第826話 指名依頼

さて、ようやく私の順番だ。


「どのようなご用件でしょうか?」


「相談です。」


私はギルドカードと国王直属の身分証見せながら話を切り出した。


「ひっ、まおっ……」


「つい先日、騎士団からギルドに依頼があった件、南の城壁外での魔物解体についてです。かなりの量の素材が冒険者の懐に入ったようです。まあそれはいいんです。許せないのはクリムゾンドラゴンの魔石を盗んだ者がいることです。分かりますか?」


「は、はい、あの、それは……」


「この状況です。呑気に犯人探しをする気はありません。魔石が返ってくればそれでいいんです。ギルドとしてはどのような対応をお考えですか?」


一介の受付さんには無茶な話だがね。


「あ、あの、その……」


「当然この話は他のギルドや各商会でもするつもりです。フランティア中のギルドを統括する本部としての対応に期待しております。」


受付さんは青い顔をしているが、言いたいことは言った。これでギルドが動けば儲けものだが。普通はこのケースってギルドは不干渉だもんな。


さて、もう用はないかな。次は……


「あ、あの! カース様! お待ちください! 指名依頼が来ております!」


「指名依頼ですか?」


これは珍しい。大抵は七等星以上の腕利き冒険者に行くものだが。


「はい! マイコレイジ商会からです。内容はこちらです!」


受付さんからメモ書きが渡される。


種別:運搬

概要:ムリーマ山脈から領都まで石材の運搬

報酬:一トンあたり金貨二枚

期間:応相談

備考:都合のいい時で構いません! カース様のご助力を期待してます!

リゼット・マイコレイジ


なるほど。会長直々の依頼か。特に問題はなさそうかな。普通なら一トンもの岩を運んで金貨二枚なんてやってられないだろうがね。


「受けます。」


「あ、ありがとうございます! では後はマイコレイジ商会と打ち合わせをされてください!」


「分かりました。では例の件もお願いしますね。」


「は、はあ、そ、それは……」


態度がえらく違うな。まあいいけど。やっとゴミゴミしたギルドを出られる。




ん? 外に出てみればアレクが、しまったって顔をしているぞ?


「ご、ごめんなさいカース……すっかり忘れてたんだけど……実はリゼットもカースの側室候補に考えてたの……」


なん……だと……?


「それはどうしたこと?」


「この前、楽園に行ったじゃない? あの時話してみてカースを支えるのに相応しいと思ったの……権力のソル、財力のリゼットで……だから……」


うーん、さすがにアレクの思考は上級貴族だな。閨閥作りに余念がないとでも言うのだろうか。


「なるほど。気持ちは嬉しいけどソルダーヌちゃんでさえ断ったぐらいだからね。必要ないよ。僕に必要なのはアレクだけだよ。分かってるよね?」


「うん……嬉しい……ごめんなさい……」


「じゃあ今夜のお仕置きは二倍だね。寝かせないよ?」


「うん……お仕置きして……」


アレクの気持ちは嬉しいんだがな……

それに例え私の気が変わったとしても自分にかけた契約魔法はおいそれとは解けない。現在の数倍もの魔力を手に入れない限り。


それから私達は高級服飾店のベイツメントに顔を出し、魔石の話をしておいた。ギルド関係に売れないとなると直接商会などに持ち込むこともあり得るからな。


ではマイコレイジ商会に顔を出すとしようか。セルジュ君とスティード君も心配だが、昼からでいいだろう。




到着。すぐさま会長室に案内される。


「カース様! 早速のお越しありがとうございます! こんな時なのに! さあさあどうぞこちらへ! アレックス様もようこそ!」


あれ? この人ってこんなキャラだったか? もっと落ち着いて仕事ができる感じだったような?


「久しぶりね。無事で安心したわ。」


「では依頼の話を聞かせてもらえるかな。」


「はい! こちらの地図をご覧ください。」


さすがに一流商会が使ってる地図は精密さが違うな。目的地は領都から南南西におよそ二百キロルか。そこで職人達が石切をしているから領都まで運んでくればいいわけだな。

むしろ私も石切に協力してもいいな。まあそれは現場に行ってからだろう。


「何か急ぐ理由でもあるの?」


「はい! ズバリ北の城壁です! 数年前に北の城門が崩れた時も大変でしたが、今回は城壁です。可能な限り早く修復する必要があります!」


あー、あれね。なるほど。そりゃあ急がないとな。つーか、マイコレイジ商会って城壁の資材まで担当できるほどのレベルかよ! 凄いな!

ならば、辺境伯には好感を持ってることだし、ちょっと行ってくるかな。


「状況は分かった。この際だからこっちの状況も伝えておく。僕の伴侶はこのアレク一人だ。先日辺境伯家のソルダーヌも断った。」


「えっ、ちょ、何……」


「悪いわね。私の勇み足よ……でも私とあなたの友情は変わらないわ……」


勇み足、この言い回しが存在するとは……


「アレックス様……私のような年増のババアは用無しってことですか……女伊達らに商会の切り盛りなんかしてる金ゲバ女なんか要らないと……」


「いや、その、違うのよ……私はカースのためを思って……でもカースは、その……」


「アレックスさまぁ……? どーしてくれるんですかぁ……? 久々の恋だったんですよぉ……カース様って平凡な顔して行動が過激だから私もうドキドキだったのに……」


平凡な顔……うるせぇな。自分の顔ぐらい自覚してるっての。


「リゼット、すまんな。アレクを許してやってくれ。その代わりマイコレイジ商会の仕事は可能な限り優先して請けるから。」


「カース様……私は妾にする価値すらないってことですか……?」


「そうじゃない。もうすでに超強力な契約魔法を自分にかけてしまってな。アレク以外に不犯の誓いだ。悪いが宮廷魔導士長ですら解けない。」


「そ、そんな……じゃあ私は一体どうすれば……この込み上げる熱い想いは……」


「さて、アレク。ムリーマ山脈に行こう。夕食までには帰ってきたいからね。」


リゼット会長には悪いが時間切れだ。私の操はアレクのものなのだから。


「リゼット、いい考えを思い付いたから後で言うわ。帰ってからね!」


「アレックスさまぁ……私もう二十歳にじゅっさいを越えてしまったんですよぉ……身を焦がすような激しい恋をしてみたかったんですよぉ……うえぇぇん……」


アレクの考えとは?

つい成り行きでムリーマ山脈に行くことになってしまったが……もうどれだけ宿題が溜まっているのか分からなくなってしまった……

とりあえずやりたいようにやろう。

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