第958話 決勝トーナメント開始

くそっ、四人同時に四方から攻めて来るとは! ならば防御など考えずに一人だけを狙ってやる! 相打ち上等だ!

他の三人は空振りだ。一人の木剣が私の左肩に当たり、私の鍛錬棒もそいつの左肩に当たった。見た目は痛み分け、だが実際は……


「ぎゃおがぁーー! 痛えっ! 肩が、肩がぁーー!」


そりゃあ砕けたよな。悪いが私は無傷だ。残り三人。


「お前ら一人を相手に四人がかりって、恥ずかしくないのか?」


私なら全然恥ずかしくないけどね。勝った方が正義に決まってる。おっ、動きが止まってる。言ってみるもんだな。こいつらバカだわー。


一人、二人……三人。


ボケっとしてるからすぐ終わった。やっぱ口車が最強か?


『第五武舞台終りょーう! 勝者九十三ばーん! 決勝トーナメント進出です!』


さすがに魔法と違って一歩も動かず勝つ、とはいかなかったな。結構疲れたし。決勝トーナメントの二回戦までは昼までにあるってことだし、もう一踏ん張りか。




さてさて、他の武舞台はどうかな? スティード君はとっくに勝ってる頃だろうな。


『第一武舞台終りょーう! 勝者三ばーん! 決勝トーナメント進出でーす!』

『第四武舞台終りょーう! 勝者…………』


次々と終わりを告げるアナウンスが。よく見ると負けた奴らの中には何人も私と似た服装がいる。流行ってるのかねぇ。王都ではウエストコートだけは流行っているが、ここでは私そっくりにコーディネートするのが流行なのか?


「カース君! やったよ! 残ったよ!」


「おお、セルジュ君! やったんだね! おめでとう! 武器は何を使ったの?」


なんと! セルジュ君が決勝トーナメントに進出したとは! これはすごいぞ。


「これなんだ。破極流の道場で借りた練習用の槍。剣だとスティード君どころかカース君にも勝ち目はないからさ。ちょっと工夫してみたんだよね。」


「おおー。やるねぇ……」


まさかセルジュ君が槍を使うとは……どんな使い方をするのか興味深いが。あんまり当たりたくないな……槍の相手は嫌だ。


こうやってセルジュ君と話していれば、誰かやって来そうなものだが……誰も来ない。そして決勝トーナメントの一回戦が始まる。




『大変長らくお待たせいたしました! 退屈な予選が終わりましたので! 決勝トーナメントを始めます! 実況は引き続き領都に咲いた黒い百合! 花形受付嬢マリアンヌ二十五歳独身がお送りいたしまーす! 結婚したい! 解説はもちろんこの方! 最近辺境伯後継者争いに正式に参加することを表明したダミアン様でーす!』


『ようお前ら。ご機嫌か? 今日は最初から解説するぜ! ところでな、俺が辺境伯になったらよお……フランティアは……無敵になるぜぇーー!』


あいつ何言ってんだ? ある意味王家への謀反と受け取られかねないってのに。なのになぜ、場内はこんなにも盛り上がってるんだ? 隣にいるセルジュ君の声も聞こえないぐらいだ。




『さあ! こんなダミアン様ですが、早速決勝トーナメント一回戦を行います! 一回戦第一試合! いきなり縁起がいいですね! 昨日の優勝者スティード選手が早速の登場です!

対するはぁーーザック選手! 前回の大会でも決勝トーナメントに残った豪剣使いの強者だぁー!』


『武器では明らかにザック選手が有利だな。身の丈ほどもある大きな木剣を軽々と振り回せることは前大会でも証明されている。一方スティード選手は昨日のあの短剣は使えない。普通の木剣で対抗するようだが、ちょうどいいハンデかも知れんな。』


うわぁ、ダミアンが真面目に解説してる。今回は魔力庫も使えないもんだから開始の時点で身につけてない武器は使えないんだよな。スティード君が昨日まで愛用していたロングソードは昔おじさんに買ってもらったやつだよな。今日の木剣は……騎士学校の稽古用だろうか?


『さあ! 賭け率は三対一! やはりスティード選手が優勢です! 双方構え!』




『始め!』


いきなり激しく攻め込むザック選手。それを柔らかく受け流すスティード君。身長ではスティード君より少し高いだけのザック選手だが、体の太さは段違いだ。パワーではスティード君をかなり上回るんだろうな。


それでも技ではスティード君の方が上と見える。いくつものカウンターが鳩尾や脇腹などに命中している。


しかし……


『ダミアン様! ザック選手の防具は中々の物ではないですか?』


『そのようだな。まず胴体の革鎧だが、正面にワイバーンを使っているな。その代わり背中側は安物で済ませたようだが、敵に背を見せないという覚悟の現れとも言える。また籠手にもワイバーンの骨を上手く組み込んで丈夫さと軽さを実現しているな。脛当ても同様だ。あの若さでよくあそこまで装備に金をつぎ込んでいるものだ。』


『なるほど! だからスティード選手からあれほどの攻撃を受けても動きに乱れがないのですね!? ではあのヘルメットもでしょうか!?』


『いや、あれは見た感じは安物だ。だが表面上そう見せているだけで中身は別物かも知れん。トレント材の木剣をぶち折る帽子もあることだしな。』


『なるほど! 依然として戦況は互角! ここからどうなるのでしょうか!?』


打ち合いから鍔迫り合いになった。こうなるとスティード君が不利なはずだが……


『動きませーん! 武舞台中央でお互い一歩も動きませーん!』


『ほう? スティード選手はあの体格差でよく持ち堪えてるな。腕力はザック選手の方が上なのだが……なるほど! 足腰か! スティード選手は鍛え抜かれた足腰を巧みに使い、小刻みに力を逃しているようだ。さすがに王国一の剣士は違うな。』


つまり、足腰をバネのように巧みに使ってるってことか?


『そんな真似ができるってことはだ……』


『ことは?』


あっ!


『おおーっと! ザック選手が前のめりにぐらついたぁーー! これはいけなぁーい!』


『終わりだ。』


『勝負あり! スティード選手の勝利です!』


『見事だったな。スティード選手は完全にザック選手の呼吸を読んでいたようだ。いつ力を入れるのか、そしていつ抜くのか。それに合わせて力を入れるタイミングを調整すれば、あのように相手の体勢を崩すこともできる。今さら無駄だが、実力を隠したまま勝っちまったな。』


さすがの横綱相撲だったな。ザック選手ほどの力を持った相手でもコントロールできるか実験していた節もある。抜け目ないよなぁ……

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