第841話 危機

援軍を呼びに行ったクロミが戻って来るまで後二十分ぐらいか。仕方ない、気絶するほどまずい私の魔力入りポーション酒を飲むしかない……


「くさっ! 何それ!?」


「魔力ポーションだよ……もう魔力がなくなりそうなんでな……」


覚悟を決めて飲む……くそ、意識が飛びそうなほど不味い……吐きそう……


「ぐええぉぼおおろろろー」


匂いを嗅いでるだけのクロコが吐いた……

くっ、下水より不味い……飲んだことないけど……

ぐおぉ……気分が悪い……


でも、二割は回復した。これならいける!


『降り注ぐ氷塊』


集まった魔物とミミズどもをまとめて駆逐する。本体にはあまり効いてないようだが時間稼ぎだ。


本命は……


『メテオストライク』


高高度から氷塊をぶち当ててやる。跡形もなく消えやがれ!


生意気にミミズを手足のように動かして、その場から脱出しようとしているな。しかし『烈風斬』

全て切り取ってやるよ。大人しく潰されてろ。


その時、奴の球体ボディに突如目が開いた。お前はゲイザーかよ。変な魔力を放ったようだが……


「ぐ、痛っ!」


こいつ……いきなりクロコが私の首筋に噛み付いてきた。こいつまで自動防御の中に入れていたのは失敗だったか……くそ、その上すごい力でしがみついてくる……やばい、動脈が……『麻痺』


うそ!? 効かない!?


痛って! 肉を噛みちぎられた!『落雷』『轟雷』


ふう、止まった。はっ!? 氷塊は!?




轟音を立てて奴から離れた場所に落ちてしまった。噴煙が上がり視界が閉ざされる。


しかも今の間にミスリルボードごと地上に落ちてしまった。投げ出される私とクロコ。そこに襲いかかってくる山岳地帯の魔物達。寄りつくんじゃねぇよ!


『燎原の火』


荒地に倒れ伏したまま、私は魔法を使う。くそ、首が痛い……


『浮身』

『風操』


仕切り直しだ。クロコを拾って再びミスリルボードに乗る。奴はどこだ!?


噴煙が落ち着かない……『烈風』


強風で全てを吹き飛ばす。




奴は……どこだ……


居た!


地中に潜ろうとしてやがる!『徹甲連弾』


必殺五十連射を喰らえ! くっ、頭が煮えそうだ……首も痛い……血が……


肉片を撒き散らしているくせに致命傷ではなさそうだ。しかしその場から弾き飛ばすことには成功した。潜らせるかよ!


もう一度くらえ!


『メテオストライク』


遥か上空にさらに巨大な氷塊を作る。それだけでも時間を食うのに高度が二キロルぐらいならば自由落下で更に二十秒はかかる。しかし、そこは魔力で加速! 絶対ぶち当ててやる!


並行して『烈風斬』

ミミズを伸ばす隙すら与えん!




再び奴の目が開き、クロコが襲いかかってきた!


しかし無駄だ。


『拘禁束縛』


同じ手が二度も通じると思うなよ?

呼吸もできないほどガチガチに拘束してやる。

どこまでも足を引っ張りやがるダークエルフめ……

トドメだ!


『白弾』


マウントイーターの無駄に大きく見開かれた目玉。その中心に打ち込んでやるよ!

そんだけ目を開けてりゃいい標的なのだが……


ちっ、狙いは逸れたが当たるには当たった。


さあ時間だ、死ねや!


氷山ほどもある氷の塊が奴を押し潰す。

インパクトの瞬間など見えるはずもなく再び噴煙が立ち登っている。


直撃だ。さすがにもう終わりだろう。




「はっ、ニンちゃん! その怪我! どうしたの!?」


催眠が解けたか。やはり仕留めたのだろう。


「オメーだよ。おおかたあいつに操られたんだろ。使えねー奴だな。」


「ごめーん。だって魔力がほとんどないんだもん! なんでもサービスするから許して?」


「いらんっつーに。サービスしないなら許してやるよ。」


ふぅ、恐ろしい奴だった。まさか催眠術のようなものまで使うとは。おっと、高級ポーションを飲んでおこう。少し血を流しすぎたか。


「これ飲め。飲んだら手伝え。」


「魔力ポーション? あ、これはそこまで不味くないねー。」


市販の高いやつだからな。かなり不味いはずだがアレの後では気にならない。


「そこらの魔物を一ヶ所に集めておいてくれ。解体はしなくていい。」


「分かったー。」


足を引っ張りまくりだからな。これぐらい働いてもらわないと。私は奴の死体を確認しておこう……残っていればの話だが……




魔力の残りはもう二パーセントを切ったぐらいか。もうこれ以上ポーションは飲みたくないし、魔法を使いたくもない。頼むから死んでてくれよ……あー頭が痛い……


ひび割れた巨大なクレーターの中にクレーターがもう二つ。驚いたことに肉片が飛び散っている。消し飛んでない!? まさか、ここから再生なんてしないよな?


使えそうな素材など何もない。肉片を食う気もしない……何かないか……


おっ? あれは魔石か? 半分に割れてるようだが有るだけマシだな。ゲット、収納!

半分しかなかったが、かなりの上物と見た。ドラゴンの魔石の代わりに装備のメンテナンスに使えそうだな。効果にも期待できそうってもんだ。

もう半分は見当たらないのが気になるが、さすがに消滅したんだよな?


それにしても事件起きすぎだよな。私の行く先々で何か起こるんだもんな。これはいったい何あるあるなんだ? いい加減にして欲しいものだ。


そもそも今回の件は、クロコとクロミがあの岩を取ってもいいと言ったからだ。そのせいで寝た子を起こしてしまったのではないか?

まあ私の魔力のせいかも知れないが……何にしても婆ちゃんの村に被害がなくてよかった。


でも、もしフェアウェル村の近くにもいたらどうしよう? イグドラシルの栄養を吸い取るような厄介な魔物だ。ミミズのような根をどこまでも伸ばしたりしている可能性がある。それどころか株分けなんかしたりしてた日には?


まあ私が心配することではない。婆ちゃんに報告しておけばいいだろう。さて、さらに寄って来た魔物を始末しないとな。そのうちダークエルフ達も来るだろうし、それから交代すればいい。あー疲れた。もう少しだけ頑張るとしよう……

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