第802話 ぶらり街角ショッピング

騎士団詰所に四人の女の子を連行し、事情も説明した。なんとなくクタナツでラブレターを餌にした殺し屋に狙われたことを思い出してしまったな。あの時の女の子は奴隷に落とされてどこで働いているんだろうな。まだ生きているのか?


あー、それにしてもスッキリしない日々だ。搦め手からチクチク狙われて、相手の正体は分からないときたもんだ。こんな時、組合長は娼館に入り浸ると言っていたが……私はどうしたものか。とりあえずアレクと久々の再会なのだからデートを楽しもう。明日と明後日は休日なのだから。


「……とまあそんな訳でダミアンが危なくてね。仕方なく助けてやってるとこなんだよ。」


「カースも大変ね。それとなく同級生に話してみるわね。」


アレクって友達が少ないイメージだったが、今は違うのか。嬉しいことだ。




今日の夕食は魔境の素材尽くしだ。ノワールフォレストの森、高地で採った山菜。オースター海で獲った貝や魚。メインディッシュはもちろんヒュドラ。素晴らしい、ヒュドラを煮込んで肉じゃが風に仕上げているとは。家庭的な料理をさせたらマーリンの右に出る者はいないのではないか?



美味しい、堪能した。明日は何しよう?







翌朝。例によってアレクは起きれない。昨夜のアレクも美しかった。これから年々美しさが増すと思うともう堪らない。さて、今日は何の予定もないことだしダラダラ横になっていよう。マーリンにも起こさないよう言ってあるし、来客も取り次ぎ不可と伝えてある。コーちゃんとカムイは腹がへったらしく食堂へと降りていった。この二人もマーリンの料理が大好きだもんな。


意外なことに、アレクは一時間もしないうちに目を覚ました。


「おはよ。調子はどう?」


「おはよう……うん、大丈夫。」


さすがアレク。体が強くなっているのか。


「それはよかった。今日と明日は何の予定も決めてないよね。アレクは何か希望はある? 何でも言ってよ。」


「それなら……演劇がいいわ! サンドラちゃんは相当気に入っていたわ。」


「それはいいね! コーちゃんも喜びそう。カムイはどうかな。」


もちろん私は演劇大好きだ。今日は何をやっているんだろうな。今からだと午前の部には間に合わないから、昼からだな。


「じゃあ僕らも何か食べようか。それで少しウロウロして昼から演劇でどうだい?」


「ええ。そうしましょ。楽しみだわ。」


そうだ。せっかくだからマーリンとリリスも誘ってやろう。リリスは来そうにないけど。




さっそく誘ってみた。


「まあ坊ちゃん! 演劇なんて何年ぶりでしょう! しかも主人までお誘いくださるなんて! ありがたくお呼ばれしますとも!」

「私も行きたいと思います。」


おや、珍しい。リリスも来るとは。


「じゃあ開演前に入り口で待ち合わせな。カムイはマーリンを、コーちゃんはリリスを頼むよ。」


「ガウガウ」

「ピュイピュイ」


この二人が狙われるかも知れないからな。


「では私は一足先に行きまして、席を確保しておきます。」


おおっ、リリスがやる気になっている。そんなに演劇が好きだったのか。


「もし空いてたら貴賓席を頼む。」


「かしこまりました。」


とりあえず金貨を二十枚ほどリリスに渡しておく。足りるよな?


そのまま全員で外出して魔力錠をかけ外壁に沿ってドーム状の氷壁で覆っておく。これで侵入不可能だ。この氷壁を溶かせるような奴がいれば警戒レベルを引き上げればいい話だしな。


さて、街角ショッピングと行こうか。何かアレクに似合う服を選びたいなー。





「あれ? ここは何屋?」


一流店が軒を連ねる通りにおいて看板のない警備の厳しそうな店を見つけた。


「ここは『マーバライドジェム』原石屋さんよ。」


「それは面白そうだね。入ってみようか。」


入り口には屈強な警備員が二名。


「身分証を拝見します」


そこまで厳重なのか。まあいいや。国王直属の身分証を見せる。


「まおっ……失礼しました。どうぞお入りください」


店内ではガラス越しに原石が陳列されていた。大きい物から小さい物まで様々だ。アレクに相応しいものがあれは買ってもいいのだが……


「いらっしゃいませ。魔王様とお見受けしました。私、店長のオルモスと申します。どのような品をお探しでしょうか?」


いきなり店長の登場とは。それにしても魔王様って言われると本物の魔王みたいじゃないか。いや、確かに私も一応本物は本物なんだけどさ。


「カース・ド・マーティンです。この子に相応しい石を探してます。」


「ちょ、ちょっとカース! 見るだけじゃなかったの!? いくらなんでも高すぎるわ……」


「まあまあいいからいいから。買わないかも知れないしね。まずは見るだけだよ。」


「お連れ様は『魔王の伴侶』と名高いアレクサンドル様ですね。魔法学校でのお噂はかねてよりお聞きしてございます。」


「あらそう? それは光栄ね。カースが変なことを言うかも知れないけど気にせず頼むわね。」


変なことって何だよ。無理難題なんて言ったりしないぞ。


「かしこまりました。」


見たところルビーにサファイヤ、エメラルド。有名どころの石はだいたい揃っているようだ。これをどうカットするかは買い主のセンスってわけか。原石代にカット代、指輪などにする加工や装飾代まで入れると白金貨が軽く飛んでいく。さすがに高いな……

おお、ダイヤモンドの原石まで! 私の指先ほどの大きさで白金貨五枚!? うちの豪邸と同じ値段とは……さすがに違うな。ダイヤモンドか……




「差しでがましいようですが、魔王様は幸運です。昨日入荷したばかりの掘り出し物がございます。」


おっと、ぼーっとしていたな。掘り出し物は疑うのが常識だが、このような店舗ならば問題ないだろう。


見せられた石は青緑。私にはエメラルドと区別がつかない。しかし大きいな。私の人差し指と親指で作った輪に収まるぐらいだ。


「金緑紅石でございます。」


「なっ! 金緑紅石きんりょくこうせきですって!?」


店内にはアレクの声がやけに響いた。これはそんなにすごい石なのか!?

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