第884話 城塞都市ラフォートにて

領都かクタナツへ帰ろうかとも思ったが、少し気が変わった。ここから北西、ドナハマナ伯爵領は城塞都市ラフォートに寄ってみることにした。私が五年前、スパラッシュさんと二人でヤコビニ派、そして偽勇者を捕らえた街だ。

もちろん用などないのだが、散歩がてら寄ってみようと思っただけなのだ。




さて、到着。前は闇夜に紛れて街の中に着地したんだったな。


今日は普通に城門に並び手続きをする。今夜はこの街で寝てから帰ろうかな。


「次!」


「お務めご苦労様です。」


いつも通りギルドカードと銀貨を一枚。もちろん賄賂だ。


「待て! そっちはペットだろう。その分が足りんなぁ?」


うっわ、あからさま! あからさまに賄賂を要求してやがる。この城塞都市ラフォートはドナハマナ伯爵領だったか。タンドリアといい勝負だな。あっちも正確にはタンドリア伯爵領だったっけな? 腐ってんなぁ……


「ではこれをどうぞ。」


私も子供ではない。大人しく銀貨二枚を渡す。


「ふっ、通れ!」


態度悪いわー。バンダルゴウもラフォートも二度と来ないかな。別に用があって来たわけじゃないし。ギルドに寄る必要もないな。適当にふらっと散歩して、適当な宿に泊まるとしよう。


あ、そうだ。私が燃やしたヤコビニの別荘。あそこがどうなってるか見に行こう。




確かこの辺りだったはずだが……


あった。あそこか。


うーん、さすがに新しい屋敷が建ってるな。表札なんか出てないから持ち主は分からないが、どうせ悪い貴族なんだろうな。ヤコビニ達も最悪だったもんな。人間を的にして魔法を撃ったり投げ槍で狙ったり。あんな貴族は死ぬべきだ。あー、ヤコビニ本人は死んだけど息子達は鉱山奴隷になってるんだったか。孫娘も売り飛ばされてたしな。いい気味だ。


よし、ぐるっと一周回ってみるかな。確かここらはノノヤフク湖に面したオシャレな別荘地だもんな。湖畔の別荘か、私も一つぐらいあってもいいな。でもこの街には欲しくないぞ。楽園に湖を作ってしまおうか? スティクス湖みたいに……ありだな。


さて、行けるのはここまでか。この先は湖だもんな。さすがにこの季節に泳ぐ気はしないしね。


「ピュイピュイ」


え? 魚が食べたい?


「ガウガウ」


カムイも?


もー、食いしん坊なんだから。仕方ないなぁ。潜るのはだるいから魚釣りといこうか。魚なら魔力庫に結構入ってるけど、ここの魚が食べたいんだよな? 贅沢な子達だぜ。湖にはどんな魚がいるのかねぇ。


『鉄塊』で針を作って『水鞭』を糸の代わり。浮きはなくていいや。水鞭が指みたいなもんだし、感覚で勝負だな。




だめだ……

全然釣れない……私に釣りは向いてないのか……

やーめた。潜ってくるから待っててね。


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」




二十分ほど潜って魚を三匹。あんまり大きくないな。まあいいや。岩塩を擦り込んで豪快に丸焼きといこう。遠火の強火でいくぜ!




そろそろかな。


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


いいよ。食べな。私も食べよう。遠くに数人の騎士らしき奴らが見えるが、気にすることはないだろう。


と思ったら寄ってきた。ほっといてくれよ。


「貴様ここで何をしている」

「あの屋敷をドナハマナ伯爵閣下の別邸と知ってのことか!」


「いえ、知りませんが。見ての通り食事中です。」


別に敷地に侵入したわけじゃないんだからさ。職質するならもっとソフトに話しかけてこいよな。ヤコビニの別荘は領主の別邸になったのか。もうヤコビニなんて怖くないぜーって感じだろうか。


「それにしても珍しい獣を連れているではないか」

「ふうむ、いい毛皮をしているな。おい小僧、この狼は疫病を持っている可能性がある。詰所にて検査をする必要があるからな、預かるぞ!」


何言ってんだこいつ? カムイを毛皮にする気満々じゃないか。しかも疫病を持ってるって……国語の勉強からやり直せ。


「うちの狼のどこに病気の兆候が見えるのか、詳しく言ってみろ。」


「あ? ドナハマナ騎士団に逆らうのか!?」

「貴様こそ! この狼が健康だという証拠を出してみろ! 出来ないと言うなら連行するからな!」


ぷぷっ、健康診断でも受けて来いってか。そんなの受ける場所も文化もないってのに。


「ならお前らが騎士って証拠を見せてみろ。」


バンダルゴウの騎士もダメなのばかりだったが、ラフォートもダメか。


「よぉし見せてやるぜ。しっかりとなぁ!」

「おお! ガキの分際で! 騎士様に逆らったらどうなるか教えてやらないとな!」


あーあ、剣を抜いちゃったよ。さすがに普通の剣だな。こいつらまで紫の剣だったらどうしようかと思ったぞ。


『金操』


もはや流れ作業だ。お互いの足の甲でも刺してろ。


「おまっ、何すん……」

「お前こそっ! 痛って……」


「お前らそれでも騎士か? 恥ずかしい奴だな。」


「うるっせ、くっ、いてぇ……」

「ガキが! ぐぅっ、き、貴様の仕業か!」


やっと気付いたか。ではもっと深く刺してやろう。ついでに『水壁』いつもの拷問スタイルだ。


「お前ら本当に騎士か?」


「あ、あば、当たり前だ!」

「ぐぐっ、貴様もうゆ、許さんからな! れ、連行して弓の的にしてくれる!」


「あ? 的だと? まさかお前ら……ヤコビニがいなくなっても人間を的にしてんのか!」


「ヤコビニ様だと!?」

「貴様何を知っている!?」


ヤコビニ様だと? こいつら……

水温アップ。電流も流そう。


「あば、あつ、ぐうおっ、があ」

「びびばぁは、くぐがぁ」


「お前ら五年も経ってまだヤコビニ派だったりするのか?」


「わ、我らは御前ごぜん様の恩を忘れん……」

「そんな御前様に賞金をかけたクタナツ代官め……」


マジか? この地ではまだヤコビニの影響力があるってのか? あいつが死んでからほぼ五年だぞ? しかもここには別荘があっただけ。一体どうなってるんだ?

水温アップ、水圧アップ。


「五年前にヤコビニを捕まえた男の情報は知りたくないか?」


「あっ、あずっ、ぐうおおっ」

「あばぁっ、しり、ったっない」


だめか。話ができない。仕方ない。温度を下げて電流解除。水圧は下げないけど。


「五年前にヤコビニを捕まえた男の情報が欲しくないか? お前らが素直に話してくれるんなら教えてやるぜ?」


「ああ? あれはクタナツの冒険者、スパラッシュとやらの仕業だろうが!」

「憎っくきスパラッシュもその後死んだそうだな! いい気味だ!」


「半分正解。スパラッシュさんがここまでどうやって来て、ヤコビニ本人のみならず息子達や偽勇者までどうやってクタナツまで連行したのか、知りたくないか?」


「小汚い格好をした子供を連れていたそうだな!」

「そのぐらい調べはついておるわ!」


「ならその子供の名前は?」


「……たかが子供一人だ……調べる必要などないわ!」

「どうせそこらの浮浪児に決まっておるわ!」


あの時、スパラッシュさんの名前はクタナツの宿敵を捕まえた英雄として発表された。だからこいつらが知っていてもおかしくはない。逆に、私の名前は公表されていない。面倒を嫌った私が代官に秘密にするよう頼んだからな。今思えば、領都一子供武闘会とか開くぐらいだったらさっさと公表しておいても良かったかもね。ま、いっか。


『狙撃』


ヤコビニ派に関係すると分かった以上、容赦はしない。右の奴の両耳を撃ち抜いた。そして水壁で頭まで覆う。もう片方に詳しく聞いてみようではないか。

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