第803話 アレクサンドライト

金緑紅石きんりょくこうせきか……

エメラルドと何が違うんだろう。すると店長は突然闇雲の魔法を使い部屋を真っ暗にしてしまった。


「では魔王様、光源の魔法をお使いください。くれぐれも軽くお願いします。」


『光源』


すると、青緑色だった原石が……真紅に変わっていた……

これは……聞いたことがある。

ロシアとかで産出されて当初はエメラルドと勘違いされてたが、実際には全くの別物だとかいう……


アレクサンドライトか!


なるほど……これは運命だな。

アレクには赤い宝石がよく似合う。そしてこの石の二面性ときたら……昼間は冷静で凛々しく、夜は情熱的で淫らなアレクをよく表しているではないか。

そして何より名前だ。アレクのために生まれた宝石に違いない。


「自然光と魔法の光でこのように色が変わります。」


よし、決めた。


「買います。おいくらで?」


「原石で白金貨五枚でございます。カットや装飾は別途ご相談させていただきます。」


「カードで。」


いつもニコニコ現金払いとはいかない。さすがにそんなに持ってない。


「ちょっとカース! いくらなんでも……」


「いいからいいから。アレクのためならこれぐらい安いもんだよ。」


実際には私の残高の八割近くがふっ飛んだ。しかし全然構わない。真紅の宝石を身につけてパーティーに行くアレクが見たい。でも一番見たい姿は全裸をこれだけで装飾したアレクかも知れない。うん、間違いない。


「バカ……ありがとう……大好き。」


ぐはぁー! 破壊力抜群の一言だな。夜の店のオネーちゃんに貢ぐおっさんの気持ちが分からんでもない。


「カットや加工はこちらでやりますので、そのまま受け取ります。」


「かしこまりました。それではこちらでございます。仕立て直しやサイズ調整などでしたら無料で承りますので、ぜひご用命下さい。」


「分かりました。いい買い物ができました。ありがとう。」


「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。」


うーん、現金資産が残り少ないな。でも全然構わない。また稼げばいいさ。高そうな木の箱には金緑紅石が納められている。さすがにダイヤモンドよりは安いんだな。でもこの石が気に入ったんだ。アレクにプレゼントする日が楽しみだ。


「じゃあアレク、そろそろ劇場へ行こうか。そのうちプレゼントするから楽しみに待っててね。」


「うん……ありがとう。幸せすぎておかしくなりそうよ……」


それは私もだ。幸せすぎる……

ダイヤモンドを見た瞬間、前世の彼女を思い出してしまったのは内緒だ。せめて彼女の分までアレクを幸せにしよう。いや、一緒に幸せになるんだ。


そしてアレクと腕を組んで劇場まで歩く。いつもよりかなり強く腕を掴まれているような。でもその感触が心地よい。人はたくさん歩いているが、まるで私達にはお互いしかいないかのような感覚だった。これはなんだ? ゾーンか? お互いがお互いに入れ込みすぎて集中しまくっているのか?


そんな不思議な感覚をも楽しみながら劇場に到着。


「ピュイピュイ」

「お待ちしておりました。貴賓席、とれました。これはお釣りです。」


お待たせコーちゃん。


「おう、ご苦労。これお土産な。」


リリスにはお釣りと引き換えにかんざしをプレゼント。安物だが、武器にも使えるやつだ。


「ありがとうございます。」


「マーリンはまだだな。先に行ってるから来たら案内してやってくれ。」


「かしこまりました。」


さあコーちゃんも行こうか。


「ピュイピュイ」




いつもはいわゆるアリーナ席なんだが、今日は奮発して貴賓席、いわゆるボックス席だ。空いててよかった。

さて、今日の演目は……『悪役令嬢サンドラの憂鬱』? 面白いタイトルだな。ぜひサンドラちゃんにも見せたいものだ。


「失礼いたします。」


ん? リリスか。マーリン夫妻もいるな。


「どうも坊ちゃん。本日はご招待ありがてぇこって。アッシみてぇなもんがまさか演劇に来れるたぁ……」


「来てくれてありがとうございます。今日は楽しむとしましょう。」


マーリンの旦那さん、植木職人のオリバーさんだ。時々庭のオトワノキの手入れに来てくれるし、ついでに庭の掃除までやってくれるんだよな。善意で。だから私も給金は払わない代わりにこうして返したいと思っている。


「お茶が入りました。」


貴賓席には軽食とティーセットが用意されている。リリスはてきぱきと用意を整えた。


「ありがと。」


全員がお茶を飲み、気分も落ち着いたところで演劇スタート。どんな物語なのかワクワクだ。

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