第827話 依頼遂行
ぐずるリゼット会長を置いて私達はムリーマ山脈の北部へとやって来た。
とは言え、ここは広いからな。いくら地図を見たからって石切をしている現場を見付けるのは至難の業だ。アレクと手分けをして『遠見』を使っている。
「カース、きっとあれよ。」
さすがアレク。もう見付けてくれたか。どれどれ……
「あれって……魔物に襲われてない?」
「そうみたいね。定番の魔物、ブルーブラッドオーガかしら?」
えらい気楽だな。まあ護衛の冒険者もいるし、慌てることはないだろう。獲物を横取りしたって言われたら嫌だしね。まずは近付くだけにしておこう。
高度を落として声だけかける。
「手に負えなかったら言ってくれ。こっちで片付けるから。」
冒険者の数は九人、二パーティーかな? 返事はない。つまり手出し無用ってことだな。ならばこのまま見物だ。
ふーむ、どちらもそれなりの腕前のようだ。だが、お互いのパーティーに対抗意識を燃やしているようにも感じる。やがて十数匹のオーガは全滅した。お疲れ。
私は地上に降り、現場監督らしき職人に挨拶をする。
「クタナツの十等星、カース・ド・マーティンです。リゼット会長の依頼で石を運びに来ました。」
「同じく八等星アレクサンドリーネよ。」
「おめぇらがぁ? 会長の依頼だとぉ!?」
ぬっ、このパターンか。面倒だな。
「で、運ぶ石はどれですか? サクサクやってしまいましょう。」
「あぁ? おめぇの細腕でどうやって運ぶってんだぁ?」
「魔力庫に決まってんだろ……」
おっと、ビジネスモードが崩れてしまった。この魔法社会で何言ってんだか。むしろ数十トンの岩を腕力で解決できるか? フェルナンド先生でも無理だろ。
「あれだけの岩が入るってのか!? 舐めんじゃねーぞぉ!?」
全部は無理だが結構入るぞ。なんせ私の魔力庫は五十メイル四方の立方体だからな。確か天然石ってのは比重が二〜四グラムぐらいのはずだ。ならば私の魔力庫にギチギチに詰めたら……一立方メイルあたり約三トン、よって十二万五千立方メイルで……三十七万トン!
めちゃくちゃだ……そんなに容量があるのか私の魔力庫。
あ、全部入ってしまった。さすがにきつい、妙な満腹感だ。
体感で六割ちょい、つまり二十万トン以上の岩が入っているのか……これ一回で城壁の修理は完了するんじゃないのか?
「あ、あが、ご……」
現場監督も言葉を失っている。
「石切はまだ続けるのか? それならまた来るが?」
「あ、あお、つ、続ける……」
「分かった。会長と相談してある程度溜まった頃にまた来る。では、ご安全に。」
「あ、あがが……んぜん……」
これなら余裕で夕方までに帰れるな。いやぁ魔力庫の容量を増やしといてよかった。なんせ昔の八倍だもんな。効率が違いすぎる。
ちなみに報酬が一トンあたり金貨二枚だから二十万トンなら……四十万枚!?
白金貨でも四百枚!?
マジで!?
もう働かなくてていいじゃん!
それどころか一生豪遊できるレベルだ……いいのか!?
いや、いくらマイコレイジ商会が一流商会だからってそれだけの金を右から左には動かせないよな?
普通なら何日もかけて大勢の冒険者を何往復もさせて運ぶものだろうしな……まさか日帰りで全部運ぶとは会長も予想してなかっただろうな。
さて、マイコレイジ商会の資材置場に到着。見た感じギリギリ置けそうだが……たまたまここにいた番頭さんに相談だ。
「番頭さん、何なら城壁付近まで運んでもいいですよ?」
その方がそちらの手間が省けるってもんだ。ウィンウィーン。
「あ、あのマーティン様……どれほど収納されてますか?」
「体感で二十万トンは超えてます。ここでも何とか置けるとは思いますよ?」
魔力庫なのに体感って変な話だがね。でも感じるんだから仕方ない。
「二十万……で、では半分だけここにお願いできますか?」
「分かりました。」
およそ半分、十万トンもの岩を外に置く。さすがに凄いな……これなら楽園の工事もサクサク進みそうだな。
「あ、ぐ、ご……」
番頭さんが現場監督と同じような反応をしている。考えてみれば魔力庫の大きさって魔力と比例するもんな。ファンタジーあるあるの無限収納に比べたらしょぼいが、全く不足はない。
むしろ今後は徹甲連弾なんか使うより十万トンメテオなんか使った方が確実じゃないのか? 高度を上げて魔力庫を解放、そこから私の魔力でさらに加速。ドラゴンだって跡形もなく消滅するんじゃないか? まあ避けられるよな……それに環境に悪そうだし、使うことはないだろう。
「では残りは北の城壁でしたね。案内をお願いします。」
「は、はひ、馬車で行きましょふ!」
落ち着けっての。
北の城門に到着。番頭さんは騎士に相談しているようだ。クタナツにしても領都にしてもこれだけの城壁を作るには一体何万トンの岩が必要なんだろうな。そりゃあ岩なんていくらでもあるけどさ。
「マーティン様、あそこにお願いします。」
「分かりました。」
ふう、これで依頼終了だ。では報酬の話をしようか。
「それではマーティン様、会長の所へご足労いただけますか? これをお持ちください。私は今しばらくここにおりますので。」
「ええ、分かりました。」
番頭さんから受け取った紙には『城壁用岩二十一万トン』と書かれていた。いつの間に計測したんだ?
「問題ないわね。」
「え? 何が?」
アレクには何が分かってるんだ?
「私も測ってたもの。二十万八千九百トンだったわ。さすがは番頭さんね。サービスがいいわ。」
「え? いつの間に!?」
「そんなの『計量』の魔法を使えばすぐよ。」
さすがはアレク。そんな魔法まで使えるとは。頼りになるなあ。さあマイコレイジ商会へ戻ろう。それから夕食だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます