第742話 エクストリーム鬼ごっこ

アレクに包まれて眠った翌朝。私はマーリンに起こされた。


「坊ちゃん。お起きください。ベタンクール家の方々がいらしてますよ。」


「お、おはよ……もう来たの……待たせておいて……」


もう少し寝てからにしよう。疲れてんだよ……




「おいカース、起きろ。出番だぜ。」


「ふぁーあ。ダミアンおはよ。出番とは?」


「決闘の段取りをつけておいてやったぜ。手間が省けただろ?」


「ナイス! さすがダミアン! ありがとよ。」


こいつってホント手際がいいよな。あれこれ喋らなくて済むってもんだ。


私は寝ぼけ眼で庭に出る。アレクとコーちゃんはまだ寝ている。サンドラちゃん、スティード君、セルジュ君は起きて見物に出てきた。シビルちゃんは寝てるのかな。


「ようやく現れおったな! 他家の奴隷をかどわかすとは! 魔王が聞いてあきれるわ! さあ! 尋常に勝負してもらうぞ!」


何が尋常だよ。一緒にいるのはサヌミチアニの騎士か? 十三人もいるじゃないか。


「ではこれよりカース・ド・マーティンとベタンクール家の決闘を始める! もう一度言う! これは決闘だ!

ダミアン・ド・フランティアが見届ける! 決闘後の異議は一切認めん!

双方構え!」


手際いいー。さくさく進むじゃん。




「始め!」


『榴弾』


まずガキ以外を殺した。


「えっ!? ええ!?」


『狙撃』


次にガキの額に穴を開けた。


最後に『狙撃』をもう三発。

庭の隅や塀の上に隠れていた奴らも仕留めた。終わりだ。


「勝負ありだな。どーよ、楽だっただろ? 感謝しろよ?」


「おお、助かったわ。オメーって役に立つ居候だな。」


「へっ、当然だろ。ついでだ。後始末もやっといてやるよ。セバスティアーノがな。」


ここでオチか。ダミアンらしい。


「ベタンクール家は潰さなくていいのか?」


せっかくの夏休みにやることではないが、乗りかかった船、いや乗りかかった馬車だからな。


「いや、いらねー。ここからは親父殿の出番だ。いやーいいキッカケになったもんだぜ。」


なるほど!

辺境伯は辺境伯でベタンクール家が鬱陶しかったんだ。でも恭順した以上手も出せないから機会を伺っていたと。

そこで私、領都に邸宅を構える貴族を相手に事件を起こしてくれやがったから大義名分をばっちりゲットしたってわけだな。

おまけに尋常な決闘において子供相手に騎士を十何人も使っておいて全滅したんだから貴族の資格なしって言われても反論できないよな。

次のサヌミチアニ代官になるのは誰だろうね。


セバスティアーノさんと他数人が死体を片付け終えた頃、アレクが起きてきた。


「おはよ。もう終わったよ。朝食にしようか。」


「おはよう。結果なんか見るまでもないわよね。私のカースは最強なんだから。」


「アレク……」


「カース……」


ちなみにサンドラちゃん達三人はもう中に入ってしまった。つまりイチャつく私達を見ているのは……


「ヒューヒュー! さっすがカー兄! 男っぷりがパネーっすわ!」


シビルちゃんだけだったりする。いつ起きてきたんだ?


「アー姉の恋する瞳もたまんねーっすよ! まさにマジ女神っすね! MMMっすか! ドMですわ! ヒューヒュー!」


それは何か違う気がする。


「はは、シビルちゃん、朝食にしようか。」


「MMM……ドM……」


アレクも絶句している。


「アレク、中に入ろうよ。」


「え、ええ。」




朝食を食べながら今日は何をして遊ぶか話し合った。その結果、みんなで狼ごっこをすることになった。言い出したのはもちろんセルジュ君。いつまでも少年の心を忘れないのはいいことだ。


そして、せっかくだからエクストリーム狼ごっこをすることにした。場所はカスカジーニ山。魔物が棲まう危険な山だ。そこでかくれ鬼、すなわち『ゴースト退治』+『狼ごっこ』をやることになった。

今回のルールでは勝者は一人。見つかったものも狼となり他の獲物を探す。最後の一人になるまで逃げ延びた者が勝ちってわけだ。魔法は禁止、例え魔物と遭遇しても。使ったらその時点で負けとなり、狼に追加されるわけだ。

誰だよこんなハードなルールを考えたのは……シビルちゃんかよ!


一応保険としてコーちゃんはサンドラちゃんに付いててもらおう。「ピュイピュイ」


そして私達は北の城門から外に出た。


「よし、せっかくだからカスカジーニ山まで競争しようか。もちろん魔法なしだよ!」


セルジュ君までエクストリームなことを言い出した……飛べば十五分もかからないのに。


「セルジュ! ノリでバカなこと言わないの! 七、八十キロルはあるのに!」


サンドラちゃんの言う通りだ。私も乗っておこう。


「そうだね。飛んで行こうよ。」


「その方がまだマシね。でもそれだとカースの圧勝だから……みんな『浮身』しか使ってはいけないことにしましょ。『風操』も『金操』もなしで。」


「アレックスちゃんに賛成。浮身だけなら魔力量の差よりも制御力が重要だものね。いい課題だわ。」


自身や物体を浮かせるだけの魔法『浮身』

ほとんどの人が空を飛ぶ時はこれと『風操』を使う。私は金操も併用しているが。そして、先ほど必勝法を思い付いた。この勝負もらった!


「じゃあ準備いいっすか? いきますよ!

レディ・ステディ・ゴーっす!」


みんな一斉に空へと舞い上がる。体をしっかり前に倒し少しでも斜め前に進もうとしている。しかし私は違う。

一畳ほどの鉄ボードに乗り、真上に上昇する。みんなは不思議そうに私を見るが、今から何をするか分かるかな?


みんなよりかなり高く上昇した。地面が見えない。ここで魔法オフ、自然落下の開始だ。


しかし落ちるのは真下ではない!


バランスを取るのが難しいがピンポイントでボードの隅に『浮身』を使えばどうにかなる。


そう、私は鉄ボードでムササビのように空を舞っているのだ。


「あーっ! カース君ずるい!」


セルジュ君が何か言ってるが、ズルなどしていない。


「カース君それどうやってるの!? 私にも教えてよ!」


サンドラちゃんは探求欲が刺激されたようだな。


アレクは自分の体で同じことができないか試そうとしているな。偉い! もしムササビスーツがあれば鉄ボードより効率がいいはずなんだよな。トビクラーの飛膜とかで作れそうな気もする。


そんなこんなで一着は私、二着はだいぶ遅れてアレク。最下位はスティード君だった。相変わらず魔法は苦手のようだ。


さあ、ここはカスカジーニ山の麓。まずはここで一戦。一戦ごとに段々標高を上げていく、まさにエクストリーム狼退治!

意味的には狼を退治するのではなく狼が退治するってことだが、どうでもいいや。私達ってバカだなぁ。

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