第1085話 王都のキアラ

王都に着いたのは昼前だった。即位式は四日後だそうだ。慌てて来なくてもよかったか……

まあいいや。まずはゼマティス家に立ち寄って伯母さんに挨拶をしておこう。宰相の座がどうなったかも聞いておきたいしね。




ゼマティス家に到着。昼すぎに到着だなんて微妙に飯時を逃してしまったな。ちなみにここゼマティス家には春休みの始めぐらいからキアラもお世話になっているらしい。王宮にお泊まりなんかしてないよな!? ちゃんと夕方にはゼマティス家に帰ってるよな!?




ゼマティス家にいたのは伯母さんだけだった。グレゴリウス伯父さんとガスパール兄さんはいつもの通りムリーマ山脈へ修業に出たと。なんと、今回はそこにシャルロットお姉ちゃんまで同行したそうだ。気合が入ってるね。即位式には出席しなくていいのか?

おまけにセグノも一緒だとか。伯母さんとしてはそれでいいのだろうか。

そして問題のキアラだが、ちゃんと毎日日没までには帰ってきているそうだ。もちろん信じていたとも。




それからは伯母さんを囲んで茶飲み話。コーちゃんは酒だけど。


「それでマルグリット様、ディオン侯爵家は結局再興が認められなかったということですか?」


アレクが伯母さんに話を振る。


「そうなのよ。あそこも親戚が多い家だから。どこの家もここぞとばかりに跡目を狙って動いたものよ。」


「それがどの家もだめだったということですか?」


「そうなの。王家の言い分はね。どこの賊とも分からぬ相手にみすみす一家皆殺しにされるなんて侯爵どころか貴族の資格すらない、再興は許さぬ。ってことになったのよ。」


うわー、さすが王家。判断が厳しいね。つーか、取り潰すのに丁度いい理由なんだろうな。フランツの奴だってタンドリア領を狙ってるって話だし。王家ってエゲツないよなぁ。


はっ? まさか母上は王家のこういった対応まで見越してディオン侯爵家を潰させたのか? あの家なら皆殺しにしても問題が出ないと読み切っていた!? さすがだわ……


そして本題。


「ああ、宰相はね。前宰相の長男トゥーサルバン様が就任されたわ。クタナツ代官レオポルドン様の父君ね。アレクサンドル家の跡目、アルメネスト様とはかなりバチバチにやり合ったみたいよ? 表でも裏でもね。」


「どのような感じだったのですか?」


アレクの聞き役ぶりはいい感じだな。さすがだぜ。


「表では騎士団同士の争いね。領境付近で小競り合い。裏では王都内や王宮内での足の引っ張り合いね。結局王都での権勢で勝るアジャーニ家が勝ったわけね。それと引き換えにアジャーニ家は領土を一部アレクサンドル家に奪われてしまったけど。」


アレクサンドル公爵領は王都の東、アジャーニ公爵領は東南。つまり、アレクサンドル公爵家は南側に少し領土を広げたってことか。


はっ!


王家が貴族同士の争いに口を出さない理由が分かったぞ! あいつらはあいつら同士で争わせておいた方が都合がいいんだ! 力を削ぐこともできるし、恨みの矛先もずらせるしな。

かぁー、王家ってマジでエゲツないんだな……

三百年以上の長きに渡ってこの大陸を支配しているだけあるよな。南の大陸は半ば植民地だし、東の島国とはちょっと危ない関係だけど。

でもそれだってフランツがタンドリアを支配するようになれば東のヒイズルにも睨みが効くよな。ちゃんとあれこれ考えてるってわけか。やっぱ王家ってすごいんだな。そんな中に入ってキアラは大丈夫なんだろうか……

急に心配になってきたぞ……


「ただいまーー!」


うおっ、びっくりした。キアラが帰ってきたのか。もうそんな時間になってたのか。


「あー! カー兄にアー姉! いつ来たのー!? コーちゃんも!」


「キアラおかえり。昼に着いたんだよ。グラスクリーク入江はキアラが頑張ったおかげでいい港が出来そうだぞ。偉かったな。」

「おかえりなさい。」

「ピュイピュイ」


偉いから頭を撫でてやる! ほーれわしゃわしゃ!


「えへへー! 海って面白いよねー! だーい好き!」


「面白いよなー! 海は広いし大きいもんな!」


月は登らないけど日は沈むもんな!




それからキアラを交えての夕食となった。ここの二男のギュスターヴ君は相変わらず寮暮らしのようで春休みだからって帰って来てないようだ。それじゃあ伯母さんも寂しいよな。キアラがいてよかったね。


それはそうと、明日から暇ができたことだし。王都であちこち訪ねてみようかね。

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