第975話 ルイネス村にて

翌朝、わたしが起きたらすでにアレクはいなかった。昨日は寝るのが遅くなって悪いことをしたな。まあいつも通りだけど。


朝食を食べたらコーちゃんとカムイを連れて出かけよう。目指すはルイネス村だ。


スパラッシュさんの墓があるルイネス村はオウエスト山の西側、クタナツから西に二百五十キロルぐらいにある廃村だ。領都からもそんなに遠くはない。

一時間もかからず到着だ。



ん? 何だあいつら?



「お前らここで何してる?」


見るからに怪しい風体。さては盗賊か?


「てっ! てめぇこそだれだぁ!」

「どっから現れやがったぁ!」

「こかぁ俺らぁ『火の車』の縄張りじゃあ!」


ぞろぞろと現れてきやがったな。火の車なんて聞いたことはないが、どうせ盗賊だろう。


「お前らここをどこだと思ってんだ? 盗賊風情が立ち入っていい村じゃねぇぞ?」


「ギャーッハッハッハぁー!」

「お前らだってよぉーー!」

「うひゃーかっこいーい!」

「どうせビビリすぎてトチ狂ってんだぜ!」

「金出したら命だきゃあ助けてやんぜぇー!」


やっぱ盗賊だな。例え冒険者だったとしても金を出せと脅迫した以上は容赦できんな。


『拘禁束縛』


一人を除いて全員を拘束。話すこともできないようにしておく。


『水壁』


残った一人はいつもの拷問だ。まずは五十度からいってみよう。


「あじじじじいああぁがががーーぁ!」


反応が新鮮だな。大抵は文句たれてくるのに。


「おい、お前らは盗賊だな?」


「あじゃじゃあああーー! そーだよ! あじぃぃぃいいぃーー!」


終了。小遣い稼ぎにはよさそうだ。こいつには『麻痺』


それから寝てた奴なんかも全員拘束してやった。総勢二十三人か。


全員を束にしてミスリルボードに乗せてと……クタナツに帰ろう。墓は後回しだ。もはや流れ作業じゃないか……




到着。北の城門だ。


「お務めご苦労様です。本日はメイヨール卿はいらっしゃいますか?」


身分証を見せながら門番の騎士に話しかける。これ系の話はスティード君パパに頼んだ方が手っ取り早いからな。


「しばし待たれい」


いるみたいだな。




「やあカース君。先週は大変だったようだね。そいつらは盗賊かい?」


「そうなんです。売ろうと思いまして。」


「いいとも。こっちで話を聞かせてくれるかい?」


詰所で状況を説明する。出会ってから一時間と経ってないからな。そこまで詳しくは知らないぞ。


「なるほど。旧ルイネス村か。闇ギルドの力が弱くなると、盗賊が調子に乗るのは定番だね。カース君、お手柄だよ!」


「押忍、ありがとうございます。」


「じゃあこれ奴らの売却代金ね。金貨三百四十枚だよ。」


「ありがたくいただきます!」


最近お金がない私にはありがたい臨時収入だ。一度父上の所に顔を出してもいいけど、まだルイネス村での用事が終わってないからな。とりあえずルイネス村に戻ろう。




到着。昼までもう少し時間があるし、とりあえず草刈り、いや草抜きだな。『金操』


金操は金属を操る魔法だが、魔力効率を無視すれば大抵の物は操れるんだよな。だから草抜きにもとっても便利。たちまちスパラッシュさんの墓周辺がきれいになった。


『水操』


そして墓についた汚れもきれいにしてと。こっちは洗濯魔法や浄化一発で済むのだが、わざわざ水洗いしてみた。ほんの気持ちだ。


それから墓の前で手を合わせる。ナマス・アミターバ。


さて、昼にしようか。

「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


豪快にオークやワイバーンを焼いて食べようね。やはり外でバーベキューっていいよなあ。プレミアムなビールが飲みたくなってくるよ。




食事も終わろうとする頃。


「ガウガウ」


誰か近付いて来てるって? 私の魔力探査にもしっかり引っかかってるさ。五人だな。冒険者だろうか。



姿が見える位置までやって来た。どうやら冒険者のようだ。


「おーい! 俺達はクタナツの六等星、アルケイディアのモンだー。そっちはー?」


「クタナツの八等星カースってもんだー。せっかく来たんだ。昼飯がまだなら一緒にどうだー?」


クタナツの先輩ならばそれぐらい融通してやるさ。こいつらが酒を持っていれば、なおいいのだが。


ざわざわと相談しながらも、近寄ってきた。香ばしい匂いには逆らえまい。


「俺はアルケイディアのリーダー、マノスってモンだ。誘いはありがたいが先に聞かせてくれ。ここに盗賊はいなかったか?」


「いたぞ。ちょうどさっきクタナツに連行したとこだ。二十人ぐらいいたかな。」


「さっきクタナツに? そうかよ……意味ぁ分からねえが一足遅かったか……しゃあねぇ! ゴチになるぜ!」


「おう。あいつらを狙ってここまで来たのか? そりゃあ悪いことをした。盗賊ごときがこの村に居るのがムカついてな。さあ、どんどん焼くから食べてくれ。ワイバーンもあるぞ。」


聞けば情報を集め終わったのが昨日、準備を整えて今朝早くにクタナツを出発したらしい。仕事をフイにされても怒ることなく、諦める姿勢はクタナツ男らしく好感が持てる。冒険者稼業は早いもの勝ちだからな。


「それよりここは昔のルイネス村だよな? ここに盗賊がいたらムカつくのか?」


リーダーのマノスが質問をしてきた。


「ああ、ここにはスパラッシュさんの墓があってな。ほれ、あれだ。そんな土地なもんでな、薄汚い盗賊なんぞに入られちゃあ許せないってわけさ。」


「ああ……スパラッシュさんの墓か……後で酒でも供えておくとしよう。」


「すまんな。スパラッシュさんも喜ぶだろう。おお、盗賊の持ち物とかはロクに調べてないから、何か落ちてる物でもあれば好きに持っていってくれていいからな。」


「おお、そいつはありがてぇ。さすがにここまで来てただ働きはキツいからよぉ。」


それからアルケイディアのメンバーは墓前に酒を供え、手を合わせてから村の捜索に入った。私は隣に新たな墓を作る作業に入るとしよう。

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