第959話 決勝トーナメント 一回戦

『決勝トーナメント一回戦第二試合! 一人目はぁぁあーー! 昨日惜しくもアレクサンドリーネ・アイリーン組に敗れたジーン・エリー組からエリー選手でーす!

二人目はぁーー! こちらも昨日魔王カース選手に敗れたヒイズルからの刺客! クワナ選手だぁーー!』


『気になる組み合わせだな。どちらも昨日武器を失っている。見たところエリー選手は素手だがクワナ選手は木刀か。どちらも歳の割に手練の腕前だ。興味深い対戦になりそうだぜ。』


『気になる賭け率はぁー! 四対五! ほぼ互角だぁー! 第二試合を始めますよ! 双方構え!』




『始め!』


「クワナぁぁーー! 気合入れていけやぁー!」


セキヤかよ……うるせぇ奴だな……黙って見てろよな。

片やクワナは木刀を構えたまま動かない。エリーはじわじわと距離を詰めている。昨日のような目が追いつかないような動きからすると意外だ。




十分ほどの膠着を経て、クワナが勝った。一方的に攻め続けたエリーだったが、クワナの防御は堅く、木刀を巧みに使い隙を見せることはなかった。そしてエリーのスタミナが切れ足が止まった瞬間、クワナは攻勢に転じ勝利を決めたのだった。魔力禁止ルールのためにエリーの縮地テラトレシアがほぼ使えなかったことも原因だろう。

それを差し引いても、クワナの剣術は見事だった。明らかに私より上だ。スティード君といい勝負ができそうな気さえするぐらいだ。


『勝負あり! クワナ選手の勝利です! いやー攻撃を続けるエリー選手をことごとく跳ね返してしまいましたね! 地味ではありますが、技が光る勝負でした!』


『あの木刀もただの土産物じゃあねぇな。トレント材とも違う、それなりの上物だな。見事な勝利だったぜ!』


ダミアンの奴、相変わらずさすがの目利きだな。私には良さそうってことしか分からない。さあ、次は誰だ?



『第三試合に移りまーす! 一人目はぁー! 騎士学校三年生三位! ボーベンツ選手! 昨日は惜しくもアレクサンドリーネ・アイリーン組に敗退しましたが、今日は雪辱に燃えております! そして二人目ぇ! かすかな縁を感じます! セルジュ選手! 貴族学校五年生の首席にしてクタナツ出身! 猛虎スティード選手や魔王カース選手の同級生です! そのぽっちゃりボディでどう戦うのか! ある意味クタナツ男らしい戦いぶりを私は知っておりまーす!』


『魔力でカースに及ばず、剣術でスティード選手に及ばない。なのになぜ首席なのか。そこに勝利の鍵があるかも知れねぇな。さぁーて賭け率は……五対二か。ボーベンツ選手が優勢だな。』


アル君の相棒ボーベンツ選手か。昨日はわずかに油断したためにアレクに腹を斬り裂かれてしまっていたな。となると今日はかなり手強いはずだ。セルジュ君の戦いぶりが見ものだな。


『双方構え!』




『始め!』


じわじわと間合いを詰めるボーベンツ選手に対してセルジュ君は動かない。木製の槍をじっと構えている。


「飛斬!」


ん? セルジュ君、何やってんの?


「飛斬!」


場内からは失笑が漏れ聞こえる。


『おーっと! セルジュ選手が不可解な行動をしているぅー! 魔力の使用禁止ですから飛斬も飛突も使えないはず! しかしセルジュ選手は槍を振りながら飛斬と叫んでいるぅぅーー!』


『ただのハッタリか。それとも何か意味があるのか。世の中には口では火球なんて言いながら風の魔法を使う奴もいるからな。』


この世界のマナーとしては魔法を使う時は魔法名を口に出すというものがある。私は今のところそれを忠実に守っている。無言で魔法を使ったり、口に出した魔法名と違う魔法を使ったことはほぼない。マナーの問題でもあるが、他の理由もある。もしも、勝てないほどの強敵と戦うことがあれば私もマナー違反をするかも知れない。


「セルジュさん……何やってんすか?」


「いやー飛斬ってカッコいいよね。使ってみたくなっただけ。君は使えるの?」


「使えるに決まってますよ! 俺騎士学校生ですよ!?」


「さすがだね。三位は伊達じゃないね。何かコツとかあるのかな?」


「はぁコツですか……やっぱ集中と集約じゃないっすか?」


「それはスティード君からも聞いたよ。どうも僕には難しいんだよね。あーあ、カッコよく飛斬を使いたいなぁ……」


セルジュ君何やってんの? 対戦始まってんだよ?


「飛斬!」「飛斬!」


場内の失笑が止まらない。


「それじゃあダメっすよ。ただ魔力があればいいってもんじゃないんすよ。飛斬に必要な剣速ってもんもあるんすから。」


「どんな感じ?」


「こうっすよ! こう!」


ボーベンツ選手は距離こそ詰めないものの、見本を見せている。後でやれって話だが……


「すごいね、ボーベンツ君。君こそ首席の器だと思うよ? なぜ三位なんかに甘んじているんだい?」


「そ、そりゃあ剣の腕なら俺が一番なんすよ? でもアルは魔力が高いし、その上首席のウメルダは座学も優秀だし……」


「首席をとる方法、知りたくない?」


「くっ、そ、その手には乗らないっすよ! 教えて欲しけりゃ勝ちを譲れとか言うんすよね!」


「逆だよ。君に勝ちを譲るから見本を見せてくれないかな? はっきり言う。君の才能はスティード君以上だ。」


ん? セルジュ君は何を言っているんだ?


「はぁ? 俺の才能がスティード先輩以上!? 何言ってんすか!? そ、そんなことあるわけな、ないっすよ!」


その割には明らかに喜んでるな。セルジュ君は恐ろしい男だぜ……


「知らないの? スティード君は君の才能を恐れているよ? あのスティード君がだ。そんな君に飛斬の見本を見せて欲しいんだ。見せてくれたら僕は負けを認めよう。」


「し、仕方ないっすね。一回だけですよ? いきます!」『飛斬』


ボーベンツ選手から放たれた飛斬をセルジュ君は石畳に伏せることで避けた。そして……


『勝負あり! 反則負け! ボーベンツ選手の反則負けです!』


『セルジュ選手の口車を褒めるべきか、ボーベンツ選手の間抜けさを嘲笑うべきか。ちいっと悩んじまうぜ。マリアンヌはどう思う?』


『明らかにボーベンツ選手が間抜けでした。実際にはセルジュ選手にその間抜けさを見抜かれていたために、うまく利用されましたね!』


セルジュ君の負けを認めるって言葉に騙されたな。相手がいくら負けを認めたってそれより先に自分が死んだら何の意味もないのに。実際セルジュ君だってボーベンツ選手に「負けたよ。君の飛斬はすごい」などと言ってるし。エゲツないぜセルジュ君。勝つためには手段を選ばない。クタナツ男の気概をちゃんと身につけているな。ボーベンツ選手もきっと勉強になったことだろう。私もだけど……

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