第839話 山を喰らう魔物

翌日。朝から婆ちゃんの手料理をいただいた。ジャガイモっぽい芋のスープ、年寄りらしい淡く優しい味だった。


「婆ちゃん、ご馳走さま。美味しかったよ。昼までヒマだから何か手伝おうか?」


「カースや、子供がそんなこと考えなくてええんじゃ。好きに遊んでくるがええ。」


完全に祖母と孫の会話だな。前世から通算で四人目の祖母ができてしまった。さて、何して遊ぼう?


そうだ。岩集めをしよう! ムリーマ山脈で集めるつもりだったが、ここで集めた方がよりレアな感じがするもんな。



『見慣れぬ岩ですな。どちらで入手されたので?』


『山岳地帯ですよ。』


『なっ!? 山岳地帯ですと!?』



そんな会話が目に浮かぶ。でも触ったらいけない岩とかありそうだから相談が必要だな。だれか暇そうなダークエルフはいないかな。


いるじゃないか。私をギラギラした目で見つめる黒ギャル達が。


「おはよー。昨日はどーも。誰かヒマ?」


「アタシ! ヒマ!」

「ウチも! 暇!」

「あー、私はもうすぐ順番だから……」

「その次はアーシだし……」


「ちょっと外に出てみようと思ってね。案内をお願いできない?」


「アタシ! アタシが行く!」

「ウ、ウチだって行くし!」


「じゃあ二人とも頼める? これに乗って。」


不思議そうな顔をしながらもミスリルボードに乗る二人の黒ギャル。


「岩を探してるんだけど、巨岩地帯とか岩場とか知らない?」


「あー、それならあそこなんかいいんじゃん?」

「んー、そうねー。『グレイトロックゴーセル』っかないし!」


「じゃあそこで。案内よろしく。」


黒ギャルの案内で村からわずか五分。さらに高い所までやって来た。着いてみてびっくり、山裾から山頂まで巨岩がびっしりと積み上げられている。まるで巨人がコツコツと作業したかのように。これはすごい……


「ここの岩って貰ってもいいの? 問題ない?」


「全然いいしー。上の方から取るといい系?」

「下のやつ取って潰されたのって誰だっけ?」


「知んなーい。そんなダサ坊覚えてねーし。」

「ギャハハっ、ひっどーい!」


そりゃあ普通上から狙うだろうよ。それにしてもほぼ全ての岩が球に近い。なぜこんなことになっているんだ? でも遠慮せず魔力庫の半分ぐらいまではゲットするぜ。楽園でも使うしね。




「ひええー、ニンちゃんどんだけー!」

「どこまで入るのよ? 凄すぎなーい?」


「ニンちゃんって俺のこと?」


「んー、人間だからニンちゃん。ダメ?」

「ねーニンちゃーん。そろそろ欲しいんだけどー?」


欲しいと言われても無理なものは無理だな。


「帰るよ。もう用は済んだから。」


「あぁニンちゃんって勃たないんだっけ?」

「ぷぷっ、マジぃ? かーいそー!」


うるせぇよ。好きでやってることなんだよ。


「あっ、あれ何ぃー?」

「どれー?」


黒ギャルが指差す方を見ると、私がどかした岩の下から何か魔物が現れた。巨大なミミズって感じでキモいことこの上ない。


「あれは魔物だよな? 何てやつ?」


「さあ知んなーい?」

「キモっ! ウチが殺すし!」『風円刃ふうえんじん


黒ギャルその二、便宜上クロミと呼ぶ、が使った魔法によりキモいミミズは切断された。しかし、奴はおかまいなしに土中からニョロニョロと這い出てくる。どんだけ長いんだ?



「手に負えるのか?」


「知んないし!」

「あんなの初めて見るし!」


クロミが切断し続けているが、変わらないペースで土中から出てきている。辺りには切断された先端部がどんどん溜まり続けている。


「クロコちゃんよ、村に戻って長老衆か誰かを呼んできてくんない? ちょっと心配だからさ。」


「えー? アタシぃ?」

「ぷぷっ、クロコだって。ニンちゃんセンスいい!」


「早く行け!」


「ど、怒鳴らないでよ……行くし……」

「ニンちゃんこわーい……」


お前らが頼りないからだろうが。とりあえず私は切り落とした先端部を焼却処分しておくとしよう。


クロコは私ほど速くは飛べないだろうが、ここは村からそう遠くはない。二十分もあれば戻れるはずだ。それまで経過観察かな。




クロミは何回切断したのだろうか。ミミズの勢いは一向に衰えず土中から現れ続けている。これって本体は別にいるパターンか?


「ね、ねえニンちゃん……」


「どうした?」


「そ、その、そろそろ魔力が……」


「魔力がどうした?」


「き、切れそうなんだけど……」


「だから?」


「そ、その、助けて欲しいなー、なんて……」


このポンコツが。ダークエルフは魔力が高いって話じゃなかったのか?


「助けてやるから俺に手を出そうとするなよ? 心に決めた女がいるんだからな?」


「わ、分かったから……ね?」


『風斬』


とりあえずクロミと同じことを続けよう。丸ごと燃やしていいのかどうか判断がつかないからな。援軍の到着まではこのままキープだ。


「魔力ポーション持ってるよな?」


「あ、あるよ。分かったって、飲むって!」


「飲んだら交代な。」


「えー? 早くなーい? 早い男は嫌われるよー?」


無視だ。テメーの不始末を助けてやってんのにこの野郎。




心なしかミミズが太くなってないか? クロミが切断するのに苦労してそうだが。


「おーいニンちゃーん!」


やっとクロコが帰ってきた。数人のダークエルフを連れている。


「あ、あいつは!」


「知ってんの!?」


「まさかこの目で見る日が来ようとは……あれはきっと『マウントイーター』だ! 山、そのものとも言われる悪食の魔物らしい!」

「もしや我が村のイグドラシルの成長の悪さはこやつが原因か!」

「皆の者! やるぞ!」


ダークエルフの男達は派手な魔法でミミズにダメージを与えているが、変化はない。ひたすら土中からニュルニュル現れ続けている。


「この山って失くなったらまずい?」


「いや……まずくはないが……何をするつもりだ?」


「こいつが山そのものって言うなら、山ごと消し飛ばすような攻撃してやろうかと思ってさ。判断は任せるよ。」


イグドラシルの栄養を奪うようなふてぇ魔物だ。半端な攻撃は効かないのだろう。本体の位置だって怪しいし。


「ならば……人間よ。頼む。やってみてくれ……」


「分かった。クロミ、もう二分。続けておいて。できるな?」


「できるしー。でも早くイッて欲しいしー。」


私はミスリルボードからクロミを下ろし、空高く上昇する。雲の上まで、どこまでも高く。天空の精霊はここにもいるのだろうか?


魔力庫から先ほど収納した巨岩を十個、取り出して自由落下させる。その最中で『氷球』

全ての岩をまとめて一つの巨大な塊へ。そして私も一緒に落下する。狙いが逸れてはいけないからな。

一応『伝言』の魔法で避難を勧めておこう。どれだけの衝撃か分からないことだし。




よーし、どうやら狙いは外しそうにないな。では最後の仕上げだ。『重圧』

さらに加速させてやる。


しかし、それよりも先に私も降りる。万が一にも村に被害がいかないように巨大な水壁を構築しておかねば。





そして、落下。

直撃。

キノコ雲。

土砂津波。




山は消え去り、大量の土砂、粉塵が空高く舞い上がっている。水壁だけでは防ぎきれそうにないか……


私は全速力で村の上空まで戻り、村を覆うように水壁を展開する……どうだ……?




間に合った!


天空高く舞い上がった土砂、礫岩は弾丸のように降り注ぐ。危うく村の家屋に被害が出るところだった。少しやりすぎたか。太陽がすっかり隠れてしまったな。


『雨雲』


おっ、誰だ? 辺り一帯に雨が降り始め、見る見る砂埃が落ち着いていく。


「何事だい? 天変地異かと思って焦ったじゃないか。」


「婆ちゃん! 山から変なミミズが現れてね。ヤバい奴だって聞いたから山ごと潰しておいたよ。」


「マウントイーターって話だったかね。やれやれよの。カース、よくやってくれたね。まさかそんなものがこの近くに潜んでいたなんてねぇ。」


もう知ってるのか。さては伝言の魔法で報告を受けたのか。さすがダークエルフ、やるな。


「まあ原因はクロコとクロミなんだけどね。あいつらがグレイトロックなんとかの岩を取っていいって言ったからなんだよね。」


決して私のせいではない。


「誰だいそいつらは。グレイトロックゴーセルの下に潜んでいたってのかい。あんなとこ誰も行かないからねぇ。さーて、砂埃も落ち着いてきたか。カースや、水壁を解除していいよ。」


「うん。これでイグドラシルもさらに大きくなるのかな?」


「おそらくの。それにしても山ごと消し飛ばすとは……恐ろしい子じゃ。」


これでイグドラシルもさらに太く、逞しくなるのだろうか? 上の方が神域ってことだが、根元が枯れたらどうなるんだ?

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