第726話 祭りの翌朝

アレクが酔っ払った翌日。すっきりと目覚めた私は庭が気になって外に出てみた。


すると、予想通り。死屍累々って状況だ。いつだったかクタナツのギルドにダミアンが来た後、またはアッカーマン先生の道場で開いてもらった私の十歳の誕生日の翌日のようだ。


と言っても庭で寝転がっているのは主に男性ばかり。当たり前か。母上や伯母さん、シャルロットお姉ちゃんやキアラの姿は見当たらない。そして未だに起きているのは、父上とコーちゃん、そしてマリーだ。久々に見る組み合わせだな。


「おはよ。ずっと飲んでるの?」


「おおーカース、どこに行ってたんだよー? さあ飲め飲め。」

「おはようございます。何か召し上がりますか?」

「ピュイピュイ」


アステロイドさん達は酔い潰れているのに父上は……すごいな。マリーのメイド服は眩しいな。サービスして欲しくなってしまうぞ。そしてコーちゃん、朝からお薬が欲しいって……今日はダメだよ。お薬は夜だけのお楽しみだよ。「ピュイー」

無邪気でつぶらな瞳、そんな目で薬を求めるなんてコーちゃんは罪な精霊だぜ。


「父上、今日は王宮に行くことになりそうだよ。体調は大丈夫?」


昨日の今日だけど、全員揃ったしな。早い方がいいだろう。


「あぁん? 朝っぱらから行くのか?」


「分かんない。昼前とかでいいんじゃないかな? 後で聞きに行っておくよ。それからマリー、ワイバーンの肉は余ってる?」


「ええ、まだまだございます。」


「とりあえず父上も朝食にしようよ。アレクも呼んでくるからさ。あっ、ワイバーンの舌って残ってる?」


「カースお前……またそんなモンを……」


「坊ちゃん……もちろん残ってますが……」


「じゃあ薄く切って焼いてくれる? フェルナンド先生はブラックブラッドブルの舌は美味しいって言ってたよ。」


「そうだったな……兄貴が食ったんなら俺も食ってみるか……」


「私は遠慮しておきます。」


朝から焼肉も悪くないだろう。しかもタン! 魔境の牛タンは美味しかったが、ムリーマ山脈のワイバーンタン、略してワイタンの味はどうだ? さて、アレクを起こそう。でも寝顔を見てるだけでも楽しいんだよな。起こすのがもったいないぞ。




しばらく眺めてしまった。アレクの寝顔はピュアだな。


「おはよ。体調はどうだい?」


「……頭が痛いわ……でも昨夜は……よかったわよ……」


激しく熱い夜だったもんね。


「すごく可愛らしかったよ。朝食の時間だけど、もう少し寝とく?」


「ごめんなさい……寝かせておいてくれる?」


「いいんだよ。じゃあ水とポーションを置いておくね。また後でね。」


「ええ、ありがとう……」


アレクの側にいたいが、ワイバーンのタンにも興味津々なんだ。少しだけ待ってておくれ 。




「坊ちゃん、このような焼き加減でいかがですか?」


「さすがマリー、バッチリだよ。ありがと。」


見た目は牛タンと変わらない。さて、まずは塩で……


ウマーイ!


適度な歯ごたえ、滲み出る旨味。しかもブラックブラッドブルより濃厚。これは当たりだ。


「マリー、美味しいよ。ありがとう。オディ兄にもぜひ食べさせてあげてよ。」


「……え、ええ……オディロンが望むなら……」


ちなみに父上は恐る恐る食べたが好評だった。サンドラちゃんも気に入ってくれたようだ。しかし食べたのはその二人だけ。他の人は目もくれなかった。別にいいもん、私が全部食べるもん……




さて、出かける前にアレクに一声かけておこう。


「じゃあアレク。ちょっと王城へ行ってくるね。訪問の都合を知らせてくるよ。」


「ええ分かったわ。私は休んでるわね。」


コーちゃんはいつも通りアレクを頼むね。「ピュイピュイ」




いつものように門番さんに挨拶。さほど待たずに案内されたのは、応接室かな。


待つこと十分足らず。現れたのは……側近さんかな。


「待たせてしまいましたね。それで全員での登城の件ですが、昼前でお願いします。陛下は全員での昼食会を所望されておいでです。」


「かしこまりました。人数ですが……」


えーっとマーティン家が、父上、母上、ウリエン兄上、エリザベス姉上、オディ兄、マリー、私、アレク、キアラ、そしてコーちゃん、おまけにベレンガリアさんで……十一人。ゼマティス家は含まなくていいよな。

それからアステロイドクラッシャーが全員で五人。


「十六人です。」


「承った。来訪を楽しみにしておりますよ。」


「かしこまりました。釣り天井は勘弁してくださいね。」


「は、はは……まだ修理が終わってませんよ……それに、現在城内にいる者は全員が尋問魔法をクリアした者です。問題ありませんとも。」


「失礼しました。あの時はかなり恐ろしかったもので。」


「はは……それではお待ちしております。」


このぐらいは釘を刺してもいいだろう。では帰ったら昼まで一休みしようか……いや、今一度教団跡地を見てみようかな。




現場は近衛騎士と宮廷魔導士によって何か調査をしているようだ。


「お務めご苦労様です。何か分かったことってありますか?」


「あ、ああ君か。無茶をしてくれたな。溶けて固まった岩を取り除くだけで苦労させられたぞ。」


「あはは、ごめんなさい。奴らにムカついたもので。見たところもう更地になってますね。地下には注意されてくださいね。」


「気持ちは分かる。私も同じ気持ちだ。地下深くには総代教主がいるらしいな。忠告ありがとう。」


「もう少しだけ王都にいますので、何かありましたらゼマティス家までお知らせください。できることなら協力しますので。あ、いつも兄ウリエンがお世話になっております。」


「うむ、こちらこそウリエンはいい刺激になっている。何かあったら頼らせてもらうよ。ありがとう。」


見た感じ近衛騎士だもんな。兄上の先輩か上司だろうから挨拶しておかねば。意外に兄上は嫉妬の炎に囲まれてないようだ。よかったよかった。さて帰ろうかな。一家で総登城か、ドキドキするな。

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