第1016話 七等星昇格試験 最終試験 前

結局解答には……


『群れを全滅させて獲物を収納してから飛んで帰る』にした。模範解答はどうあるべきなのだろうか。普通に考えれば逃げの一手しかないはずだが……あんな所から歩いて帰ったら何週間かかるんだよ……


「おっしゃあ、そこまでじゃあ! そんじゃあ訓練場で待っとけやぁ! 腹が痛ぇ奴ぁポーションでも飲んどけぇ!」


ほぼ全員が苦しそうにしてるもんな。私もガチガチに防御を固めてなかったら、朝飯を全部吐いてたんだろうな。全く、怖いおっさんだわ。あれで引退間近とは……




採点にはまだ時間がかかるだろう。ならば、やはり隅で錬魔循環をしていよう。この体調を早く治してしまわないとな……朝の一撃で悪化してないといいのだが。


「おう、ちょっといいか?」


珍しく声をかけられた。


「いいぞ。どうした?」


「お前、魔王だよな?」


「まあ、な。」


最近こうやって聞かれることが増えた気がする。似た服装が多いからか? でも偽物がいるとするならそいつも、そうだ、と返事をするのだろうか。


「俺は八等星パーティー『雷神の槌ドルイーンマートル』のインダルってモンだ。」


雨と雷の神、ドルイーンか。トールハンマーって言いたいところだが。


「カース・マーティン。で、用件は?」


「次の試験だが、俺らと組まないか?」


「組む?」


「そうだ。さっきの筆記試験からすると次ぁ五人組を組まされて護衛の真似事でもさせられるんだろうぜ。俺らぁ三人組だからもう二人集めておこうと思ってな。」


「なるほど。その必要があるとは思えんが暫定ってことでいいなら。もし他で埋まったら俺のことは気にしなくていい。」


「頼むぜ。もう一人集めておくからよ。」


「ああ、頑張ってくれ。」


あんな奴もいるんだな。ちゃんと先のことを考えて、偉いな。九等星試験や八等星試験のことを考えたら確かに問題通りのことをさせられることだろう。傾向と対策だな。




三十分後、組合長の姿が見えた。呼ばれる前に近寄っておくか。おっ、みんなそそくさと集まってる。いい動きだな。


「おらぁ! そこのおめぇ! さっさと来いやぁ!」


私のことだったりする。歩いてるもんで……


「おーし! そんじゃあ筆記の合格発表じゃあ! つーてものぉ、ここにおる十二人が全員合格じゃあ!」


ほほう。後から試験を受けた者もちゃんと合格したのか。やるなぁ。


「それじゃあ最終試験じゃあ! おめぇらを四人ずつ三組に分けた! その三組で護衛を受け持ってもらう! もう分かってんだろぉ? 行き先ぁホユミチカ、護衛対象は馬車二台と人間二人じゃあ! うち一人はギルドの職員じゃあ! おらぁ! 名前を呼ばれたもんからこっちに並べぇ!」


あらら。さっきのあいつ、せっかく組を作っていたのに。ギルド側もお見通しってことか。


「二組目! カース! インダル! ミラノ! スカーラ! お前らの担当はこの馬車じゃあ!」


おや、これは偶然。さっきのあいつと同じ組になってしまった。残り二人は女の子か。


「よう魔王。奇遇だな。よろしく頼むぜ。」


「こちらこそ。そっちの二人はお前んとこのメンバーか?」


「いや違う。だが知ってるぜ。久しぶりだな、ミラノにスカーラ。」


「久しいねインダル。で、そっちの舐めた服装のガキは本物の魔王とでも言うつもりかい?」


「俺のことか? 誰が言い出したのかは知らんがな。確かに魔王と呼ばれてるな。魔王でもカースでも好きに呼んでくれ。」


「ウチは見覚えあるよ。領都一子供武闘会に出てたよね?」


「ああ、出てた。優勝とはいかなかったがな。」


「で、どうすんだい? リーダーは魔王様がやるってのかい?」


ミラノって言ったかな。素直じゃないなあ。赤い髪に勝ち気な瞳。見た目と性格が一致してるのか?

スカーラの方はオレンジ色か。ソバカスなんか付けちゃって。素朴でいいねえ。よし、にんじんちゃんと呼ぼう。


「それでも構わんが、一応詳しい話を聞いてからだな。場合によってはインダルがリーダーをした方がいいかも知れないな。」


「俺が? 勘弁してくれよ。魔王のいるパーティーのリーダーって。荷が重すぎるぜ?」


「魔王さんの言う通り、ルールを確認してからでいいよね。なんせあの問題通りだとしたら今からサヌミチアニまで行くことになるんだからね。焦っても意味ないよね。」


にんじんちゃんの言う通りだ。楽をさせてくれればいいのだが。


「若手のみなさん。よろしくお願いしますよ。私、アジャスト商会の手代でリック・バスランと申します。」


「八等星カース・マーティンです。よろしくお願いします。」


一応護衛依頼って形だからな。敬語ぐらい使うさ。


「インダル・トウインだ。」


「ミラノ・ロンバルドよ。」


「ウチはスカーラ・ベクトリーキナーですね。」


こいつらは使わないのかよ。


「おやおや、これは頼もしいみなさんですな。これはもうサヌミチアニに着いたも同然ですな。」


手代の発言に気を良くしたのかインダルは。


「おうよ。なんたって魔王がいるからな。盗賊でも剣鬼でもドンと来いってもんさ。」


「バカ野郎、呼び捨てにするな。剣鬼様、もしくは先生って呼べ。」


これは譲れないことだからな。


「お、おお、悪ぃ。剣鬼先生だな。」


ちなみに今の発言を聞いても手代は平然としている。つまり私のこともちゃんと知ってるってわけだ。アジャーニ家、アジャスト商会だもんな。


「では手代さん。具体的な方法ですが、その荷物、全て私の魔力庫に収納するというのはいかがですか? もちろんバラけないよう荷台ごとです。」


「ダメですね。ありえません。」


手代はあっさりと切って捨てた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る