第972話 カース VS セキヤ

『大変長らくお待たせいたしました! ようやく準決勝第二試合を行いまーす! 一人目はぁー! 控え室でスティード選手にボコボコにされたものの! 見事な回復力で蘇った! 自称ヒイズルの勇者! セキヤ・ゴコウ選手ぅー!

対する二人目は! ダミアン様の指名もあってしぶしぶ参加した魔王ことカース選手ぅー! 前も見えないほど顔中が傷だらけでしたけど、もうすっかり治っております! しかし消耗した体力までは戻らなーい! ヒイズルの勇者を相手にどうする魔王!?』


『おや、賭け率だが……三対二。少しだけセキヤ選手が優勢だな。剣の腕は確かなようだからな。』


『静かなるクワナ選手とは対象的に、大柄なセキヤ選手からは殺気が溢れているかのようです。それほどの想いを持ってこの戦いに臨んでいるのでしょう!』


確かにそうだな。刀を取り返したくて仕方ないよな。私だって返す気はない。スティード君と一本ずつお揃いで所有するんだからな。


『さあ! いよいよ準決勝第二試合を始めます! 双方構え!』




『始め!』


格上相手に守勢に回ってはいけない。私は鍛錬棒を構え、全力で駆け寄っている。防御も何も知らん! 全力でブチ当ててやるよ!


「ほお? ええ度胸じゃのぉ! かかってこいやぁ!」


言われなくても行くさ! くらえ!


「おらぁバレバレじゃあ!」


私の鍛錬棒を木刀で迎え打つセキヤ。


その結果、木刀は折れ、鍛錬棒が肩に直撃した。


「ぐあぁぁぁーー!」


まだまだぁ!

飛び込んだ勢いで奴の脛を蹴りつける。


「ぎぃあぁぁぁーー!」


そのまま距離を取りながら横薙ぎ、脇腹に命中した。


「ぐおっふぶぅがぁーー!」


これで終わりだ!

くらえ! 腹に横蹴り!


崩れ落ちるセキヤの頭部に鍛錬棒の一撃!


終わったな。





『え? 終わりですか? カース選手の流れるような連続攻撃が見事に決まりました! 魔力なしでも強いじゃないですかぁ! 腐っても無尽流ですね! カース選手の勝利でーす!』


『腐っても』は余計だ。確かに最近ロクに道場に行ってないんだよな。アッカーマン先生のことがあってから道場に行く気がしなくなってきたんだよ。先生との思い出がたくさんのあの道場にどの面さげて行けってんだよ……


『最初の一撃で決まったな。さすがにあの棒の威力はすごいな。エビルヒュージトレントだったか。さすがにエルダーエボニーエントには負けるが一級品であることに違いはない。そこを見抜けなかったセキヤ選手が不覚ってことだ。さあて、決勝戦まではまた時間を長めにとって、セキヤ選手の回復を待つとするぜ。』


やはり決勝戦はヒイズル同士か。無傷のスティード君とクワナの対戦が見たかったな。きっといい勝負になったろうに。

それにしても今回のトーナメントめちゃくちゃだよな。途中参加したり敗者が復活したり。本来ならクレームだらけなのだろうが、相手がダミアンでは誰も言えないってか。ただ実際会場は盛り上がっているし、負けた者としてはあれこれ言いにくいってのもあるよな。


とりあえず控え室に戻るか。セキヤにはもう契約魔法が効いてるし、今後聞きたいことができた時に聞けばいいだろう。今は用無しだな。


「カース。見てたわ。凄かったわよ。惚れ直しちゃった……」


「アレク! そ、そうなの!? 嬉しい!」


いやぁ嬉しいぞ。アレクが照れた顔でそんなことを。


「よし! それなら帰ろうか! もうここに用は無いしね!」


「もう……カースったら。もう少しじゃない。今帰ったらダミアン様が困るわよ。それにリゼットのこともあるし。」


おお、アレクはダミアンのことも考えて。なんて心優しい女の子なんだ。偉いなぁ。よし、それなら待とう。あいつらの対戦に興味はないし、スティード君の様子でも見に行こうかな。



さすがにまだ治療中か。邪魔はできないな。


「カース、私達も決勝戦を見に行かない? みんな行ったわよ。」


「そうだね。決勝でも見ようか。」


あークソ針もブチ殺したし、かなりスッキリしてるんだよな。のんびり観戦もいいか。




はぁ、これで本当に終わったのか?

いや、バンダルゴウにはヤコビニの残党がまだいるし。教団の幹部も一人逃げてる。そういや人の顔を変えられる魔法使いもいるんだよな……

ヒイズルも侵略してきている。いや、ヒイズルの件は私が気にすることじゃない。それにヤコビニ派も教団も私が気にしなくてもいい。つまり私が思い悩むことは一つもない。


私が今、気にすることは……


まず楽園かな。大規模な城壁建築がまだ途中なんだよな。半分も出来てない。のんびりやろう。そうだ、公衆便所と公衆浴場を運ばないとな。ノワールフォレストの森にマギトレントも伐採に行こう。スペチアーレ男爵が首を長くして待ってるだろうからな。

それから七等星の試験が今月末にあるな。

同じく今月末にアレクの成人祝いをやろう。ドレスもいくつかは出来る頃だ。出来てるやつだけ取りに行きたいところだな。


そして、明日。


スパラッシュさんの墓参りに行こう。そして隣にアッカーマン先生の墓を建てよう。それからルイネス村の周辺をきれいにして、城壁で囲ってやろう。堅牢で、静かな村にしてやる……


おっと、そろそろ決勝戦が始まるな。セキヤは今日散々だよな。どうせクワナが勝つんだろ。

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