聞くってことで。」
「いいわよ。面白そうね。私が勝ったら……うふふ。」
アレクの目が怪しく光る。そんな欲望丸出しの目をしなくても。かわいいんだから。
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