第831話 学徒動員
夕方。私は自宅に戻った。
アレクもリゼットも起きていた。
「ただいま。体調はどう?」
「おかえりなさい。私は最高よ。今ならエリザベスお姉様にも勝てるかも知れないわ。」
「おかえりなさいませ……私は体中が痛いです……変な姿勢で一晩中……だったもので……」
「最高なんだ。それはよかったよ。じゃあ夕食にしようか。」
リゼットの都合なんか知らん。
「あー、リゼット。残り半分の支払いだけど、今月を過ぎたらトイチで利子が付くから注意してね。」
「ぐぉがーん! カース様……それはご無体な……でもそんなカース様が……」
「そんなことより晩飯食っていく?」
「はいぃ! いただきます!」
まったく……アレクが余計なことをするから。でもそんなアレクもかわいいよな。アレクがやることなら何でも許してしまうぞ。でも今夜もお仕置きかな。
ふふふ、あ……
「ところでアレク。寮に戻らなくて大丈夫? 騎士学校では学徒動員されてたよ?」
「それは、まずいわね……内申に響きかねないわ……」
「やっぱり魔法学校でも同じことになってそうかな?」
「ええ、きっとそうよ。ごめんカース、寮に帰るわ。一緒に来てくれない?」
「もちろんいいよ。じゃあリゼット、帰っていいよ。もしくは食べてから帰ってもいいよ。」
「もおぉー! カース様の意地悪! アレックス様のバカぁー!」
そう言ってリゼットはむくれている。アレクをバカと言ったな。今度お仕置きだ。
「カース、少しだけでいいから、リゼットに優しくしてあげてくれないかしら……」
「いいよ。優しくするね!」
アレクの頼みなら当然だ。
今夜の夕食はマーリンと二人きりかな。まあたまにはそれもいいか。進学しないから内申なんかどうでもいいはずなのに気にするアレクって偉いよな。
「じゃあ次に会えるのは月末かな。まだまだ先だね。」
「一日千秋って言うのよね。カースに会えない日が十日近くあるなんて……」
「それでも学校をサボろうとしないアレクは偉いね。そんなとこも好きだよ。」
「カース……//」
私の自宅からはマイコレイジ商会の方が近い。三人で歩いてリゼットが先に離脱した。
「絶対またお邪魔しますからね!」
「ああ、月末まで留守にするから。またな。」
「またねリゼット。楽しかったわ、色々とね?」
「アレックス様……私もです……//」
この二人の間に一体何が……
まあいい。ようやくアレクと二人きりだ。魔法学校までのわずかな道のりではあるが。
「やっと二人だけになれたね。できればリゼットなんかは呼ばないで欲しいな。」
「うん……分かったわ……その代わり、たくさんかわいがってくれる?」
「もちろんだよ。じゃあアレクも大変だと思うけど、頑張ってね。」
あーあ、ついに魔法学校に到着してしまった。
「じゃあ確認してくるから少し待っててくれる?」
「いいよ。行っておいで。」
やはり魔法学校生にも召集がかかっているのか? 貴族学校生にはかかってなかったよな?
待つこと五分。アレクが暗い顔をして戻ってきた。
「やはり学徒動員されてたわ。不幸中の幸いだけど今日からね。貴族学校は明日からみたいよ。私は一日ほどサボってしまったことになるわ……」
「なるほど……そうなんだね。ごめんね、ずっと僕と一緒にいたせいで。」
「ううん、そんなことない! 私が校則を忘れてしまっていたのがいけないの! 緊急時には普通にあり得ることなのに!」
なるほど。普通のことなのか……それは確かに聞いてないでは済まないな……
「分かった。お互いのミスってことだね。じゃあまた月末だね。楽しみにしてるよ!」
「私も!」
アレクはそう言って私に抱きついて口づけをした。守衛さんが見てるぞ。しばらく会えないな……
今夜はコーちゃんもカムイもいない。かなり珍しいことにマーリンと二人だけの夕食だった。
夕食を終えればマーリンは帰る。
つまり、この豪邸に私は一人きり。とても妙な気分だ。寂しいと表現すればいいのか、よく分からないな。
一人の時にしかできないこと……何だ? ファミコンも漫画もない、ネットも動画もない。本は最近全然読まなくなってしまったから持ってない。あ、そうだ。庭いじりをしよう。
数年前に積み上げたムリーマ山脈の岩、未だに詰みっぱなしなんだよな。これをカッコよくカットして配置してみよう。
ふう、前衛的な庭になったのではないか。モアイ像やストーンヘンジもあるぞ。立った星型の岩やピラミッド型、色々作ってみた。
やってみてから気付いたが、せっかくオリバーさんが面倒を見てくれた風流な庭が台無しになってしまった……なんと言うか和風アバンギャルドな庭だ。天然石はカットするもんじゃないな……そのままバランスよく配置するのが一番だ。まあいいや、また領都に帰って来た時に集めなおそう。岩なんてムリーマ山脈に行けばいくらでもあるもんな。
さて、一人寂しく風呂に入って寝よう。大豪邸独りぼっち……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます