第963話 決勝トーナメント 三回戦
ダミアンと黒百合さんを控え室に呼んだ。後は任せるぜ。
「マジかよ……むしろ生き残りを数えた方が早ぇぜ。オメーとスティード君と……」
「ジーン選手、そしてクワナ選手の……四人ですか……」
おお、四人も残ってたか。なんだかお馴染みのメンバーのような……
アイリーンちゃんもセルジュ君も二回戦を突破できなかったのか……
「うぅむ、もう四人どうにか……いや、一人はいいんだ。残り三人……おう、ベレンガリアちゃんよぉ。出てみるか?」
「ええっ!? 私ですか!? いやいや、嫌ですよ! なんでこんな化け物達に交じりたいものですか!」
ベレンガリアさん居たのか。今日は影が薄かったな。
「とりあえず先に起きた順に治癒してやったらどうだ? その先着三人が三回戦進出ってことでさ。」
「仕方ねぇな。カースのアイデアでいくか。おうマリアンヌ、治癒魔法使いを呼んでくれるか?」
「はいはい。どこまでも運営泣かせな人達ですよね。そうそう、スティード選手は罰金ですからね。」
場外乱闘は禁止されていない。ならば大会の運営を妨げた罪ってところか。そりゃ困るわな。ちなみに私は昨日の罰金を払っていない。請求されてないのだから。
この四人になぜかラグナを加えた五人でクジを引く。ラグナはダミアンの推薦枠ってとこなんだろうな。物好きな女め。
残り三人は三回戦の後半に回されるそうで、合理的だね。
そしてここから先は抽選なし。全ての対戦が決まったことになる。
その結果、第一試合はクワナ対ジーン選手となった。クワナは双子のエリー選手にも勝ったんだしな。ジーン選手に対しても優勢ってことになる。それよりも、ジーン選手はシフナート君なのだろうか。アレクに事情を話す約束だが、昨日はそれどころじゃなかったもんな。後で聞かせてもらうとしよう。
『大変長らくお待たせいたしましたぁー! 午後の部、決勝トーナメント三回戦を行いまーす! 厳正なる抽選の結果! 一人目はぁー! 静かなるヒイズルからの刺客! クワナ・フクナガ選手! 相棒であるセキヤ選手が敗れた今! ヒイズルの魂を示せるのは彼しかいなぁーい! ムラサキメタリックの刀がなくとも戦えるところを見せてくれぇーい!
二人目はぁー! ジーン・ド・バックミロウ選手ぅー! やはりそうだったぁー! 彼女は用心棒貴族バックミロウ家の出! いつぞやの美少年シフナートきゅんを彷彿とさせる細身の美少女だぁー!』
『さぁてと、賭け率は……七対四か。クワナ選手がエリー選手に勝ったことが影響してんな。』
『さあー! 三回戦第一試合! 始めますよぉー! 双方構え!』
『始め!』
どちらも全然動かない……
『ちょっとー! 動いてくださいよ! お見合いじゃないんですよー!』
『お互いの力量が非常に似通ってるんだ。僅かでも隙を見せた方が負ける。待つしかねぇな。』
まだ動かない……
マジかよ、こいつら……
何分経ったと思ってんだ……
まだ動かない……
『ちょっとー! いい加減にしてくださいよぉー! そりゃあ先に隙を見せた方が負けなんでしょうけど!』
『参ったなこりゃ……よし! いきなりルール変更だぁ! 先に一撃入れた方の勝ちにするぜ! 動かねぇお前らが悪ぃんだからな! いけやぁ!』
その瞬間動いたのはジーン選手だった。いや、私には見えなかった。ただ、ジーン選手がいなくなったのだ。
そして次の瞬間、倒れていたのは……
ジーン選手だった。
『勝負あり! クワナ選手の勝利でーす!』
『まさに一瞬の交錯だったな。最後まで動こうとしなかったクワナ選手の忍耐が勝ったようだ。また、魔力なしではジーン選手は
エリー選手に続いてジーン選手までクワナに敗れたのか。あいつはただの好青年じゃないようだな。
「ジーン、いや、シフナート君。久しぶりだね。」
「カース君……僕を覚えていてくれたのか……」
あれ? マジでこいつシフナート君なの?
「マブダチだからね。短剣直入に聞くよ。君の性別は?」
「……カース君……君に理解してもらえるかどうかは分からない……でもこの機会に、伝えたいと思うんだ……」
何だ何だ? 理解を超えてるのか?
「僕は女だ。身体の造形は間違いなく女なんだ。しかし初めて君に会った時、つまりクタナツ時代だね。あの頃僕の心は男だったんだ。」
ん? まさか、あれか? 性同一性障害とかそれ系なのか?
「当時の僕は自分を男だと思い込んでいた。軟弱な女になんかなりたくなかったんだ。誰よりも強い、男の中の男になりたかったんだ……」
「シフナート君……」
「でも! 君に二度も負けて……自覚してしまったんだ……僕は……女だと!」
「シフナート君……」
「待て! 僕の本名はジーンだ! シフナートはただの偽名なんだ! 頼む! カース君にはジーンと呼んで欲しいんだ……」
「ジーン?」
「アレックスさんに全てを話す約束だったけど……僕の秘密は以上、いや、まだあった……」
ええと、シフナート君の本名はジーンで性別は女で心は男だったけど、今は中身も女の子?
「秘密?」
「いや、秘密ってほどのこともない……それは、つまり……その……」
「その?」
「カース君! 僕は君に惚れた! アレックスさんが正室だってことは知ってる! ならば側室の座を与えてくれ!」
そうきたか……
かなり本気みたいだな……
しかし、無理なものは無理だ……
「ジーン、すまない。僕の伴侶はアレクただ一人と決めたんだ。自分に解除不可能な契約魔法をかけたぐらいなんだよ……」
「そうだろうな……いいんだ。分かってる……だが僕は諦めない。側室にしてくれなくても、君の傍から離れるつもりはない!」
うぅん……モテ期なのか?
ソルダーヌちゃんもそうだが、ありがたいことだし、嬉しくもあるのだが……どうしたものか。
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