第1017話 七等星昇格試験 最終試験 中

ふーん。収納はだめか。建前は想像つくが一応聞いておこう。


「理由をお教えいただけますか?」


「おや? 魔王様ともあろうお方がお分かりになりませんか?」


「無理にとは言いませんが確認は大事ですからね。建前で構いませんからお教えいただけますか?」


「ふふ、そうですか。名前に似合わず慎重なお方で。理由は簡単、あなたの信用です。いったん魔力庫に収納したからには完全にあなたの物となります。そうしますと中身を取り出した時、元通りという保証はありません。また、目的地に着くまでにあなたが死なない保証もないですな。魔力庫の設定をどうされているか、こちらには確かめようがありませんからな。」


やはりそうか。貴族は普通、自分が死んだら中身も消滅する設定にしてるからな。私はもう貴族じゃないってのに。

まあ、言うだけ言ってみるか。


「保証金として白金貨一枚渡してもいいですよ。もちろん到着時に荷物と引き換えに返していただく約束ですが。」


「ほう。それは剛毅なことですな。しかしながら……」


えらい溜めるじゃないか。さっさと言えよ。


「ダメですな。世の中には金であがなえないものがあります。分かりますな?」


「信用ですね。いくら数倍の保証金を貰おうとも、必要な現物が失くなってしまえば何の意味もない。そうですね?」


面倒くせぇなー。確認するだけのつもりだったからいいけどさぁ。どうせ本音はそれじゃあ試験にならないからだろ? まったくもう。


「その通りですな。いやぁ飲み込みの早いお方でよかったです。さすがは魔王様。頼りにしてますよ?」


もう一つ手があるんだけどね。誰が十日もかけてあんな所まで歩くかよ。こっちは体調が悪いってのに。



「やあやあお疲れお疲れ。僕がここの担当だよ。よろしくね。」


ん? こいつは確か……


「ふ!? 副長チワっす!」

「やだ! 副長! やったー! こんにちは!」

「やったね! まさかの副長だね! よろしくお願いしますね!」


そうだ。副組合長だ。通称副長なのか。えらい人気だな。こいつは少し気に入らないが世話になったことだし気にせずやろう。


「やあカース君。この前はどーも。僕の情報は役に立ったろう?」


「ああ。助かった。ありがとう。」


「それなのに君ったらさ、大したことないんだね。ガッカリだよ。あんなに殺してさ。」


何だこいつ?


「何が言いたい? 殺しちゃ悪いのか?」


「やれやれ。しょせんは十五歳だね。いいかい、よく考えてごらん? あんな状況なんだ。敵だろうが味方だろうが何人殺そうとも、そりゃあ問題ない。ああ、問題ないさ。でもね? 後の苦労を考えたことはあるのかい? 騎士団が捜査しようにも証拠がなくて困り果ててるんだよ? 頭目かあの姉妹の誰か一人でも生かしておけばさぞかし捜査が楽だったろうね? そうは思わないかい?」


ちっ、全く正論だ。言い返せない。


「そうだな。副組合長の言う通りだ。次からは考える。考えた結果、皆殺しにするかも知れないがな。」


せっかく生かしておいた盗賊もアイリーンちゃんが殺してしまったもんな。そりゃ騎士団も苦労するわな。よし、反省。


「ふっ、分かってくれたらいいさ。さあ、いつ出発するんだい? まずは計画を聞かせてもらおうかな。」


「悪いが計画も何もない。今すぐ出発する。この全員が無傷でサヌミチアニに着けばいいんだろ?」


「もちろんそうさ。」


よし。言質はとった。もう文句は言わせないからな。


「インダル、馬車から荷台を切り離してくれ。」


「お、おう!」


「ちょ、ちょっと! 魔王さん! 魔力庫への収納はダメだと言ったじゃないですか!」


「手代さん。分かってますよ。もちろんそんなことはしません。でもね? あなたとしては十日かけてサヌミチアニに着くよりも、一時間で着いた方が助かるんじゃないですか? 道中の苦労をお考えください。」


「そ、それは分かってますとも! その上で収納は認められないと言っているのです。」


「分かってますよ。こちらもそんなことはしないと言いましたよね? 黙って見ててください。」


「おう魔王、終わったぞ!」


よし。準備完了。


「よし、ではみなさん。これに乗ってください。」


地面にミスリルボードを出す。さすがに荷台は乗せられないが人間五人には広すぎるぐらいだ。


「これは……ミスリルかい? なんと無駄な使い方を……」


副組合長の言うことも尤もなんだがな。別になくてもいいのに、私が落ち着かないってだけで使っているのだから。


それから『快眠』

馬は眠らせてからミスリルボードの上に寝かせておく。空中で暴れられたら困るからな。


「よし、乗ったな? じゃあ行くぜ。」


『金操』

『浮身』

『風操』


とりあえず城門に行かないとな。


「お、おい魔王……マジか!? マジでこのままサヌミチアニまで行く気なのか?」


「ああ。特に問題はない。夕方までには余裕で領都に帰れるぜ。」


女の子二人は黙り込んでいるようだ。高さにビビっているわけでもなさそうだが。


よし、城門に到着。手続きも済んでいよいよ本気で行くぜ。


『風操』

『風壁』


一時間とかからずサヌミチアニに着いてやるよ……

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