第743話 エクストリーム鬼ごっこ開始

第一のステージ、麓。

ここでの勝負は当然ながらスティード君が勝った。身を隠す所のない麓だ。身体能力で勝るスティード君の独壇場だった。


三回の勝負を終えて最下位はサンドラちゃん。次のステージではサンドラちゃんの狼役からスタートすることになる。




第二のステージ、山の中腹、湖沼地帯だ。いきなり難易度が上がりすぎな気もするが……

ここでは勝負にならなかった……

沼に潜む危険な魔物、顔はゴブリンで胴体は魚であるダグマーマンがレーザーのようなジェット水流で攻撃してきたからだ。結局私とスティード君以外は魔法で防御せざるを得なかった。私とスティード君にしても避けたり防御したりはできるが、狼退治どころではなく場所移動となった。ドロー!




第三のステージ、中腹よりさらに上、七合目ぐらいだろうか。以前私が半径二百メイルを禿山にした所だ。もうすっかり元の森になっている。


『水壁』


半径二百メイルを水壁で囲んだ。今回はエリアを狭めてサバイバル狼退治だ。


意外な強さを見せたのはシビルちゃんだった。すいすいと木に登って逃げたり、逆に木の上から襲ってきたりと八面六臂の大活躍だった。しかし安定の強さを見せるのは、やはりスティード君。神出鬼没のシビルちゃんの気配をしっかり読んでいるようだ。ますます心眼が上達している。


そんな状況にもかかわらず最終的に勝ったのはサンドラちゃん。木々を利用して最後まで身を隠すことに成功したのだ。一歩も動いてないらしい。やるものだな。




第四のステージ。山頂周辺。

この場所では襲い来る魔物にも注意しなければならない。さりとて魔法を使うと反則負け。なんてエクストリームな遊びなんだ……


このステージの特性は意外と視界が開けているってことだ。しかし足場はゴツゴツした岩が多く走るのも歩くのも大変だったりする。


ここで強みを見せたのは私だ。高い靴を履いてるからな。その上しょっちゅうボードで空を飛んでるからバランス感覚にも自信があるのだ。足腰の強さならスティード君だがさすがにスタミナを消耗しているようだ。ついに私の初勝利だ。



ファイナルステージ。領都までの帰路を使った空中戦。例によって『浮身』だけは使っていい特別ルールだ。どうも私に有利すぎるから鉄ボードは使わないことにした。キアラなんかにとっては当たり前だが、身一つで空を飛ぶのってどことなく怖いな。

しかしやることは変わらない。スーパーマンのような体勢で空気抵抗を受け止め落下する勢いを前進するエネルギーへと変える。先行逃げ切りだ。

今回の狼役はセルジュ君だったのだが、あっさり私以外の全員を捕まえた。やるなぁ。

この場合、最後に残った一人なので私の勝ちなのだが突然ルールが変わった。全員で私を捕まえるらしい。これは燃えるではないか。


縦横無尽に襲ってくるみんなからどうにか逃げる。しかし、ここで存在感を示したのがアレクだった。みんなに的確な指示を出し、たちまち私を包囲してしまった。

空中なので前後左右上下の六方に空間がある。それに対してみんなは五人。つまり、一方だけ逃げ道がある。

それは……下!


魔法を切って落下するだけの気楽な逃走ルートだが……当然みんな警戒しているよな。

しかし、私は落ちる。みんなも落ちる。つまりは落下チキンレースだ。


そうなるとブレーキ代わりの『浮身』の威力が肝となる。つまり私に有利。さあ、みんなどこまで浮身を使わず落下できるかな? 使わないとペシャンコになって死んでしまうぞ。


あ、これ遊びの範囲を超えてるわ。




そこにアレクの声が聞こえてくる。


「カースー! 魔力が切れちゃったの! 助けてー!」


嘘つけ! あれぐらいでアレクの魔力が切れるわけないだろ! 口車まで使ってくるとは……みんな遊びでもマジで勝ちにきてるんだな。やはり遊びは本気でやるから面白い。ならば!


『浮身』


そもそも浮身は使っていいルールなのだから、私以外の全員に浮身をかけてやる!

すると、どうなるか……


全員私に近寄ることもできずに浮かび上がってしまう結果となった。


アレクは助ける。

ゲームにも勝つ。

両方やらないといけないのが辛いとこだが私は勝った! もうすぐ領都にも到着する。逃げ切ったのだ!

さて、そろそろ自分にも浮身を使わないとな。地表まで残り二百メイルってとこか。そんな距離なんて一瞬だもんな。


『浮身』


そして落下速度が緩やかに減少し地表まで残り五十メイル。後は浮身を調整してゆっくり降りればいい。上空にはみんなの影が見える。その数五つ、勝った! 残り十メイル。


五、四、三……


その時、足から着地しようとしていた私を衝撃が襲ってきた。シビルちゃんのドロップキックか……背中に食らったぞ? 一体どうやって……


「カー兄捕まえた!」


くっ、あと少しだったのに。仕方ない、負けは負けだ。突然のルール変更に納得はしてないが、まあいいだろう。


「カー兄の負けー! この後のコーヒーはカー兄の奢りっすよ。」


「仕方ないなぁ。ちょっとズルい気もするけどいいよ。でもどうやったの? 上空にはちゃんと五人いたように見えたけど?」


「へっへー。近くを飛んでたハーピーをスティ兄とセル兄が捕まえたんっすよ。一匹は私の身代わりで、もう一匹に乗って大外を回ってカー兄に近付いたってわけっす!」


「へー、いつの間にそんなことを。やるね!」


飛んでるハーピーを素手で捕まえるって……無茶すぎる……シビルちゃんもよくハーピーに乗れたもんだ。いや、乗るのは出来たとしても、どうやって操縦したんだよ! タイミングぴったりだったし。しかも! あの勢いでドロップキックを背中にくらったんだぞ? 私の装備じゃなかったら簡単に背骨が折れてるぞ? シビルちゃんもよく足首とか無事だったもんだ。本当にエクストリームな遊びだったなぁ。



それからみんなでカファクライゼラに行った。王都でも少しは飲んだけど、やはりここのコーヒーはいい。何が違うのかは分からないが美味しく感じるな。昼食抜きで遊び続けたからか? さぞかし夕食が美味いことだろう。

「ピュイピュイ」

コーちゃんも昼食抜きだったから空腹らしい。ごめんねコーちゃん。

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