第730話 王族のいきざま
少しずつ会場の音楽が落ち着いたかと思えば、人数も減っていた。
それでも両親は楽しそうに踊っているし、私はアレクのバイオリンの音色を独り占めしている。謁見の間で踊る両親も大概だが、アレクの独奏を楽しむ私も大概だな。
むむっ! キアラとフランツウッド王子はまだ踊ってやがる! まさか、あれからずっとなのか!? まさかまさか! 意外なカップル誕生だったりするのか!?
許さん! お兄さんは許しませんよ!
キアラが欲しければ私を倒していけ!
オディ兄とマリーは相変わらず隅っこで二人だけの世界を築いているみたいだし。ベレンガリアさんは黙々と食べ続けている。アステロイドさん達は踊る両親をギラギラとした目で見つめている。
「カース殿。ご同行お願いできますか? 陛下がお待ちです。アレクサンドリーネ様も一緒でよいそうです」
側近さんに声をかけられた。何事かな。
「分かりました。行こうかアレク。」
「ええ。いいわよ。」
「ピュイピュイ」
国王がいないと思ったら別室に行ってたのか。何の用だろう。
その部屋にいたのは国王と側近二人。宰相はいないようだ。
「よく来たな。まあ座れ。」
「失礼します。」
「失礼いたします。」
「ピュイピュイ」
「そなたはこの度の功労者だ。よって余の口からあれこれ伝えておこうと思ってな。」
まず国王が語った内容は被害の大きさだった。第三城壁内にある上級貴族の邸宅は軒並み被害を受けており一家全滅の目に遭ったところもあるらしい。さすがにクワトロAは全滅してはいないがそれなりに被害を受けたそうだ。同様に第二城壁内の貴族もかなりの被害だそうだ。ベレンガリアさんやパスカル君の実家が心配だ。
第一城壁の内外に被害は少ないらしいが城門は四方全て破壊されているらしい。
そして今も教団の信者狩りを行なっているらしいが成果はよくない。見つかるのは末端の者だけなため有益な情報などほぼ持っていないのだ。一ヶ月前から与えられた薬のおかげで神の声を聞いたとか、祝福を貰ったとか言ってるらしいが、ローランド神教会の神官が確認したところ何の祝福も持っていなかったそうだ。そりゃそうだよな。薬で祝福なんか貰えるかってんだ。だよね、コーちゃん?「ピュイピュイ」
ただ、唯一有益と言える情報は幹部の人数。
総代教主以外で幹部と呼べるのは司教より上の奴ら、大司教と呼ばれているらしい。いつだったか私が捕まえて騎士団に渡した奴は司教だったな。騎士団が裏切ったんだから取り調べも何もないよな。ひどい話だ。
その大司教の人数が十人。十賢者とも呼ばれていたらしい。あんなバカそうな奴らが……
近衛騎士が殺してしまったのが五人、私が捕まえて貴族学校の生徒に殺されたのが三人、私が教団に殴りこんだ時に殺したジジイが一人。この辺の話はもちろん報告してある。つまり後一人生き残りがいるようなのだ。下っ端では姿どころか名前すら知らないらしい。そもそもあいつら白い頭巾みたいなのをかぶってるもんな。体にイレズミがあるとか、教団のロザリオを持っているとか、特徴がないんだよな。怪しい奴を全員尋問魔法にかけるしか方法がない。大変そうだ。
最終的に死んだ狂信者は四万人を超えているらしい。昔聞いた時の人数は二万だったのに。どこからそんなに増えたんだよ。しかもまだ生き残りとかいるんじゃないのか?
また、鎧の出所や製法も分かってないらしい。東の国ヒイズルが怪しいが簡単に行き来できる場所ではないからな。つくづく幹部を殺してしまったのが悔やまれる。
「それからカースよ。例のエルフの村に使いに行ってはくれぬか?」
「フェアウェル村ですか? いいですよ。」
どうせこの夏は行くつもりだったからな。
「あの二人の死体、そしてこの書状を届けて欲しいのだ。頼めるか?」
「ええ。大丈夫です。届けるだけでしたら。」
えらく親切だよな。ここまで王都を荒らされてんのに死体を故郷に帰してやるなんて。この国王は寛大だって話だが他にも理由があるんだろうな。面倒だから聞かないけど。
「それからこれは個人的な話だが……カースよ。ありがとう。紫の鎧どもには余の両親も殺されたのだ。見事仇をとってくれたそなたには感謝している。」
「え!? 先王様や王太后様がですか!?」
そういや国王も毒にやられてたよな。
「二人とも歳でな。もう長くないと分かってはいたが。最後に一人ずつ紫の鎧を道連れに死んでいった……」
「それは……」
近衛騎士は何やってたんだよ。
「大人しく引っ込んでおればいいものを、突如前線に舞い降りてきおってな。命、そしてドラゴン素材の剣を犠牲に刺し違えおった。王族の行動ではない……バカな両親よ……」
「陛下……」
アレクは泣きそうな顔をしている。
コーちゃんは「ピュイーピュイー」と悲しそうだ。
「最後に言い残した事が『民を守れ』とはな……行動はともかく、言葉は最後まで王族であった……」
「陛下……」
きっと先王夫妻はもう先が長くないと悟って最善の行動をとったんだ。食料も足りない、王である我が子は毒をくらい助からないかも知れない。だからって自分達が指揮をとるわけにもいかない。
近衛騎士ですら紫の鎧を食い止めるのが精一杯だったのだから、士気も低下していただろう。
魔力も体力も衰えた体での起死回生の一手、それがドラゴンの剣を使っての特攻か。王家に伝わる剣が二本もダメになってしまったそうだが、王族の生き様は見せつけた。敵にも味方にも。
私達が王宮に行った時の士気の高さはこの辺りにも理由があったのか……
それにしても、あの紫の鎧はドラゴン素材の剣なら貫けるのか。せっかくの剣が一発でダメにはなるが。
「事態が落ち着いたら国葬、及び慰霊祭を行う。おそらく今月末ぐらいだろう。よければ参加して欲しい。」
「かしこまりました。必ずや。」
「かしこまりました。」
「ピュイピュイ」
今月末なら都合は悪くない。偉大な王族が亡くなったのだ、ぜひ参加せねばなるまい。
平民を殺して遊んでたヤコビニ派みたいな貴族もいれば、死ぬ瞬間まで民を想う王族もいる。差が激しいものだな。
それにしても王国騎士団が裏切った事情は説明してくれなかったな。第三騎士団の副長だったっけ? 何人は生け捕りにしてたはずだが。まだ判明してないのか、それとも私に伝えるには時期尚早とか? まあ、また聞かせてもらえばいいだろう。
私達が退室するのと入れ替わりに両親とアステロイドさん達が入ってきた。勲章とは別に褒美の話だろうか。父上が珍しく緊張した面持ちだったのが気になったが、国王と面会なんだから当然だよな。
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