第849話 領都復興プレパーティー

私がぶち壊して、解体までしたダンスホールはきっちり元通りに直っていた。ダミアンのやつ、やるじゃないか。

会場入口には執事さんの姿。セバスティアーノさんは残念だったな……


「ようこそいらっしゃいました。楽しんでいかれますよう」


「どうも。ダミアンはいます?」


「ホールの中央辺りにおられるかと」


「どうも。アレク、行こうか。」

「ええ、じゃあセルバンティスさんもまたね。」


この執事さんはセルバンティスさんと言うのか。アレクに会釈している。


おっ、ダミアンのやつホールの真ん中で囲まれてやがる。あいつはコミュニケーションの化け物だもんな。


「ダミアンなんか気にせず踊ってようよ。」


「それがいいわね。カースと踊るのも久しぶりかしら。」


王都で踊って以来だから一ヶ月ぶりかな。ああ楽しい。コーちゃんとカムイも居ればいいのに。



三曲ほど踊って休憩。何か飲もうかと考えていると……


「お飲み物はいかがですか?」


「リリス、貰うよ。ありがと。」

「私もいただくわ。」


そういやこいつはここに手伝いに来てるんだったな。タイミングいいわー。


「そろそろ戻ってもよろしいでしょうか?」


「ああ、もちろんだ。好きなタイミングで帰ってくるといい。」


そんなに早く帰りたがっていたとは意外だな。こいつこそダミアンといい仲になるぐらいはあるかと思ったが。


「ありがとうございます。お嬢様の胸元、とてもよくお似合いです。」


「ありがとう。カースが……ね。」


「坊っちゃんのお袖も、良い品かと。」


「お、おう。ありがとな。」


リリスが意外なことだらけだ。でも私も嬉しい。




「じゃあ何か食べようか。リリスもまた後でな。」


「ごゆっくりお楽しみくださいませ。」


そろそろ腹もへってきたしね。うん、まあまあ美味しい。


「やっぱり凄いわ……これ。会場中から注目されてるみたい……」


「だよね。やっぱり最高に似合ってるもんね。会場の視線独り占めだね。」


「少し恥ずかしいわ……」


ちなみに今夜は酒は飲んでいない。この後に及んでも私はまだ背が伸びて欲しいのだ。だから酒は嗜む程度に抑えようと考えている。浴びるほど飲むこともできるだけに、ここは我慢のしどころだな。


「あ、あの、アレクサンドリーネ様……」

「そ、その胸元の首飾りって……もしかして……」


「ええ、ご推察の通り。金緑紅石きんりょくこうせきね。カースのカフリンクスとは元々一つだったのよ?」


先日の魔法学校の四人組か。ぬうっと現れたな。アレクの同級生なんだよな。


「はわわわ……こんなに大きいなんて……」

「それに見たこともないカット……」

「まさか噂になってた……『マーバライトジェム』に入荷してすぐ売れたって言う……」

「原石だけで白金貨が動くって……」


なんでそんなに詳しいんだよ……


「ま、まさか……魔王、さんがこれを……?」

「い、いくら魔王、さんでもこれが買えるほど……」

「嘘よ……夢に決まってるわ……下級貴族なのに……」

「きっと……何か汚い裏取引があったのよ……でなければ……」


四人組は目を血走らせて何かブツブツ言っている。音楽に紛れて聞き取りにくいな。


「はっ!? もしかしてレッドベリルを使った偽物!?」

「そうよ! きっとそうよ!」

「それなら朝になれば分かるわね!」

「赤く輝いているのは夜だけだからきっとバレるわ!」


今度はしっかり聞こえたぞ? レッドベリルだってダークエルフの職人がカットすればいい感じになるだろうよ。でもこれだけのカットは王都一の職人にすらできないって話だしな。無駄な言いがかりだ。


「へぇ? ではあなた達は私の目がレッドベリルと金緑紅石の区別もつかない節穴だと言いたいのね?」


おおう、アレクの上級貴族オーラが迸っている。


「い、いやそんなこと……」

「私達はただ……」

「アレクサンドリーネ様が心配で……」

「いくら魔王、さんでも……」


「朝まで待つなんてバカらしいから、明後日学校で見せてあげるわ。朝から夜までずっと着けておけばいいわよね?」


これほどの首飾りを着けて学校に……誰もが羨ましがるのは必定。事件が起きたりしないか? それにしてもこれは魔性の宝石だな。アレクが着けているからなのかも知れないが。女を狂わせる効果でもあるのか?


アレクにそこまで言われて四人組はすごすごと退散した。素直に褒めるだけにしておけばよかったものを。また恥をかくことになるな。


「そういえばカース? この首飾りの名前は何かしら?」


あー、考えたこともなかったな。石はアレクサンドライト、チェーンはオリハルコン。決して切れず曇らず。いつも強く美しいアレクに相応しい名前……


「アルテミス……そうだよ『アルテミスの首飾り』って言うんだよ。遥か昔、どこかの国で狩猟と純潔の女神として信仰されていたらしいんだ。アレクにぴったりだよね。」


「アルテミスの……首飾り……不思議な響きだわ。そんな女神様がいらっしゃるのね。そんな首飾りだったなんて……ありがとうカース。」


「狩猟の女神だからね。アレクを捕まえて離さないって意味もあるよ。離さないからね。」


「カース……嬉しい……離さないでね?」


「アレク……」


「カース……」


「お前ら何しに来たんだ?」


「おおダミアン。いいとこで邪魔するなよ。」


いい雰囲気だったのに。あっちでお喋りでもしてればいいのに。


「ボス、こ、これ、どうだい……?」


「ん? ラグナか? 気付かなかったぞ。どこの貴婦人かと思ったな。やるじゃん。」


まあアレクの美しさには遠く及ばないが。


「ダミアンが選んでくれてさ……アタシじゃないみたいさ……」


しかし、マジでいいのか? こんな裏街道極悪人をこんなパーティーに出席させて。私が気にする事ではないが。


「それよりアレックスちゃんのそれ、金緑紅石だって? カースのくせにやるじゃねぇか。」


「いいだろ。最高に似合ってるだろ? アレクのためだけに作ったんだぜ?」


「おお、最高だ。見たことねぇカットだわ。似合ってるぜ。オメーのカフもまあまあだな。」


「ありがとうございます。ラグナの首飾りもよく似合ってますわ。ダミアン様はいいセンスされてますわ。」


「照れるじゃないか……アタシにこんな服着せて……こんな華やかな場所に引っ張り出して……ダミアンのやつ……」


おーおー、ラグナが照れてる。


「おうカース、せっかく来たんだ。余興を手伝ってくれよ。」


「いいけど何すんの?」


「俺の余興は彫刻に決まってんだろ。ラグナの彫刻をやるぜ?」


「まさか……ミスリルで!?」


ならばアレクも一緒にお願いしたい!


「バカ言うな。ミスリルを彫刻に使うようなバカはオメーだけだ。いい木が手に入ったからよ、木工と行くぜ。」


「魔力を込めればいいのか?」


「おお、だがそれだけじゃねー。俺の指示通りに動かして欲しいんだわ。浮かせたり回転させたりよ? オメーなら出来んだろ?」


「ああ、問題ない。」


「よっしゃ。んじゃあもう二曲終わったら始まるからよ。ステージに来てくれや。」


「おう、ところでダミアン。岩にも彫刻できたよな? 今度頼むわ。」


「おうよ、任せとけや。」


これは面白いことになってきたな。ラグナのことはどこまで話すんだろう? 話さなくてもバレてそうではあるが。


「カース? ダミアン様に何をお願いするの?」


「僕とアレク。そしてコーちゃんとカムイが一緒になってる石像が欲しくてさ。ちなみにアレクのミスリル像は楽園の玄関に置くことにしたよ。」


「もう……カースったら……でも私達四人の像も面白そうね。いい記念になりそうだわ。」


「だよね。コーちゃん達はどこで何やってるんだろう……」


そして曲が終わり、余興の時間となった。

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