第744話 懐かしき楽園、浄化槽の再設置

そのままみんなで我が家に帰って夕食。明日、シビルちゃんだけをクタナツに送って行くことになった。私達もクタナツに用があったから丁度いい。


この夜は広い部屋でみんなでワイワイとお喋りをしながらの雑魚寝となった。うーん、青春!


ちなみにリリスも戻っていたので、マーリンに仕事を教えるよう頼んでおいた。これでマーリンも少しは楽になるかな?




そして翌朝。日の出前に起きて北の城門へ。シビルちゃんは起きなかったので、寝たまま鉄ボードに乗せてある。


「おはようございますマーティン様。本日はよろしくお願いいたします。」


会長とセプティクさんだ。まだ開門前なのに早いな。


「おはようございます。ちょいとクタナツに寄ることになりました。少し待ってくださいね。」


「もちろん構いませんわ。私は乗せていただくだけですので。アレクサンドル様もよろしくお願いいたします。」


「ええ。よろしくね。」


そして浄化槽を鉄ボードに乗せて領都を出発だ。昨夜のうちに『鉄塊』の魔法を使いサイズを三畳ぐらいまで広げているので問題なく乗せられる。




そしてのんびり飛んで一時間、クタナツ南門に到着。シビルちゃんはまだ寝てるのでこのまま放置しておこう。まずは靴屋チャウシュブローガへ。


「おはようございまーす。」

「おはようございます。」

「ピュイピュイ」


「おお、いらっしゃい。いい時に来たね。あらかた出来てるよ。では細かい調整といこうか。」


デザイン的にはいつも私が履いているウエスタン風黒いとんがりブーツと変わらないが、履き心地がすごい。履くってより包まれているといった感触だ。


アレクの方もいい感じだ。今日はミニスカートじゃないのが惜しいな。また今度じっくり見せてもらおう。


「よし、分かったよ。来月の始めには完成するだろうよ。お代はサービスして大金貨三枚でいいよ。」


「ありがとうございます。ではこちらで。また来ますね。」


「はいどうも。今度は総ドラゴン素材の靴でも作りたくなったらおいでね。」


総ドラゴン……すごい靴になりそうだな。


「マーティン様、先ほどの靴……よくお似合いでしたわ。今履かれている靴と見た目は同じですのに内包するエネルギーが桁違いのように感じました。」


「はは、どうも。サウザンドミヅチの革、靴底にはドラゴンゾンビの牙を使ってます。アレクのブーツも同様ですね。」


「そ……それはすごいですね……」


さあ次だ。




「おはようございまーす。」

「おはようございます。」

「ピュイピュイ」


服屋ファトナトゥールだ。


「いらっしゃーい。仮縫いなのねー。」


クタナツの職人は仕事が早いな。

さあ、アレク。着てみてくれ!


「うわー、すごくオシャレね。派手な真紅なのに少しも下品じゃないわ。あ、下の方に行くに連れて色が濃くなってるのね。」


「そうよー。全身均一な真紅だとどうしても単調になってしまうのねー。だからほんの少しグラデーションを入れてるよー。新しいブーツにもきっと似合うのねー。」


さすがだ。そんな話などしてないのに知っていたか。個人情報ダダ漏れかよ。


「よーし、胸回りと腰回りを少し調整するだけで済みそうなのねー。じゃあ来月また来てねー。」


「ありがとうございます。ではまたお願いしますね。」

「ありがとうございます!」


いやー、やはり作ってよかったアレクのコート。やはりアレクには赤が似合う。




「では会長、セプティクさん。お待たせしました。楽園エデンに行きましょう。」


「良いものを見せていただきました。アレクサンドル様はお幸せですわ。」


「ええ、本当に。」





ちなみにシビルちゃんは家まで送っておいた。おば様は不在だったがメイドさんがいたので軽く事情を説明しておいた。どうやらほとんど家出状態だったらしい。悪い子だ。




ヘルデザ砂漠はスティクス湖の上空を通り、懐かしき楽園へ。カムイは元気にしてるかな?




上空から楽園を見下ろすと、掘立小屋が少し増えたような気がする。カムイが番をしているのに増えたってことは、マナーを守ってる優良冒険者ってことかな? 人んちに小屋を建ててマナーもないだろって話だが、まあいいや。


「こ、これは……このような魔境の奥深くにあんな豪邸が……」


豪邸って、アンタの商会が作った家だろ。


「その節はいい建物をありがとうございました。おかげで魔境でも安心して暮らせます。」


「ご、こ、今後ともご贔屓に……」


「さて、セプティクさん。前回と同じように頼みますね!」


「はい。お任せください。」


あっ、カムイだ。こっちに気付いたぞ。


「ガウガウー!」


「ピュイピュイー!」


あっ、コーちゃんがボードから飛び降りた。私達も降りよう。


待たせたなカムイ。ありきたりで悪いけどお土産だよ。昨日カスカジーニ山の麓でゲットしたオークだよ。


「ガウガウ」


さあ、その間に浄化槽の設置だ。


ドアを開け浄化槽がある部屋へ行く。魔力が復活しなかったらここにも入れなかったんだな。ここの鍵は私しか持ってないんだから。


セプティクさんは旧浄化槽をあっさり魔力庫へ収納した。


「やはり死んでいるようですね。後で中を開けて確認してみましょう。ではマーティン様、新しい浄化槽をこちらに。」


「はい。」


定位置にセットする。


「では、ここからは私が。終わりましたらお呼びしますので、また後ほど。」


「お願いしますね。」


ここから一時間ぐらいかかるんだったな。


「カース、お茶でも飲まない? 私淹れるわよ。」


「それいいね。頼むよ。」


「あ、私も茶葉を持って来ております。どうぞお使いください。」


アレクと会長は揃って食堂に行ってしまった。のんびり座って待つとしようか。


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


おっ、コーちゃんにカムイも飲むかい。特にカムイは待たせて悪かったな。ただいま。




やがて会長がお茶をお盆に乗せてやって来た。


「お待たせしました。南の大陸産の茶葉、グリンネスのお茶です。」


南の大陸と言えばコーヒーやコットンが有名だが、お茶もあるんだな。


「ありがとうございます。いただきますね。」


「あの、マーティン様。私のことは会長ではなくリゼットとお呼びください。もっと気安く、ぜひ!」


「あ、ああ、そうですか。ではリゼットさんとお呼びしましょう。」


「カース、リゼットと呼び捨てにしてあげなさい。あなたは勲章持ちの貴族なんだから。」


それもそうか。


「分かったよ。リゼット、美味いお茶をありがとう。」


「恐縮です。マーティン様の舌に合ったようで何よりです。アレックス様もありがとうございます。」


アレクとの間で何かあったのか? まあいいや。これは烏龍茶に近いな。深い渋みに微かな甘み、美味しいぞ。


こうして私達は浄化槽の設置が終わるまでのひと時をのんびりと過ごした。それが終わってあの二人を領都まで送って行けば、私とアレクの二人きり。本当の夏休みが始まるんだ。


呪いさえなければ……

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