第828話 カムイの旅立ち

商会に着くとすぐさま会長室へ案内された。


「カース様! もう戻られたのですか! おかえりなさいませ! 夕食にしますか? お風呂にしますか? それとも……」


「報酬が欲しいな。これ、番頭さんから。」


渋々目を通すリゼット。


「……に、二十一万トン……?」


「そうみたいだね。報酬払える? 分割でもいいけど?」


「……無理です……待ってください……とりあえず……」


リゼットは虚ろな顔でフラフラと歩き隣の部屋に入っていった。




そして五分後。重そうな鞄を持って戻ってきた。


「カース様……まずは白金貨二百枚ほどお受け取りください。残り半分は今月中に必ず口座に入金いたしますので……」


マジかよ。対応が早すぎる。さすがは一流商会だな。


「じゃあ発注を頼もうかな。大衆浴場と公衆トイレ。広さはそれぞれ……」


ちょうどいいから頼んでしまおう。湯船は巨大なやつを一つと小さいやつを複数でいいだろう。公衆トイレはそこら辺にあるサイズでいい。ただしスライム浄化槽式だ。


「ご注文ありがとうございます! 全力で作らせていただきます!」


「じゃあできたら知らせてね。」


「かしこまりました! それで……そのアレックス様……」


「ああ、あの件ね。今夜カースの家に来てくれる?」


ん? アレクは何を言ってるんだ?


「はいっ! 行きます! 伺います!」


まあいいや。アレクには何か考えがあるんだろう。




さて、自宅に到着。カムイもコーちゃんも待っていてくれた。リリスにマーリン、ラグナもいないか。辺境伯邸に手伝いに行ってるんだったか。つまり今夜は楽園状態。リゼットは来なくていいのに。


「じゃあ私が夕食を作るわね。待ってて。」


「うん、ありがとね。」


「ピュイピュイ」「ガウガウ」


ではそれまでの間に……

カムイ、ちょっと庭に行こうか。確かめたいことがある。


「ガウガウ」


攻撃してきてくれるか? 初めはゆっくり、段々強く頼む。


「ガウッ」


ぬっ、もう来た! 全然見えない。ゆっくりって言ったのに。自動防御に反応あり、しかし破られてない。一瞬の間に何回攻撃を食らってんだよ……


『氷散弾』


やっぱだめだ。速すぎて全然当たらない。ホーミングがまるで無意味だ。アッカーマン先生はこんなカムイと互角だったのか……いや、この動きを見切って鼻に激辛香辛料をぶちまけたのか。


『榴弾』


全然だめだ。庭が荒れる一方じゃないか……速すぎる……

よし、カムイ。そろそろ本気で頼む。


ぐはっ! 頭突きか? 自動防御を突き破り吹っ飛ばされた。


『氷壁』


追撃をくらわないよう厚めに防御をしたのだが……やはり頭突き一発で砕け散った。カムイ凄いな……

そして巨大な顎で私の首を噛みちぎろうとして、止まる。「ガウッ?」


ふふふ、自動防御局所バージョンさ。普段使ってる程度の魔力で首だけを集中して守ってみた。まあ私の場合、首から下は装備がいいからそこまで守る必要がないんだよな。アッカーマン先生の細剣にはあっさり突き通されたけど。きっとカムイ相手でも……

まあいいや。普段使ってる程度の魔力でもカムイの攻撃を防げたのは収穫だな。


ありがとよ。今夜は洗ってやれないから今やるよ。ほいっ。


洗濯魔法で洗っておいた。カムイは少し悔しそうだ。まともに戦ったら絶対カムイの方が強いよな。なんせ動きが全然見えないんだから。いつかのグリフォンより絶対速い。これがノワールフォレストの森でアンタッチャブルとされるフェンリル狼の実力か。


「ガウガウ」


え? 楽園に戻りたい?

そりゃいいけど。

二、三日待ってくれるか? ここでの用事が終わったらどうせ行くから。エルフの村にも行くしな。


「ガウガウ」


待ち切れないから先に行く?

それなら仕方ないな。なら城門まで一緒に行こうか。「ピュイピュイ」


え? コーちゃんも? 二人ともどうしたんだ? せめて夕食を食べてからにしない? いや、食べてたら城門が閉まってしまうか。仕方ない、今すぐ行こうか。




城門を出て二人を見送る。コーちゃんはカムイに巻きついている。あっと言う間に見えなくなってしまった。コーちゃんもカムイも勘がいいからな、何か楽園で異変でも起こっているんじゃないだろうな? 私もなるべく早く行こう。


自宅への帰り道、ちょうどリゼットの馬車と一緒になったので乗せてもらった。アレクは何を考えてるんだろうか。




たわいもない話をしながら我が家へ到着。リゼットって完全にキャラが変わってしまったな。いや、私の前で本性をさらけ出しただけなのか?


「ただいま。リゼットが来たよ。」


「おかりなさいカース。どこに行ってたの? リゼットもよく来たわね。」


「は、はひ! お邪魔いたしまする!」


ちなみにマイコレイジ商会の馬車は帰った。

そこにはアレクの手料理が並べられていた。しかもさっきのやりとり、まるっきり新婚さんじゃないか。くそ、リゼットがいなければこの場で一戦交えるものを!


言うまでもないが、アレクの料理は絶品だった。私は満足だ。アレク大好き。


「かなりおいしかったよ。ありがとう。で、リゼットを呼んだ理由は何?」


リゼットめ、私んちに来るだけなのにまるで王宮のダンスパーティーにでも行くのかってぐらいドレスアップしてやがる。そりゃ美人だよ。ソルダーヌちゃんより歳上なんだし色気もあると思う。しかし私の食指は動かないぞ。


「ソルには言えなかったんだけど、リゼットになら……」


ほう? 何かアイデアでもあるのか? リゼットは目を輝かせてアレクを見ている。


「今から三人でお風呂に入らない?」


アレクは一体何を言っているんだ?

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