第667話 魔力庫の拡張

夏休みまでもう二週間。待ち遠しいな。夏休みはどこへ行こうか。やはり楽園で二人きりで過ごすのがいいなぁ。アスピドケロン鍋はあれから三日がかりでなくなった。夏場なので腐らないか心配だったので、夜間は甲羅ごと凍結しておいた。魔法って本当に便利だなぁ。


そして今日も道場での稽古を終えて家に帰る。夕方の帰り道をコーちゃんと二人で歩いて帰る。アッカーマン先生に渡せなかった王都の土産も渡せたし、足取りも軽いってものだ。


「おー、やっと来やがったかよ」

「テメー何のうのうと歩いてやがんだよ」

「クラーサさんを殺しておいてよぉ」

「何が乱心だよ? テメーも殺してやるよ?」


あの一件以来こんな奴らが多い。もうすぐ結婚するってことぐらい知ってただろうに。それでもファンなのか?


「好きなだけ殴るなり斬りかかるなりしていいぞ。」


あっ、剣を抜いてる。

やる気かよ。別にいいけど。


「おらぁ!」

「死ねや!」

「殺すぞ!」

「あの世でクラーサさんに謝ってこいや!」


もちろん私の自動防御は万全だ。ああ嬉しい。復活を実感する。奴らは剣だけでなく魔法も使っているが、全く攻撃は通らない。


「くそっ!」

「どうなってやがる!」

「舐めやがって!」

「こんなんじゃクラーサさんに顔向けできねーんだよ!」


そろそろいいかな。『麻痺』

奴らがバタバタと倒れる。本来なら借金を被せるか貴族への殺人で奴隷落ちとなるところだが、最近の私はとっても機嫌がいいのだ。だからこの程度で許している。私って何て寛大なんだ。心の器がノヅチだな。




こんな風に毎日を過ごしていたらもう七月末。明日は放課後までに領都に行って久々にアレクのお迎えをしよう。学校の校門で待つのって青春ぽくて好きなんだよな。


「ねーカー兄ー、夏休みはどこに連れてってくれるのー?」


「海は決まりだし、別荘にも行くよ。エルフの村にも行こうな!」


「うん行くー! 明日ー?」


「いや、来週かな。待っててな。アレクを連れて来るからな。」


「えー、もー、分かったー……」


おっ、意外と素直なんだな。キアラはいい子だ。

それにしても案外忙しい夏休みになるかも知れない。王都にも行くしエルフの村にも行くし。カムイや虫歯ドラゴンのお土産も用意しておかないとな。そうなると、明日は領都に行く前に……




翌日、私はクタナツに店を構えた魔力庫職人ボクシーさんの所に来ている。


「この魔石で魔力庫を拡張したいんですが、どうですか?」


「こいつぁすごいな。海の魔物か? 文句なしだ。多分一辺が二倍ぐらいに広がるぜ。」


アスピドケロンの魔石だ。キアラがいらないと言うから貰っておいた。昔、魔力庫を作る時に使ったエビルヒュージトレントの魔石も大きかったが、それ以上だ。重さにして三十キロムはあるかな。


一辺が二倍になるってことは容量は八倍ってことだな。十分すぎる。今の魔力庫が一辺二十五メイルぐらいだから、一辺五十メイルの立方体ってとこか。すごいな。


「よし、いくぜ! 魔力をしっかり燃やすんだぜ!」


「押忍!」


錬魔循環をするのも久しぶりか。以前は山奥の静謐な泉って感じだったが……今の私は……




何も無くなった。転生前に、かなや=さぬはらと出会ったあの空間。どこまでも続く真っ白い空間。そんなイメージだ。幾多の苦難を経て、またまた成長したのか私の魔力よ。


「よし! できたぜ! いい魔力だったぜ!」


「ありがとうございます!」


「全く、苦労させやがって。魔力が質、量ともに意味分からんレベルじゃないか。いい勉強になったぜ。」


「どうも。おいくらですか?」


「金貨百枚と言いたいところだが、勉強代だ。半額に負けておいてやる。」


「じゃあこれ。またお願いしますね!」


これで魔力庫に詰め放題だ。領都に行く前にオウエスト山で魔物を狩っていこう。

何か虫歯にいい食べ物ってないのかな。キシリトールを含んだ魔物なんていないだろうなぁ……

確か植物に含まれてた気がするもんな……

あ、もしかしてグリードグラス草原にならいるのか? もしくはノワールフォレストの森とか? 無理だな。とても探せる気がしない。




オウエスト山では運のいいことにオークの大群と遭遇した。軽く二百匹はいただろう。さらに幸運なことにボスらしき大きなオークまで。オークキングとかオークジェネラルとか、それ系なのだろう。これには虫歯ドラゴンも喜んでくれるだろう。

さて、意気揚々とアレクを待とう。ここの校門前に佇むのも随分と久しぶりだ。あっ、受付さんもお久しぶりです。


まだかなまだかなー。

アレクはまだかなー。

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