第719話 ヴェスチュア海沖の決戦

キアラは先日と同じようにサウジアス海の沖合にいた。呑気に泳いでいるじゃないか。


「キアラ! あれが見えるな? あれだけの魔物が上陸しないようにできるか?」


「できるよー。」


「よし! なら頼むぞ。僕はあっちの方に行くからな。」


コーちゃんはキアラを頼むよ。守ってあげてくれるかい?


「ピュイピュイ」

「わーいコーちゃんだー。」


こんな小さい子供にあれだけの魔物の処理を任せるなんて……心配だが仕方ない。私は西、ヴェスチュア海だ。




手が足りない、高波が沿岸を襲うのは無視だ。宮廷魔導士に任せよう。私は一匹でも多く魔物を仕留めるんだ!


もう第一陣が迫っている。比較的雑魚のシーゴブリンにシーオークか。『氷弾』少しでも魔力を節約しないとな。


上から狙い撃ちするだけなので楽ではある。しかし数が多すぎる……

また、深いところにいる魔物には氷弾では届かない。狙撃を使うしかないか……


作戦変更だ。なるべく沖で仕留めようと思ったが、海辺まで引きつけるとしよう。上陸を許してしまうだろうが、それも宮廷魔導士達にどうにかしてもらう! そもそも上陸できないタイプだって多いだろうしな。


セイレーンにネイレス、人魚というか半魚人というか……歌声が危険な魔物も現れた。しかしそんなのは『消音』の魔法をかけておけばいいだけだ。


シースコルピオン、サファギン、リザードマン、シーホース、マッカスティングレイ、レッドシャーク、ラクライウナギ……

徐々に大きい魔物が姿を現わし始めた。

下からはレーザーのような水流や槍のような魔法まで、様々な攻撃が飛んでくる……

時には魔物そのものもが私のところまで飛び上がってきたりも。


完全に手が足りない。海岸線は一体何キロルあるんだよ……大物以外は素通しだ。宮廷魔導士が到着しているようなので任せてしまおうか……


いや、一つアイデアを閃いた。氷弾や狙撃でスマートに仕留めているから気付かなかったが。これだけの数の魔物がお互いに争わないのはおかしい。何かキッカケさえあれば……


『水鋸』


ツインヘッドシャークを真っ二つにしてやった。するとどうだろう。周囲の魔物が我先にと鮫の残骸に食らいついている。攻略法が見えてきた!

派手に血を撒き散らすように仕留めて興奮させ互いに食わせる。これだな。バカ正直に全部私が片付ける必要なんかなかったんだ。




おそろしく効率が上がってしまった。一匹たりとも上陸を許していない。この分なら高波、津波の被害も防げ……




くそっ、遂に出やがった……ここらの海の主だろうか……


クラーケン……か?


海から突き出た足、触手しか見えないが……見るだけでキモい、全方位に吸盤がついており、長さは五十メイルを軽く超えている。そんなのが何本あるんだよ! そして厄介なことに……『水鋸』切れないのだ。弾力のせいか? それとも表面のヌルヌルのせいか? はたまた魔法防御的な能力か?


ならばあれこれやってみるのみ!


『水斬』

『火球』

『氷弾』

『落雷』


ふむふむ、やはり海の魔物には雷の魔法が効くようだ。ならば!


『轟く雷鳴』魔力特盛だ。


広範囲に渡り雷を落としたので、周囲の魔物にまでダメージが及んでいるようだ。初めからこうしてもよかったな。


クラーケンはまだ生きている。怒ったようで、さらに触手を伸ばしてくる。しかし届く範囲に寄ってなどやらん!


おっ、焦れたか? ついに浮上し全身を現した。でかい……幅だけで百、二百メイルどころじゃない……アスピドケロンより遥かに大きい……


『轟く雷鳴』


死ぬまでやってやるよ。悪いが攻撃は一方的だ。危険そうな墨を吐いてくるが、そんなの当たるかよ。そのまま死んでもらおうか。


ぬがっ!


突然海中に叩き落とされた……

何かが上からぶつかってきたようだ。空の魔物か……下しか見てなかったな。


ミスリルボードを回収しなければ……沈む前に……


ぐがっ!


クラーケンの触手に絡め取られた! 落下の衝撃で自動防御が解けてしまったか……凄い力だ……潰されてしまいそうだ……


『落雷』

『轟く雷鳴』


自分もろとも雷を落とす。どうせ私には効かないし。それでも拘束が緩まない……きつくもならないが……

やばい……どんどん海中に引きずり込まれる……


こうなったら!

左手に短剣を出し、触手に突き刺す! 手首しか動かせないせいか刃先ぐらいしか刺さらない……だが『落雷』


魔力でごり押しすれば海中だろうがどこだろうが雷は落とせる。効いた! 傷口から直接魔法をぶち込むのは、やはり効果的なようだ。

そして『金操』

短剣を無理やり深く押し込む!

さらに『落雷』『落雷』『轟く雷鳴』


死ぬまで撃ち続けてやる。とどめはフェルナンド先生から貰った剣。これを金操でクラーケンの頭頂部に突き刺して『落雷』


見ても分からないが、動かないから死んだと見なそう。ようやく拘束が緩んだ。

昔、私の大腿部を突き刺したスパラッシュさんの短剣が活躍してくれた。助かった。やはり業物だな。


しかし、これだけの巨体を収納なんかできないし、解体してる時間もない。無理やり魔石だけを回収しておこう。どこにある?


『浮身』で海上に持ち上げ『乾燥』でヌルヌルを取り除く。『水鋸』で縦に真っ二つにすると、体の中心部分に魔石を発見できた。

イカって足のすぐ上が頭でその上に腹があるんだよな。クラーケンもそうなのだろうか。


ちなみに上空から私を襲った魔物はワイバーンだった。実際には私を食べようとしたのだろうが、自動防御があるためにぶつかるだけになってしまったと。奴はクラーケンの干物に夢中で噛り付いている。


白弾びゃくだん


本日初使用。教団の白い鎧から作った弾丸だ。金操との相性は悪いがミスリルより強力、ワイバーンですら一撃だ。日光浴の合間に準備しておいてよかった。


さーて、どんどん来いや! 私の魔力はまだまだ余裕があるぞ! 体力は危ないが……

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