第727話 マーティン家の総登城

ゼマティス家に帰った私は全員に登城のことを伝える。


「あらあら、ドレスを持ってきておいて良かったわ。」


さすが母上。用意がいい。


「私などが王宮に入って良いのでしょうか……」


「いいわよ。だって陛下のお召しですもの。それに、マリー用にドレスも用意してあるわ。」


母上の用意の良さは限りないのか……いや、王都に来るって時点でここまでの展開を読み切っていたに違いない。すごい。


「オディロン君にはガスパールの礼服を貸すわね。歳も近いことだしちょうどいいんじゃないかしら。」


「まぁお義姉さん、ありがとうございます。」

「伯母様、ありがとうございます。」


マルグリット伯母さんの協力もありがたいな。私も同じくガスパール兄さんのお古の礼服があるし。いや、学ランにしようかな。迷うな。夏だけど温度調節機能がついてるから暑くはないし。


アレクは普通に魔法学校の制服だろうな。いつもかわいい。


「キアラはこれよ。着替えておきなさいね。」


「えー、この服がいー。」


「だめよ。着替えなさい。」


「はーい……」


キアラはアクティブな女の子だからな。堅苦しい礼服は嫌いだよな。それに最近はいつもミニスカートで薄着。結構日焼けもしている。そりゃあれだけ海に行けばな。そんなキアラでも母上の言うことはちゃんと聞くのか。えらいぞ。頭を撫でてあげよう。よしよし。「えへへー。」


「アステロイド、あなた達はこっちにおいでなさい。それからベレンはドレスを持ってるわよね?」


「はい、魔女様!」


「はい奥様。ございます。」


おっ、母上がアステロイドさん達を連れて奥に行ったぞ。どんな服を着せるんだ?

ちなみにサンドラちゃんはバタバタしている私達をよそ目にお茶を飲んでいる。あれは、私は呼ばれなくてよかったって顔だな。そうはいかないぞ?


「サンドラちゃんも行かない? 僕達が陛下とお会いしてる間に王宮の書庫とか行ってみたくない?」


ガタッと立ち上がる。


「行くわ! 立ち入りの許可証はいただいてるけど、少し行きにくかったの。ちょうどいいわね!」


ふふふ、道連れだ。




おっ、父上が起きてきた。かなり眠そうだな。


「父上おはよ。昼前に王城に行くことになったよ。体調はどう?」


「おお、正直まだ寝てたいんだがな。そりゃ行くしかないだろ。あんまり王太子殿下に会いたくないんだがな……」


おや、父上にしては珍しく意気消沈気味だ。王太子と何かあったのか? 辺境の騎士にしては珍しいよな。


「まあ美味しい昼食があるらしいから楽しみにしておこうよ。」


「おお、そうだな。着替えてくるわ。」


今気付いたけど、どれもこれも私が心配する必要全くないよな。こんなことは母上に任せておくのが一番だもんな。


おっ、アレクが出てきた。やはり服装は制服だが、髪がアップされておりミスリルの髪留めが眩しい。


「いいねそれ。魅力的だよ。王城なんかよりあそこに連れて行きたいよ。」


「カースったら、ありがとう。私もそっちに行きたいわよ。」


アレクも正直だよな。悪い子だ。


そしてアステロイドさん達も出てきた。おおー、パリッと決めてるじゃないか。


「アステロイドさん! カッコイイ! 似合ってますよ!」


「おお? そうか? まさか俺らがこんな服を着て陛下の御前に行くとはな。来てよかったぜ。」


「グレゴリウス兄上の服よ。兄上も父上もこんな時に留守にしてるなんてね。罰として服を貰っておくことにしたわ。アステロイド達にもよく似合ってるし。」


はは、ゼマティス家の当主達も母上にかかっては形無しだな。


「あ、そう言えばナーサリーさんって知ってる? 僕もアレクもたくさん治してもらってお世話になった治癒魔法使いさんなんだよ。」


「あぁナーサリー、懐かしいわ。クタナツに帰る前に会いたいものね。」


「家とか知ってるの?」


「変わってなければね。まあ王国一武闘会に呼ばれる程の腕なら誰でも知ってると思うわ。言ってくれて助かったわ。」


「むしろ久しぶりの王都なんだから八月いっぱい滞在してもいいんじゃない? 八月末にまた迎えに来るし。」


「それもそうね。いい提案だわ、ありがとう。アランやアステロイド達は帰らなければいけないでしょうけど、残りたい者は残ればいいわね。」


母上には苦労をかけたからな。少しでも楽しんで欲しいんだよな。


ちなみにゼマティス家にある馬車だが、四台中二台が壊されており、馬も三匹殺されてしまった。つまり、使える馬車は一台のみ。それなりに大きいから女性陣は全員乗れるだろう。そろそろ出発だ。フルメンバーで王城か……ドキドキしてきたな。


「じゃあ、お義姉さん。行って参りますわ。」


「ええ。王妃殿下によろしくお伝えしてちょうだいね。」


いよいよ出発、御者はベレンガリアさんだ。

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