第830話 ダミアンとセルジュ

辺境伯邸ではたくさんの人間が動き回っているかと思えば、そんなことはなかった。

ダミアンを中心として十人程度が忙しく仕事をしているようだった。


「人数少なくない? こんなんで終わるのか?」


「おお、来たか。少ないに決まってんだろ。親父殿はウチのことは後回し、俺に任せるから上手くやれだとよ。」


なるほど。さすがは辺境伯。まずは公の部分が優先だよな。長男二男は何やってんだ?


「そっか。少しぐらい手伝うわ。何しようか?」


「おお、すまねぇな。それならオメーがぶち壊したホールの瓦礫を撤去してくれや。もしできるんならキレーに更地にしといてくれると助かるぜ。」


「はは、悪かったよ。あん時は焦ってたって言うか、頭が真っ白だったからな。」


「なーに、いいってことよ。んじゃあ頼むぜ!」


きれいに更地か……まずは瓦礫を撤去してからだろうな……色々と話を聞くつもりだったが、とてもそんな状況ではない。私もアレクもダミアンも、みんな無事だったんだから良しとしよう。それにしてもラグナまで真面目に片付けをやっているなんて変な光景だな。すっかり真人間になったようで嬉しいものだ。


よし、やるか!

瓦礫の撤去は王都で慣れた。まずは上に乗っているだけのヤツを『浮身』で浮かせて収納。

上の瓦礫がなくなればその下も浮き出してくる。そうやって次々と収納していく。


さて、次は崩れかけた壁や天井だ。崩してしまってもいいが、埃が立つからな……『水滴みなしずく』の魔法でしっかり濡らしておくかな。

ではまず天井から……強めに『浮身』

ミシミシ……ゴリゴリ……と音を立てて天井が浮き上がる。よし、すかさず収納。


よし、次は壁、そして柱だ。同じ要領で収納。


最後に床や基礎部分だが……ちょっとダミアンに相談かな。


ダミアンはどーこだ。ああいたいた。


「おーいダミアン。ちょっと見てくんない?」


「おお、どうした? 今行くわ。」


当然ながらダンスホールだった所は跡形もない。


「これなんだけどさ、床から基礎から全部撤去していいのか?」


「オメー……もうこんなに終わらせたのかよ……さ、さすがだな。ならここはこのままでいい。回収した石材と太めの木材だけ庭に出しておいてくれや。」


「おう分かった。その後は?」


「今回の件で分かってることだけでも説明しとくといいんだがよ。まだその段階じゃねぇ。オメーに任せるほどの仕事はないからよ。すまんがラグナとリリスはもう少し頼むわ。」


「分かった。たぶんまた領都を離れて月末には戻ると思う。その時にでも聞かせてくれ。クリムゾンドラゴンの魔石も合わせてな。」


「おお、オメーも忙しいな。今日は助かったぜ、またな!」


ダミアンの助けになったのなら何よりだ。さて、庭に石材と木材を出しておこう。それでもゴミがたくさん魔力庫に残ったが、楽園で何か有効活用してみるかな。


さて、夕方までまだまだ時間はある。セルジュ君の所に行ってみよう。情報がどうなったのか気になるし、こちらからもある程度伝えてあげないとね。




貴族学校の寮に到着。やはりまだ休校しているようだ。セルジュ君はいるかな? ノックしてもしもし。


「はい?」


「やあセルジュ君。一応解決したから知らせに来たよ。」


「カース君! いいところに来てくれたよ。入って入って。」


おやおや、何かあったのかな?


「お邪魔しまーす。」


「あら魔王さん。あの時はどうもぉ。」


この子は、知ってるぞ。確かダマネフ伯爵家で三番目に踊った子だ。名前は……


「そういえば殺し屋探しに協力してくれるんだったね。どうなのセルジュ君、この子は役に立った?」


「それを今から話してくれようとしてたんだ。本当は女の子を部屋に入れたくなかったんだけどね。カース君を助けたいって言うものだからさ。」


「そうなんですぅ。殺し屋が分かったのでお知らせに来たんですぅ。何でも毒針って呼ばれてる超一流らしいですぅ。」


うーん、そこまで辿り着いたのは見事だけど……


「バズガシカさん。それはもう分かってることだよ。問題はその居場所とか素性とかでないと。」


思い出した。バズガシカ子爵家とか言ってたな。


「実はもう仕留めたんだ。だからもういいよって言いに来たんだよ。ちなみにセルジュ君は何か新しい情報とかってある?」


「え!? もう!? さすがカース君だね。僕の方はさっぱりだよ。先日のダマネフ伯爵家の事件に関わってそうな同級生の姿が見えないぐらいかな。」


その件もあるよな。果たして関係あるのか無いのか。


「どんな子達?」


「成績の低い上級貴族四人組なんだけどね。僕やカース君を目の敵にしてるみたいなんだ。クライド君やラリーガ君って言うんだけど。」


クライドって名前は聞き覚えがあるような。あの時、ステージ上に居たよな?


「その子達なら騎士団に捕まってる可能性があるね。もう聞いてるとは思うけど……」


当日のことをセルジュ君に説明する。この女の子は来たばかりだそうだからまだ話してないよな。


「なるほどね。そんなことがあったんだね。それにしてもカース君、怒涛の展開だったようだね。」


「大変だったよ。ダミアンは世話がやけるし。」


活躍の場面しか話してない。私やアレクの怪我は秘密だ。


「じゃあ一件落着でいいのかな? それなら金貨の余りは返すね。」


「いやいや、いいよいいよ。サンドラちゃんとの新居の費用の足しにしてよ。せっかく動いてくれたんだし。」


「相変わらずだね。なら、ありがたく貰っておくね。」


「じゃあまたね。もうすぐ卒業で大変とは思うけど、頑張ってね。」


「え? 魔王さんもう帰るんですかぁ!? どこかお食事にでも行きましょうよぉ!」


この子まだ居たのか。もう用はないってのに。


「行かないよ。もう帰るから。かわいいアレクが待ってるもんでね。」


「じゃ、じゃあもし何か有益な情報があったらいいんですか?」


「あったらね。騎士団やダミアン以上の情報があるならね。」


「分かりました! 役に立ってみせます! そして言うこと聞いてもらいますからぁ!」


それでも聞くだけなんだけどね。叶えるとは限らんよな。今度こそ帰ろう。しかしこれでまたいつかセルジュ君をイジれるな。女の子を寮の部屋に連れ込んだって。ふふふ。




騎士学校にも寄ってみたが、スティード君は居なかった。どうも学徒動員的なやつらしい。こんな時だもんな。猫の手も借りたいよな。ならば魔法学校も? アレクは一度寮に帰した方がいいかな?

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