第745話 楽園の宴会

設置が終わったようで、セプティクさんが呼びに来てくれた。

また今回、験担ぎの魔力注入はアレクにお願いしてみた。またゾンビになったら堪らんからな。


しかもトイレの壊れたドアまでセプティクさんが直してくれた。ありがたい。


「では、領都に帰ろうか。今からなら昼までに着くかな。」


「このような魔境に来たのに昼までに帰れる……意味が分かりませんわ……さすが魔王と呼ばれるお方……」


せっかくだからみんなでバーベキューをするのもいいんだが、魔力庫にロクな食材が入ってないんだよな。せいぜいオークぐらいか。リゼット会長達を送ったら海にも寄ろう。


帰りのボード上ではリゼット会長がやたらモジモジしているように見えた。トイレを我慢しているわけでもあるまいに。もしそうだとしても、すぐに着くことだし、我慢してもらおう。




そして、到着。


「じゃあ今回はどうもありがとう。また何かあったら頼らせてもらうから。」


「またのお越しをお待ちしております。アレックス様もぜひお立ち寄りくださいませ。」


「ええ、寄らせてもらうわ。またね。」


何か意味深だな。まあいいや。さあ、タティーシャ村に寄って魚や貝を補充しよう!




補充終了!

今回はサカエニナ、つまりサザエがえらく多かった。これは嬉しい。壷焼きにサザエ刺し。色々楽しめそうだ。シーオークにツナマグロ、珍しいところでカッツォも手に入れた。タタキにして食べよう!


「アレク! 着いたら豪快に焼いて食べようね!」


「ええ、楽しみだわ。やっと二人きりの夏が始まるのね。」


そうだ。やっとなんだ。教団の暴動なんかに邪魔をされてしまったが、やっと! アレクとのんびり過ごせるんだ! まあ、明日はエルフの村に行くけど。


だってお礼を言う必要があるんだから仕方ない。私やエリザベス姉上を助けてくれたんだから。それに少しはイグドラシルに魔力を注いでおかねばなるまい。


さあ、再び楽園に到着。

待たせたね、カムイにコーちゃん。たくさん焼くからどんどん食べてね!


刃の欠けたミスリルギロチンでバーベキューだ。見るも無残なほどに欠けている。偽勇者め……七回生まれ変わるとか言ってたけど、頭おかしいんじゃないか? あ、おかしいわ。自分を勇者と思い込んでる所なんか特に。


おっ、焼けてきた!


あー、サカエニナの壷焼き最高!

魚醤との相性バッチリ!

酒が欲しい!

プレミアムなビールが飲みたい!

ウイスキーでもいい!

ハイボールも飲みたいんだよ!

酒狂男爵スペチアーレ謹製の酒が飲んでみたいんだよぉー!

あぁーホウアワビのステーキも美味すぎる!

歯応えバッチリな上に味も深い!

こいつは最高だ!

ぬぉおー!

ワインが飲みたい!

白いやつ!

神の涙的なやつでもいい!

今日の私はおかしいぞ!

酒が欲しくてたまらん!


「カ、カース、大丈夫? 何かあったの?」


「いや、違うんだ。なぜか急に酒を飲んでみたくなってしまったんだよ。変だよね。とっくにアレクの魅力に酔ってるのに。」


「もう……カースったら。大好き……」


そう言ってアレクは私の頬に唇を寄せてくれる。なのに、私はピクリともしない! ぬおおおぁぁぁあーー!!


別にいいし、アレクが可愛いからいいし!

アレクを抱き締めていると、視界に数人の野郎が見えた。


「何じゃあー! 何か用かよ!」


酔ってもないのに変なテンションだ。


「ま、待て。落ち着いてくれよ。挨拶に来たんだ。ほら、小屋を建ててるからさ」

「そうなんだ。魔女様には伝えてあるんだが、肝心の魔王に挨拶できてなかったもんでよ」


あー、母上には挨拶済みなのか。だからカムイも放置してたんだな。


「銀貨一枚。一平方メイルにつき月に銀貨一枚持って来い。それで勘弁してやる。」


「マジで!?」

「そんなのでいいのか!?」

「さすが魔王! 器が違うぜ!」


「毎月一日、この狼、カムイの小屋の前に置いとくといい。ただし、永住を保証するものじゃないからな。いつぶっ壊れても知らんからな。」


「おお、十分だわ!」

「ヒャッホー! ありがてえ!」

「これで怖い狼にビクビクしなくていいな!」

「ありがとよ魔王!」


「俺の気紛れでも撤去されるってことを忘れるなよ。」


「当然だぜ! あ、これ俺らの分!」

「ウチもだ。三ヶ月分だ!」

「こっちは二ヶ月分な!」

「ほれ、払っとくわ!」

「これからも頼むぜ!」


いつの間にこれだけの人数が集まったんだ? まあいい。安すぎる気もするが、広さは十分ある。そのうち戸籍謄本でも作るか? 面倒だな。パス!


しかし、私はどうしたことだ?

やたらハイテンションだ。そうだ、酒だ。酒が欲しいんだ。


「おい、お前ら。酒ないか? 見ての通りこっちには旨いツマミがあるぜ。一緒に飲まねーか?」


「おお! さすが魔王!」

「太っ腹かよ!」

「こいつを飲んでくれ!」

「こっちもだ! いい酒あるぜ!」

「これなんかディノ・スペチアーレなんだぞ!」


「よっしゃ! お前らのパーティー全員呼びな! バーベキューで盛り上がろうぜ!」


なぜか私は酔ってもないのにハイテンションだな。これはアレか? 性欲が変な方向に向かってしまった的な? まあいいや!


結局集まったのは五パーティー、三十三人。それに私達を交えていきなり宴会が始まった。


野郎どもの視線はもちろんアレクに向かう。冒険者にも女性はいるが、エロイーズさんほどの美人がいるはずもない。私の視線もアレクに向かう。


「ちょ、ちょっとカース……そんなに見ないでよ。」


「あはは、ごめんよ。だってアレクって綺麗だからさ。」


「……もー、カースったら……」


ふふ、見物人達がやってらんねーぜ!って顔になっている。ふふふ、私とアレクはバカップルだからな。


「それで魔王さんよ、そっちの美人さんが氷の女神様ってわけかい?」


ほほぉ、よく分かってるじゃないか。


「その通り! このアレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルこそが! あの氷の女神様ってわけさ!」


みんな大盛り上がりだ。


「マジかよ! アレクサンドル家なんだろ!?」

「あのクタナツ騎士長の娘だよな!?」

「領都の魔法学校で首席って聞いてるぜ!?」

「そして魔王の伴侶!?」


「あなた方。お初にお目にかかりますわね。私がアドリアン・ド・アレクサンドルが長女アレクサンドリーネですわ。よくぞカースの楽園エデンにいらっしゃいました。節度ある行動を期待しておりますわ。」


それからは本当に宴会だった。いつの間にかアレクも酒を飲んだのだろう。いつものバイオリンが変なリズムだったのだから。そして私も飲んだ!

今生初の酒!

エールはあまり美味しくなかったが、ディノ・スペチアーレとやらは絶品だった。父上が絶賛するだけある。前世で言えばブランデーに近い、それも私が飲んだことのないような高級感溢れる味だった。量がないため一杯しか飲めなかったが、泥酔することもなく夜更けまでハイテンションの楽しい宴会は続いた。

ディスコティックナイト、エデンへようこそ……

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