第840話 喰らう魔物

昼。

マウントイーターを退治した私は歓待を受けていた。と言っても昨夜とあまり変わらない。両脇にさっきの黒ギャル、目の前にはご馳走と酒。


「ねーニンちゃーん、さっきのアレどうやったの?」

「山がなくなってさー、もうめちゃくちゃになってたよー?」


「あの山で拾った岩を上空から落としただけだよ。たぶん地中深くに本体とか居たんじゃない?」


「きっとそーよ! もしかしたらもっと深くにまだ居るかも!?」

「ニンちゃんがいるから大丈夫だし! ねーニンちゃーん?」


「一応後で確認に行ってみようか。」


クレーターでもできてるんだろうが……どうなったか見てないんだよな。我ながら恐ろしい攻撃手段を手に入れてしまった。その気になったら王都でも領都でも一瞬で灰塵じゃないか。


あ、昼前にはクライフトさんの所に行かないとな。魔力を補充しておかなければ。結構残り少ないけど、まあ何とかなるかな。


「カース、お疲れだったな。」


「アーさんこそ、さぞお疲れなんじゃないですか?」


見た感じゲッソリ痩せたようには見えない。一体何人相手にしたんだろうか。


「人数はそこまで多くないから大丈夫だ。」


なるほど。限られた女性を確実に妊娠させることが大事なのか。そういえば、婆ちゃんには子供とかいないのか? フェアウェル村の村長にもいたようには見えなかったが。


「ところで両親がエルフとダークエルフの場合、子供はどうなるんですか?」


「どちらかになる。エルフが生まれた場合はこちらで引き取るし、ダークエルフが生まれたらこの村で育つことになる。」


へぇえー。ファンタジーあるあるのハーフエルフが存在しないわけか。あれ? そうなると……


「人間とエルフだとどうなりますか?」


「そもそも子供ができない。だからマルガレータは人化の儀式を受けようとしているのだろう。」


なるほど……犬と猫の間で子供ができないようなものか? 人化の儀式か……マリーが何か言っていたような気がする。生命の神秘だな。


いや待てよ? ならばなぜここの黒ギャル達は私に群がってくるんだ? 私を相手にしても子供を作ることは不可能だろうに……




昼食を終えた私はクロコとクロミを連れて先ほどの山に来ている。いや、もう山ではないのだが。ある意味悪質な環境破壊だな。少し罪悪感を覚えてしまった。


山はえぐれドス黒いクレーターと化し、周囲の木々はなぎ倒され……まさに爆心地だ。もしもただ落とすだけで、私が加速をつけなかったらどの程度の被害だったのだろう。




魔力探査を地中深くまで広げてみると……


「いるな……」


「えー? まだいるのー!?」

「ニンちゃんどうするのー!?」


かなり深くにいやがる。慌てて地下に逃げたのか、それとも元々そこにいるのが本体なのか……


反応は弱々しいが……


山がなくなるほどの衝撃と熱量でも生き残るような魔物か……




まあいい、乗りかかった船だ。全部ほじくり返してでもトドメを刺してやる。


水錐みなきり


水のドリル魔法だ。地面に大穴を開けるにはやはりこれだな。半径十メイル、巨大な縦穴を掘ってやるぜ。


「ふえぇーニンちゃんすごーい!」

「何これ!? 水が渦巻いてるぅ!」


ふふふ、私の創意工夫が詰まった魔法だ。岩にすら穴が開くからな。


穴を掘るたびに水に大量の土や砂が溶け込んでいく。どんどん重くなるな。無理矢理ぶん回してやるか。





土砂を含んだ水錐を何度も取り替えながら掘り進むこと一時間。そろそろだ……

むっ、急激に奴の魔力が膨れ上がった。


クレーターにひび割れが走る。まだそんな力を残してやがったのか。


そして……


クレーターが弾け飛び、奴はその姿を現した。




キモい……


直径十五メイル程度の球体?

その体のいたるところから毛のようなものが生えている。いや、あれがミミズの正体か?

奴はそのミミズを急激に伸ばし私に襲いかかってきた。


『火球』


見えていれば何てことない。燃えてしまえ。

ん? 効いてない。いや、あれはまさか……


「ちょっとニンちゃんヤバくなーい?」

「ニンちゃんの魔法吸収されてなーい?」


されてるな……

つまり、あのミミズに絡め取られたらアウトだ。


「逃げるぞ。二人は先に村に帰って知らせてくれ、こいつはヤバい……」


「えー!? またぁー!?」

「ほら! 行くよ! ニンちゃんの邪魔しないの!」


せめてこいつらが逃げるまでは……


『降り注ぐ氷塊』


やっぱこれは効くな。このまま時間稼ぎしつつ上空に逃げる。追ってくるか?




くそ、ダメージはあるようだが触手のようなミミズがいくらでも生えて、伸びてきやがる! こいつ自身は飛べないようだが、どこまでもミミズが伸びてくる。キモいな。


『烈風斬』


ミミズ自身にはある程度の魔法は効くので全て切り刻んでやる。しかし、ヤバイな……

魔力、残りが……


「ちょっ、ニンちゃーん!」


クロコ!?


何やってんだよ! ミミズが足に巻き付いているじゃないか!


「それぐらいぶっちぎって逃げろよ!」


「すごい勢いで魔力を吸われちゃって! 助けてぇえええ!」


クソ! 何してんだよ!


『風斬』


クロコの足を掴んでいるミミズどもはぶち切っても次々と伸びてきて再び巻きついてしまう。ボケっとしてないでさっさと逃げろよ!


「助けてよ! 魔力がもうなくて飛べないの!」


くっそ! なんてポンコツなんだ!

ダークエルフは魔力が高いんじゃなかったんかよ!


『浮身』

『風斬』


ミミズを切りながらクロコをミスリルボードまで引き上げる。そんなことしてたら私までミミズの大群に囲まれてしまった。今は私の周囲に烈風斬を使い続け、近寄るミミズを全て切り刻んでいるが……


しかも他の魔物まで集まってきやがった……

くそ、残り魔力がヤバい……

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