第1081話 校長と組合長
選抜や物資の搬入も終わり、いよいよ明日、船は出港することになった。
そんな夜、どこかしめやかに送別会が行われていた。ただみんなで酒を飲んでるだけだが。
「母上、困ったら東に行くのよ? カースの街があるからね。」
「イザベルったら。私達はもう長くないんだから無駄な心配はいらないわ。」
おばあちゃん……悲しいことを言うなよ……
「お義母様、いつまでもお元気でいてくださいね。たまには遊びに行きますから。」
「まあアランは来てくれるの? 嬉しいわぁ。楽しみにしてるからわね。」
父上の魅力は歳上女性をも魅了するのだろうか。
「父上もあんまり母上に負担をかけないのよ? もう若くないんだから。」
「ふん! ワシは今が絶頂期じゃ! だいたいワシもアンヌも陛下のためなら労も命も惜しまぬわ!」
おじいちゃんは母上の前だとツンツンしてんのね。
「お義母様が未亡人になっても俺が面倒みるから気にすんなよジジイ。」
「やかましい! お前こそ死んだらイザベルに最高の縁談を用意してやるわい!」
おじいちゃんと父上……面白いわー。
あちこちで別れを惜しむ会話がなされる中、代官は国王に取り付いて「ご無事で……ご無事で……」と泣きそうな声で百回以上言っていた。意外に泣き上戸かよ。
ちなみに私とアレクは組合長、校長と飲んでいる。
「ほおぉ、お前あそこをサベージ平原って名付けたんか。まあ悪くねぇ名前じゃあ。」
「そうですね。今まで誰もあそこをただの中間地点としか見ていませんでしたからね。北はノワールフォレストの森、南はヘルデザ砂漠。束の間の安息地ではありますが。」
「ども。東半分はいただきました。手ぇ出さないでくださいね?」
「カースったら陛下の先回りをするなんて、さすがだわ。最高よ。」
いやいや、そりゃあ誰でもやるさ。放っておいて楽園まで取られたらたまらんからな。
「ピュイピュイ」
コーちゃんは酒に夢中だ。
「おおそうでした。マーティン君、あれから棍術は鍛錬しておりますか?」
「押忍、教わった基礎の動きだけはコツコツとやってます!」
クランプランドに頼んでいたイグドラシルの木刀と棍も入手したんだよな。思ったよりは重くない。木の棒以上、鉄の棒未満ってとこかな。
「ふむ、では見せていただけますか?」
「押忍!」
校長自らチェックしてくれるのはありがたい。デル先生から習った回転の動き、校長から習った突きを披露する。
「ふむふむ。まだその棍を手に入れてから間がないようですね。手に馴染んでおりません。魔力の通り具合もよくないですね。ですが、回転の動きは悪くないですよ。その調子で鍛錬を欠かすことのないよう精進してくださいね。」
「押忍! ご指導ありがとうございます!」
バレバレかよ。これを手に入れてまだ一ヶ月も経っていない。ちなみに木刀の方は『修羅』、棍の方は『不動』と名付けた。
「それよりマーティン君、その木材は一体何ですか? 私としたことが、見覚えがありません……」
さすが校長。違いが分かる男だぜ。
「イグドラシルです。山岳地帯に住むエルフから貰いました。」
「なんと……イグドラシル……神木イグドラシルですか……握っても、よろしいですか?」
「ええ、どうぞ。」
校長は私から両手で受け取り、感触を確かめている。
「なんということでしょう……この吸い付くような使用感……マーティン君、君が思いつく限りで最高の防壁を見せてくれませんか? これで突いてみますので。」
「押忍!」
最高と言われたか……魔力全開自動防御でもいいが……よし、あれでいこう。
『氷壁』
ただし中にムラサキメタリックの鎧が入っている。もちろん氷にも魔力を込めまくっているぞ。一辺が二メイルの立方体だ。
「ありがとうございます。ではいきます。」
校長はゆっくりと呼吸を整えて、不動を構え……
『
マジか……長さ二メイルの棍、不動が一メイルは突き刺さっている……しかも鎧を貫通して……
「ふう……疲れました。いや、素晴らしい棍です。これならばエビルヒュージトレントやベヒーモスにも通用するでしょう。マーティン君もぜひ挑戦してみてください。」
「お、押忍!」
槍じゃないんだぞ? 先が平面、直径三センチの円なんだぞ? それがどうしてここまで刺さるんだよ。校長は膝をつき、呼吸が荒いのに。どこからそんな力が出るんだよ!
どうやって抜こう……とりあえず氷壁を解除するかな。
「待てやぁ。せっかくじゃあ。ワシの技も見せてやるぜ。せいぜい驚けのぉ?」
「はぁ……」
今度は組合長かよ。そんな酔った状態で……
刺さったままの不動の反対側に手の平を当てているが……寸勁? 掌底?
『
なっ!? 鎧や前側には変化がないが、鎧の後部周辺の氷にヒビが走っている!?
「ちっ、さすがじゃのぉ……そんだらもう一発じゃあ!」
『
後ろの半分が粉々に砕け散ってしまった……ドラゴンの咬合力にも耐える氷壁なんだぞ!?
「どうじゃあ? ワシぁすげぇだろ?」
「押忍! さすが組合長ですね! 伝説の男ですよね!」
「大抵は私がトドメを刺すのですが、私の槍でも死ななかった魔物にはドノバンがこうしてトドメを刺すのです。ベヒーモスもこうして倒したものですよ。」
なんと。そうだったのか。すごいな……
「勉強になりました! ご指導ありがとうございます!」
不動を使いこなせればあのような威力が出せることが分かった。古いタイプとは言えムラサキメタリックの鎧をも貫通したんだからな。私も頑張らねば。
あ、ムラサキメタリックで思い出した。あいつらに聞いておきたいことがあったんだよな……
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