第1015話 七等星昇格試験

サラスヴァの日。目を覚ますと、体中が痛かった。寝ている間に魔法が切れたのだろう。それでも一日前よりはマシな痛みだ。


『無痛狂心』


ふう、痛みが消える。これで歩くには問題ない。七等星昇格試験か……どんなことをするんだろうな。




さて、朝食も済ませたことだし行くとするか。今日はコーちゃんとカムイはお留守番ね。


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


別に連れて行ってもいいのだが、絶対退屈だろうからな。




さて到着。昇格試験の会場は……訓練場か。まずは実技からだな。


まだあんまり集まってないな。少し早く来てしまったか。知った顔は……ないな。隅で座って錬魔循環でもしていよう。


十五分もすると、続々と集まってきた。やはり私が早かったのか。全部で五十人ってとこかな。




ん? なぜあの人が?


「おらぁ! ヒヨッコども! こっちに集まれやぁ!」


組合長だ……隣の女性は? 見たような気がするな。

集まったやつらも、誰だ? って顔しながら動いていく。


「ワシぁクタナツギルドの組合長ドノバンじゃあ! ちぃと事情があってのぉ! お前らの面倒みてやるからよぉ! ありがたく思えやぁ!」


ふーん。どんな事情なんだろうね。


「さぁて、最初の試験だがのぉ。お前ら横一列に並べ。おらぁ! 早くしろや!」


なんだなんだ?


「今から腹ぁ殴るからのぉ! せいぜい気合入れて耐えてみろや! 立ってた奴ぁ通過じゃあ!」


マジかよ……他の奴らは……楽観視している。


「へっ、俺の鎧ぁミスリル合金だぜ? 安もんだけどよぉ!」

「俺の革鎧もブルーブラッドオーガのいいとこ使ってんぞ?」

「俺もだぜ。あのジジイ拳壊すぜ?」

「へへっ、何が組合長だよなぁ? 領都のギルドを舐めんなって話だぜなぁ?」


私は自動防御全開だ。スティード君のテンペスタドラゴンの短剣でも跳ね返すぐらい。ウエストコートの下に……


「おう、いくぜぇ?」


組合長は端からポンポンと軽く殴っていく。まるで仲良し同士の挨拶であるかのように。

そして殴られた冒険者達は……


「ウゲロボボオォオ!」

「ゲァボァガァァァ!」

「ガッバァァァッ!」

「アギャブァァアッグゥ!」


当然そうなる……


「おらぁ! 気合が足りねぇぞ! 次ぃ!」


「押忍!」


くそ、私の番だ……


「おらぁ!」


ぶっ飛ばされた……なんで私だけ、酷い……


しかし腹は無傷だぜ。痛くもなんともない。無痛狂心を使っているからだろうか? 吐き気もないから防ぎきったと見ていいだろう。でもしばらく横になってよう。




「おーら終わりじゃあ! 三分以内に立てん奴ぁ不合格じゃあ! マリアンヌ、数えとけや!」


「はぁい!」


思い出した。実況やってた黒百合さんだ。


一分経過。まだ誰も立ち上がらない。


二分経過。一人、二人立ち上がろうとしている。


そろそろ私も起きるとしよう。


三分経過。見たところ八人が立ち上がった。


「こんだけかぁ? 領都の冒険者はヌルいのぉ。まあええ。次ぁ筆記じゃあ。おう、寝てる奴らぁ! 筆記が受けたきゃ来いや! 終了時間は変わらんけどのぉ!」


なるほど。意外と優しいところもあるんだな。




私はと言うと、体の動きがぎこちない。しかし痛みはないため頭は回る。


「おらぁ! さっさと座れや!」


窓際に座ろう。目の前が組合長だなんて暑苦しいからな。


黒百合さんが問題を配っていく。




「始めぇ!」


ふむふむ、四択か。楽勝だな。




さて、残り二問は記述か。どれどれ。


『あなたは急遽八等星五人で護衛依頼を行うことになった。護衛対象は馬車二台に積まれた荷物と荷主、そして荷主の娘である。領都を出てサヌミチアニまで行かなければならない。期限は十日だとして依頼遂行への計画を立てよ。』


八等星の手に負える依頼じゃないじゃん。あっち方面は盗賊が多いって聞いてるし。解答は断るじゃあだめなのか? 仕方ないからごり押しで答えを書いてやる。


『荷物を全て魔力庫に収納する。当然信用が必要となるので保証金として白金貨一枚を荷主に預けてもよい。荷主と娘はホユミチカまで送り届けるが、他の護衛はその場に放置してもいいし、同行させてもよい。』


これってまんま先日スペチアーレ男爵の所に荷物を運んだ時のパターンだな。ただの筆記テストならば大間違いと言われそうだが、どうせこの後実現可能かどうかやらされるんだろう。これが正解ってところを見せてやるさ。




さて、最後の問題は……


『あなたはムリーマ山脈の中東部でブルーブラッドオーガの群れに囲まれた。生き残るための最善の方法を答えなさい。なお、群れにボスはおらず、あなた達は八等星の五人組パーティーとする。』


これも無茶すぎる問題じゃん。八等星パーティーがムリーマ山脈の中東部まで行けるかよ。行くまでに全滅してしまうぞ。まあいいや。行けたとして生き残ればいいんだよな。

仮に私とアレク、スティード君とセルジュ君、そしてサンドラちゃんだとしたら……楽勝すぎる……

アレクが魔法を使えば一人でほぼ勝てるし、スティード君でも同様だろう。セルジュ君も一人で対応できると見た。さすがにサンドラちゃんだと厳しいかな。うーん、答えは何て書こうか……

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