第974話 大会終わって
外に出る人が減らない。このままでは私達も出られないぞ。何やってんだ?
ようやく人が少なくなってきた。そろそろ出るとしようか。
「何事なんだろうね。さっさと帰ってればよかったかな。」
決勝やら表彰式なんか見なければよかったか。
「おかしいわね。あれ? 領都騎士団かしら? 検問?」
こんなところで検問? ここにも騎士はいるだろうに。
「次!」
「何事だ?」
「黙って身分証を出せ!」
ふーん。ほれ、国王直属の身分証。この紋所が目に入らぬか。まあ紋所じゃなくて紋章だけど。ちなみにアレクは学生証を見せている。
「ぬっ貴様、魔王か。いい、行け!」
「どーも。」
結局何だったんだよ。クソ針が死汚危神もどきをばら撒いたからその捜査か? 遅いだろ。いや、効率を考えたら出口は全員通るわけだから悪くないのか? ダミアンの指示とは思えないが。
それにしてもあの毒にエリザベス姉上は殺されかけたんだよな。天空の精霊に祝福を貰っておいてよかったわー。大勢の人間がくらってしまったらエルフの飲み薬が何本あっても足りないもんな。それにしてもあれだけ苦労して手に入れたエルフの飲み薬がなくても解毒できるとは……これがインフレってやつか? つまり、あの時の正解はフェアウェル村ではなく、天空の精霊を訪ねればよかったのか……? そんなの分かるかよ!
コロシアムの外でセルジュ君やスティード君と別れ、キアラとシビルちゃん、ベレンガリアさんを城門まで送っていくことになった。セルジュ君は妹を見送らないのかよ!
「カー兄じゃーねー! 秋の大会見に来てよー!」
「アルさんによろしくっす!」
「じゃあねカース君。奥様には内緒にしておいてあげるからね。」
しまった……秋の大会があったな。代官から表彰するって言われてたやつだ。もうすぐじゃないか。すっかり忘れてた。
「ああ。行くけど、まさかキアラ、出るのか?」
「出るよー。剣術と学問と魔法全部ー!」
え!?
「ちょ、マジで!? 全部門に!?」
「そうだよー。当たり前じゃーん。」
なんてこった……これが本物の天才なのか……まさか剣でスティード君より強いってことはないよな? ないよな? 今度父上に訊ねてみよう……
私が呆然としている間に三人は飛び立ってしまった。キアラは一体どこまで……
「ガウガウ」
おおカムイ。今日はずっと大人しくしていたな。退屈だったろ。別に活躍してくれてもよかったんだぞ。クソ針なんかを相手に。
「ガウガウ」
どうせ放っておいても死んだって? 確かに死んだよな……死臭か何かを嗅ぎつけたんだろうか。
「さあて帰ろうか。お腹も空いたしね。」
「ええ、マーリンがご馳走を作って待ってるはずよ。」
「その通りでございます。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
あ、スティード君にムラマサをプレゼントするのを忘れてた。またでいいや。
そんなことを考えていたら我が家の正門前にスティード君とバラデュール君、アイリーンちゃんが待っていた。さっき別れたばかりなのに。いいタイミング。
「ごめーんカース君! 用があるのを忘れてたよ。」
「いいよ。何事?」
「実はね……」
あらあら、クワナと賭けをしてたんだ。それで負けてしまったから律儀に私にムラマサの返還を頼みに来たと。頼むだけなんだから適当に口先でお願いすればいいのに……そんなに熱を込めて一生懸命お願いしなくても……
スティード君たら真面目なんだから……
「スティード君、これなんだけど……」
「え!? いいの?」
「よくはないよ。いくらスティード君の頼みでも無理なものは無理だからね。でも奇遇だよね。このムラマサだけど、二本あるじゃない? だからスティード君に一本あげようと思ってたんだ。お揃いだね。」
「カ、カース君……!」
あーあ。お人好しのスティード君のことだ。せっかく手に入れた刀をクワナに渡してしまうんだろうな。そう言えば刀って
「それよりせっかく来たんだから食べていかない? たぶんご馳走だよ。」
「ありがとう! でもごめんね。騎士学校の後輩達が色々と準備してくれてるらしいんだ。じゃあカース君またね!」
「うん、またね。クワナによろしく。あ、アル君にシビルちゃんがよろしくだって。」
シビルちゃんはアル君狙いなのか? 相手は名門上級貴族だぞ?
「あはは、言っておくよ。」
「じゃあな魔王」
「カース君またな。アレックスはまた明日だな。」
アイリーンちゃんの『またな』は『また対戦しよう』って意味だな。昨日も今日も当たらなかったもんな。
さて、この夜はいつも通り特筆することもない楽しい、そして熱い夜だった。明日からまたしばらくアレクには会えないからな。いやが上にも盛り上がるってもんだ。でもアレクは明日から学校だからな。早く休ませないと。
休ませないといけないのに……
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