第973話 決勝、そして表彰式

決勝戦は予想通りクワナが勝った。激しく攻めるセキヤを物ともせず、的確にカウンターを決める。それが積み重なり、とうとうセキヤが倒れた。クワナも汗びっしょりになってはいたが無傷での勝利となった。


『優勝は! クワナ・フクナガ選手でーす! 皆さん! 盛大な拍手をお願いしまーす!』


結局クワナに傷を付けたのはスティード君だけか?


「これより表彰式を行います。選手の皆さんは武舞台の周りにお集まりください」


よし、行くか。つーか、残ってる奴なんているのか?


『大会委員長ダミアン・ド・フランティア様よりご挨拶申し上げます。』



ダミアンは武舞台に現れ、会場を見渡してゆっくりと発言する。


『領都のみんな、二日に渡るこのお祭りによく来てくれた。子供武闘会とは名ばかりになっちまったがそれなりに盛り上がり、楽しめたと自負している。二年ぶりのお祭りだったが、毎年やれたらいいと考えているところだ。俺が辺境伯になったらお祭りだらけの領都にしてやるぜ! それも一種のフランティアスピリットだからな! そして優勝したクワナ選手。ただ優勝するだけでなくスティード選手に勝った上での優勝だ!王国一を名乗るには不足だが、領都一なら名乗っていいぜ! 俺が認めてやる! 優勝おめでとう!』


おおー。拍手喝采だ。今日一番の盛り上がりだな。色々あったけど終わりよければ全て良しだよな。


『続きましてサテュラ・ド・フランティア様より賞品の贈呈を行います。クワナ選手は前に出てください。』


おずおずと前に出るクワナ。さすがにこんな場には慣れてないだろう。


『皆様、お疲れ様でしたの。名勝負の数々に女としての喜びを感じておりますの。では賞品を贈呈いたしますの。まずは大金貨一枚ですの。』


あら、クワナのやつ正座しやがった。ヒイズルの文化かな?


『あらあらクワナさん。立ち上がってくださいの。私、あなたの堅実な戦い方が気に入りましたの。いきなり婚約も悪くないのですが、まずはお食事でもどうですの?』


「はっ! はひぃ!」


おお。意外といいカップルになるのかな。クワナは十七歳、サテュラちゃんは十三歳ぐらいか?


『みんな! 二人に祝福の拍手を!』


「死ねー!」

「サテュラたーん!

「爆発!」

「星明かりのない夜は気をつけろよ!」

「イケメン許さーん!」


拍手に変な声まで混じってやがる。あの子って人気なんだな。


『それから副賞だぁー! リゼット、頼むぜ!』


おっ、ついにリゼットの出番か。ほう、シックなグレーのドレスか。さすがにサテュラちゃんより色気は数段上だな。


『みなさんこんにちは。マイコレイジ商会のリゼット・マイコレイジでございます。優勝したクワナ選手には当商会より『ベイルリパース』のペアお食事券を贈呈いたします。ぜひ、サテュラ様とご利用くださいませ。』


おおー。これはいいなあ。いい副賞だわ。ベイルリパースか……最近行ってないな。


『最後に大事な知らせだぁー! 俺はこのリゼットと結婚する! リゼットが俺の正室だ! 祝福してくれやぁーー!』


うっわ、盛り上がりすぎだろ……終盤になってこの歓声、ダミアンめ、すっかり人気者になったもんだ。


『式についてはまた知らせるからなぁー! そん時も改めて祝福してくれやぁー! お前ら最高の領民だぁー! お前らみたいな領民がいて俺ぁ幸せだぜぇーー!』


とても領主の息子がする挨拶ではない。それなのにこの人気ぶり。長男や五男が殺しにかかるのも無理はないのか。ほんの二年前、前回の子供武闘会をやるまで嫌われてた奴とは思えないな。


『ところでお前ら、感じてるか? 時代が動いていることをよ? 国王陛下は退位を表明され、クタナツの北には新たな街が出来た。実に百年ぶりにだぞ? そして国王陛下はそのさらに北に街を拓こうとされている。それはここフランティアでも同じことだ! まだ言えねぇがとんでもねぇ計画が動こうとしている! そのためにはお前たちの力が! お前たち一人一人の力が必要なんだ! 今領都は魔物の襲撃でかなりの被害をくらってしまった。だが、最悪じゃねえ! カースのおかげで最悪の事態は免れたんだ! お前ら信じられるか!? カースはたった一人で領都の南を守ったんだぞ!? 地を這う魔物の群勢から、無数のワイバーンから。そして二匹のドラゴンからな! それだけじゃねぇ! 時代が動き出した原因はカースなんだ! 国王陛下の退位も! 草原の街ソルサリエも! 時代を動かしたのはカースの仕業だ!だがな! いくらカースでも無理なもんは無理だ。手は二本しかねぇ! だからこそ! お前たち領民の力が要るんだ! 俺に! フランティア家に! お前たちの力を貸してくれ! 期待してるからよ! 頼むぜぇぇぇーーーー!』


すごいな……会場が一体となってしまった。話術一つで五千人近い群衆を自分の味方に変えてしまいやがった……なんて奴だ……

もう時期辺境伯はダミアン以外あり得ない空気になっている。一体どうなってしまうんだ?


「ダミアン!」

「ダミアン!」

「ダミアン!」

「ダミアン!」

「ダミアン!」

「ダミアン!」

「ダミアン!」

「ダミアン!」

「ダミアン!」

…………………………

………………

…………

……




数分だったか、数十分だったか。ようやく歓声が収まった。子供武闘会も終了だ。帰りたいところだが、今すぐ出たら外はかなり混んでるはずだ。少しのんびりと待つとするか。


ん?


外がやけに騒がしいが……

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