第666話 闇ギルドの侵食
クタナツ南西部。すなわち三区のとある平民宅。
「あの毒ですら生き残ったのか。」
「ええ。どうやら解毒手段を有しているようです」
「そうか。あの毒は管理が難しく量もない。よってしばらくは使えない。お前の心身傀儡に期待している。」
「ありがとうございます。奴が刃物を手にしている時を狙えばいいのですが……そもそも近付くことが至難の業です。今回は絶好の機会だったのですが……」
「ならば先に蛇や狼を仕留めなければならないか。ある意味本人より厄介だな。」
「そうですね……案外正攻法の方が上手くいくのかも知れません。例えば模擬戦を申し込むとか、借金を頼むとか……」
「ふむ、それも踏まえて策を練るとしよう。クタナツでの地盤固めも並行して進めねばな。」
「ええ、昔クタナツに食い込んでいた暗殺ギルドの奴らのように潰されるわけにはいきませんからね」
彼らは
利に聡い闇ギルドの人間が死んだボスの命令などに従うものなのだろうか? それとも何かカースを仕留めた時のメリットでもあるのだろうか?
そこに扉を叩く音がする。来客だろうか。
「御用改めである! 開けてもらおう!」
「はーい。これは騎士様、お務めご苦労様です。何かありましたか?」
「いや、いつもの御用改めだ。ここにいるのは二人だな?」
「はい、そうです。ヌテケシ村から友人が来ておりますので。」
「お務めご苦労様です。こちら手形です」
身分証には様々な種類があるが、そもそも平民の多くは身分証を持っていない。各地に点在する村落出身ともなるといよいよそれは顕著となる。そんな村民がクタナツなどの大きな街に入ろうとする時に必要なのが通行手形である。目的に応じて各村の村長が発行するというわけだ。
「いいだろう。普段見かけない者を見た際には騎士団まで届けるように。」
「はい。お務めご苦労様でした。」
そう言って騎士は出ていった。何も疑うことなく…….
理由は簡単、手形が偽造などではなく本物だからだ。家の住人も、本物……を殺して成り代わっている。写真などないため、本人と親しい人間さえいなければ判明することなどない。ましてや顔貌がそっくりで、近所付き合いも稀な人物ならば? まずバレることはないだろう。普段の魔蠍ならば何年何十年もかけて入念に入り込み、その土地の人間になっていくのだが、ここに至ってはそんな時間はない。ターゲットが目の前にいるのだから。
また、突然の御用改めからも分かるようにクタナツの警備が厳しくなっている。そのため外の人間が新しく家を建てたり買ったりすることが難しい。ましてやスラムもないため外の人間がウロウロしているとすぐに発見されてしまう。よってわずか一年半で成り代われる人間をピックアップし、実行した。ここを足がかりに新たな組織作りを進めていくことだろう。
ちなみにバランタウンやソルサリエにはしっかりと根付いている。やはり厄介な組織である。
ところで、表向きには今回の件は受付嬢の乱心ということになっている。若手冒険者三名が死んだのも別件として扱われている。
しかし実際には、犯人は禁術を使えるほどの魔法使い、危険な猛毒を所持している闇ギルド員、という前提で捜査されている。
ギルド、騎士団、闇ギルド。そこにカースが入り混じり、事態はどのように転んでいくのだろうか。
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