第885話 ヤコビニ派の影

「さて、お前とヤコビニ派の関係を話してもらおうか? あ、別に嫌ならいいからな。お前を殺してこいつに聞くから。」


「や、やれるもんならやってみろ! 俺はドナハマナ騎士団二番隊所属カナテ『狙撃』


可哀想に。額に穴が開いている。では次の奴。水壁を一部解除。


「相棒は死んだぞ。お前も死ぬか?」


「あばぁ……ぐぼっ、し、し死にらたくねへえ……」


「なら約束だ。お前の命は助けてやる。全部正直に話せよ。」


「わか、ったぁぅおおうっ」


よし、かかった。


「未だにヤコビニの影響力は残ってんのか?」


「あ、ああ、ある……特に俺たちみたいに孤児上がりで拾われた者は、御前ごぜん様に忠誠を誓っていた……」


契約魔法の効果か、いきなり言葉がまともになりやがった。


「孤児を拾う? 人間を的にして槍を投げるような奴がか?」


「ああ……あれは平民ゴミだ……何の能力も示すことが、できず……役立たずの、烙印を押されると、ああなる……」


「そんなら何か? お前ごときでも能力を示して生き残ったってことか?」


「あ、ああ……俺は、剣の才能があると、言われた……」


嘘だな。ヤコビニの野郎、思い込みが激しくて忠誠を誓いやすそうな奴だけをうまく選抜してやがる。私から見てもド下手なこいつに剣の才能なんかあるかよ。


「そんなヤコビニに忠誠を誓ってる奴がまだまだいるのか?」


「ああ、いる。ドナハマナ伯爵領だけでなく、ここらには多いはずだ……」


「そのドナハマナ伯爵はどうなんだ? ヤコビニに忠誠を誓ってたりするのか?」


「いや……伯爵は御前様が煩わしかったらしい……いなくなって喜んでいた……くそっ!」


目の上のたんこぶがいなくなってせいせいしたってとこか? だからヤコビニの別荘を自分の別邸にしたと?


「もう少し聞かせろよ。お前はどうやってヤコビニに出会って、いつぐらいから忠誠を誓うようになったんだ?」


少々面倒だったが話を聞くと、やはりヤコビニは外道だった。


孤児が二十人集まるごとに密室に監禁するらしい。男女問わず。そのまま三日ほど放置。

三日後、そこから引きずり出された孤児達に食べ物を見せる。ただし、自分達が旨そうに食べる様を。よたよたと近寄る孤児は殴り倒される。その場から動かない孤児には魔法が撃ち込まれる。

一通りヤコビニが楽しんだ後に人数の半分ほどの食事が用意される。独り占めする者、分け合う者、食事にありつけぬ者と様々だ。そうやってヤコビニが飽きるまで続く鬼畜の宴を生き残ったのが、こいつらってわけか。

まんまとマインドコントロールされてるな。まあ助けようとも思わないけど。


「さてと、だいたいの事情は分かった。どうしたもんか、お前はヤコビニがいない今でも死にたくないのか?」


「あ、し、死にたくは、ない……」


「ふぅん、なら俺の役に立て。例えば偽勇者のことで何か知らないか?」


「あの、紫の男か? よく分からない……強かったが、頭がおかしい……何を言っているのか分からない奴だった……」


ちっ、やっぱロクな情報持ってない。もし、いつか偽勇者と三度出くわすことがあったら、フェアウェル村とかに連れてって、本人確認までした方がいいのだろうか。絶対偽物だとは思うが、万が一ってこともあるしね。だいたい本物の勇者ならもっと強いだろ。私に容易く負けるはずがない。


ロクな情報がないことだし、尋問はここまでかな。


「とりあえずこんなもんで勘弁してやるわ。ちょっと気になることがあるから伯爵のとこに案内しろ。」


「あ、案内? 伯爵って……」


「そんなのドナハマナ伯爵に決まってんだろ? 行くぞ。別邸にいるのか?」


「いや、たぶん、本邸……」


「死にたくないんならさっさと案内しろや。」


ドナハマナ伯爵か。縁がなくはないんだよな。果たしてどうなることやら。

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