第964話 三回戦 第二試合
私は武舞台の近くのベンチに座っている。出番が近いためだ。
「カース君、そういえば気になっていたんだ。君の魔力、どうなっているんだい? 感知されないように抑えているどころじゃないよな? 全く感じ取れないが。」
ジーンも隣に座っている。距離が近いな。
「僕にも分からないよ。どうしてこうなったのか。たぶんポーションの飲み過ぎだろうね。」
「ポーション? 一体何本飲んだと言うんだい?」
「確か五十本近かったよ。色々あってね。試合が始まるから後で話すね。」
「なっ、ああ……」
それより次の試合だ。
ここであたるとはな……
『さぁぁー! お待たせしましたぁ! 三回戦第二試合を始めます! 一人目はー! キレると怖いってことが判明したスティード・ド・メイヨール選手ぅー! 控え室の乱闘での被害者はなんと十三人! 負けたのにさっさと帰らなかった選手達は散々な目にあってしまいましたぁー!
そして二人目ぇー! 勝つためなら何でもする! 先ほども見事な口車を見せてくれたカース・マーティン選手ぅー! 身体能力の差を反則気味の装備で補えるのか!? これは必見! 王国一武闘会、魔法なし部門の決勝戦の再現だぁー!』
『さーてと、賭け率だが……八対一だとよ。カース選手がどこまで食い下がれるか、期待だな。』
ちっ、そんなに差があるってのか。いや、まあ当然だけどさ。
「カース君、全力でやろうね!」
「手加減してよ……」
スティード君にしては珍しく革鎧を装備している。結構上物に見えるな。おや、今頃水分補給かい。
しかしエビルヒュージトレントの鍛錬棒の前には裸同然だろう。当たればの話だが……
だが、解せないのは武器を持ってないことだ。腰に木刀を差してもいない。素手で戦うつもりなのか?
『それでは! 第二試合を始めまーす! 双方構え!』
『始め!』
スティード君はとことこと近づいてくるではないか。無防備だ。ならばくらえ!
面、ではなく胴薙ぎだ! どこかに当たりさえすればいい。一撃で仕留める必要などないからな。
空振り。さすがにそこまで近づいてはくれなかった。しかも私の振り終わりに合わせて突っ込んできた! 速いっ! 鍛錬棒を切り返すのが間に合わない!ならっ……棒を振った勢いのまま蹴りだ! 私のブーツは痛ぇぞお!
スティード君の脇腹を狙った回しトーキックは不発、爪先ではなく向こう脛が脇腹へ吸い込まれた。やばい!
スティード君の勢いはいささかも衰えず組み付かれてしまった。くそ、まんまとやられてるじゃないか!
『スティード選手がカース選手にのしかかろうとしているぅー! 騎士の卵であり剣士でもあるスティード選手がどうしたことなのかぁー!』
『なるほど。カースのあの装備は木刀などでは到底突破できないと睨んで違う方向から攻めてるわけだな。』
『やはり装備の差は大きいですね! さあ、こここからどうなるのでしょうかー!』
くっそ、だからってマウントはとらせんぞ! スティード君は正面から両手で私の肩を鷲掴みにしている。私も内側から彼の上腕を掴んでいる。リーチの差はどうしようもない。
「ぶうっ!」
ぐあっ! スティード君が口から何かを吐いた! 何だこれ! 目に入った! 押される……倒された……痛っ、帽子が脱げて後頭部を打った……
ぐっ、くっそ痛いぞ! 殴られ放題じゃないか! 見えん! 防げん! 痛い! 反撃しないと……負けてしまう……
マウントポジションで殴られながらもどうにかシャツの袖で目を拭きとる。くっそ、顔中が痛い……ガードしてもガードごと後頭部を石畳に打ち付けられる……ヤバすぎる……
しかし、私がスティード君なら顔なんか狙わないでさっさと首を狙って終わりにする。なぜスティード君は私の首を狙わないんだ……
首、そうだ……やるだけやってみるか……
私は殴られながらも首輪を外し、鞭として使った。下から右腕を振り、スティード君の顔を狙う。当然あっさりと防御され、私の右手首を掴まれてしまった。
スティード君は空いてる右手でなおも私を殴りつけてくる。ぐああぅ、鼻に直撃かよ……涙が滲む……また前が見えなくなってしまった……くそ、痛い、痛いぞ……心眼とか言ってられる状態じゃない……
スティード君の握力のせいで私の右手に力が入らない……握っていた首輪が手から落ち、私は左手で受け止める。まだ、戦える……
左手を振り、解けた首輪を叩きつけ……る振りをする。防御をしようと一瞬止まるスティード君の右手首に首輪を巻き付けてやった……すると……
「うぉあぅ……」
たちまちスティード君の体が沈み、動きがとれなくなる。形勢逆転だ……せっかく巻き付けたんだ。取れないよう、きっちり固定しておくぜ……
『おおーっとぉー! 一体何が起こっているのかぁー! カース選手に馬乗りになり! 殴りまくっていたスティード選手が突如動きを止め、崩れ落ちたぁーー!』
『カース選手が着けていた首輪をスティード選手に巻いたことが原因だとするなら……なるほど。分かったぜ。あの首輪だが、拘束隷属の首輪だな。それも、罪を犯した王族を取り締まるための特別製だ。』
『何ですってぇー!? カース選手は今までそんなものを着用して戦っていたと言うのですか!? はっ! 確か王国一武闘会でも!?』
『そうだ。カース選手はあれを着けたまま優勝したそうだな。それを今、スティード選手に巻いてしまった。これは勝負あったか……』
頭がふらつく……呼吸が苦しい……顔が痛い……くそ、顔が血塗れじゃないか……
もう目も開けられない…….立て……
立てば私の勝ちなんだ……あの首輪は現役の近衛騎士ですら身動きが取れなくなるほどの代物……スティード君でも立てないだろう……
だから……立ち上がれば……私の、か……
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