第718話 王都の騎士

アステロイドさんとオディ兄が私を一人にしていてくれたのは、気を使ってくれただけでない。ノコノコと一人で歩いていたら教団の奴らが釣れないかと考えたからだそうだ。その割に登場が遅かったような気がするのは近衛騎士団本隊の登場を待っていたためらしい。本隊と言っても全軍ではなくおよそ半分だとか。

まあ何にしても紫の鎧を仕留めたのは大きい。残った幹部なんかどうせ雑魚だろうし。




「カースよ。そなたが体を張って囮を買ってでてくれたおかげで一気に形勢が傾いた。礼を言うぞ。」


ここは国王の眼前。直々にお褒めの言葉をもらってるところだ。


「いえ、偶然です。散歩してたら狙われただけなんです。」


「ふっ、そういうことにしておいてやろう。どうだ? クレナウッドの養子にならぬか?」


王太子の養子? 次の次の国王になれってか?


「ご冗談を。僕には荷が勝ちすぎる話です。」


「冗談ではない。気が向いたら言ってくるがいい。それとも領地がいいか?」


「そちらも間に合っております。お忘れですか? 無税にしていただいた楽園エデンがございます。」


「この王都近郊に要らぬかと聞いておるのだ。そなたの手柄が大きすぎてな、褒美に困る始末よ。」


「では、今月末までに何か考えておきます。王妃様から会いに来るよう言われてますので。」


「その件もあったな。楽しみにしておるぞ。アステロイド、オディロン。そなた達も大儀であった!」


「ははあ! 恐悦至極です!」

「もったいないお言葉です。」


「さて、これでようやく兵を分けてしらみ潰しに捜索ができる。教団め、根絶やしにしてくれる。」


あー、奴らが騎士団本部以外のどこから攻めてくるのかはっきりしないから、守りを手薄にできなかったのか。特に紫の鎧は厄介だもんな。近衛騎士団が一丸とならないと対処できないよな。




近衛騎士達が残党を捜索している頃、私達は昼食を食べていた。あれからまたオークを提供しておいたので、肉肉しい昼食と思いきや……


「こいつはうまい!」


アステロイドさんはご機嫌だ。私もだ。えらく品数が多い昼食なのだ。食料庫でも奪還したってところかな。後は幹部を見つけて、城外の白い奴らを処理して、襲ってくる盗賊を潰せば終わりだ。まだ夏休み序盤だってのにハードだったなぁ。




昼食を終え、日光浴をしながら昼寝でもしようと思っていたところにきれいな音色が聴こえてきた。これは笛かな? どこかで聴いた覚えのある、澄んだ音色が響き渡っている。


「おい……カース……オディロン……」


アステロイドさんの顔が青い……何事だ?


「来るぞ……備えろ……」


「あっ! アステロイドさん! まさか今の音色は!?」


そうだよ……スパラッシュさんも使っていた『呪いの魔笛』!

文字通り呪われており、周辺の魔物をわらわらと呼び寄せてしまう最悪の笛だ……

以前ヘルデザ砂漠で使った時は昼から夕方まで魔物が現れ続けたが……周辺に魔物が少ない王都なら、大惨事にはならないのでは?


「魔物はどっちから来ますかね。少ないといいんですが。」


「普通は全方位からだ。王都の魔物事情は詳しくないが、海が近いだろ? ヤバい気がするぜ……」


「あ……もし、アスピドケロンみたいなのが何十匹も上陸してきたら……」


「防ぎようがない。王都は終わりだ。」


ちっ! 行くしかないか。


「ちょっと陛下のところに行ってきます。アステロイドさん、後は頼みます! オディ兄も!」


「まあ、ほどほどにやるわ。」

「気をつけてね。」





「陛下! 先ほどの音色を聴かれましたか!」


無礼とか言ってられない。いきなり入室した。近衛騎士に睨まれてしまったが後だ。


「聴いた。至急対策を練っておるところだ。考えがあるのだな?」


「はい! 考えというほどではありませんが、海の守りが必要かと! 僕と妹で南と西を守ります! できれば宮廷魔導士の方々も……」


「いいだろう。時間がない。先に行っておれ。宮廷魔導士は後から向かわす。」


「ありがとうございます! 行ってきますので正門を破ります!」


「待て、それには及ばぬ。結界魔法陣の頂点を今から五分だけ開ける。そこから出るがよい。」


「了解しました! 行きます!」


「頼んだぞ。」


これは運命か偶然か。ついこの間、タティーシャ村でやったことが予行演習になってしまったな。キアラは今日も海に行ってるのか……


王城の天辺から上昇し結界魔法陣を抜けた。急いでゼマティス家に行かないと……


ぐっ、マジかよ……見渡す限りの水平線が……白く波立っている……どんだけ遠くから魔物が来てんだよ……この高度から見える範囲だぞ? いくら何でも……





「ただいま! キアラはいる!?」


「カース! さっきの音色って!」


「アレクも聴いたんだね。呪いの魔笛だよ。キアラは海?」


「ええ、朝から行ってるわ……」


「よし、僕とキアラ、そして宮廷魔導士で魔物と海水を何とかする。できなかった時は逃げて。僕も逃げるから。」


「ええ……分かったわ。絶対帰ってきてね……」


コーちゃん行くよ!「ピュイピュイ」

アレクと一瞬だけ口付けをして私達は海へ。キアラが頼りだ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る