第663話 ドラゴンブーツの絶対領域
パイロの日の昼さがり。
私とアレク、そしてコーちゃんはクタナツの街をぶらぶら歩いている。
クタナツの高い店ってあんまり知らないんだよな。昔、オディ兄やベレンガリアさんと行った店。あそこは旨かったな。何て店だったっけ?
確か二番街で一番の高級店、ラグザルークだったかな?
そこまでの道中でまたまた珍しい人に会った。
「おい、魔女様が倒れて治療院に行かれたってのは本当か!?」
アステロイドさんだ。本当に信者なんだなぁ。
「お疲れ様です。本当ですよ。でも、ただの魔力枯渇ですから大丈夫です。念のため精密検査コースをお願いしてあります。」
「そうか……何かあったのか?」
「いえ、ちょっと稽古をつけてもらっただけです。あっさり負けてしまいました。」
「さすが魔女様だ。ありがとよ、行ってくるわ。」
「わざわざありがとうございます!」
「ありがとうございます。」
「ピュイピュイ」
アステロイドさんほどの人が母上の心配をしてくれるのはありがたいな。
昼食は三人前で金貨九枚。ディナーに比べたらかなり安いな。まあ昼食で金貨使うって…….まともじゃないけど。
「美味しかったね!」
「美味しかったわ! ご馳走様。いつもありがとう。」
「ピュイピュイ」
「大したことじゃないよ。さて、思い出したからファトナトゥールに行こうよ!」
「いいわよ。思い出したって、何か作るの?」
「アレクのコートだよ。魔力庫が使えなかったからサウザンドミヅチの革が用意できなかったじゃない?」
「気持ちは嬉しいけど……贅沢すぎない? 白いコートもずっと借りてるのに。」
「あれはサイズが合ってないからね。やっぱりアレクにはきっちり採寸したやつでないと。行くよ!」
「うん……ありがとう……//」
さて、久々のファトナトゥールだ。ラウーラさんは元気かな。
「こんにちはー。」
「こんにちは。」
「ピュイピュイ」
「いらっしゃーい。あらー坊ちゃん。随分とお見限りだったねー。」
「いやー、色んな事情がありまして。今日はこの子にコートをお願いします!」
「お願いします。」
「いーよー。じゃあ寸法ちょうだいするねー。」
アレクの体型はいわゆるボンキュッボン。どのように仕立てるのか、腕の見せ所だな。
二人とも奥に行ってしまったので、意外とひまだな。店内を見て回ろう。何か変わった素材はないものか。
おっ、何だこれ? マネキンにウェットスーツらしきものが着せられてる。ウェットスーツにしては随分と薄いかな。まさか水着なのか?
「お待たせなのねー。仮縫いはいつがいいー?」
「二週間後ぐらいでお願いします。夏休みなもので。革はこれでお願いします。色は真紅で。目が覚めるような派手な赤でお願いします!」
「はいはーい。もはやお馴染みサウザンドミヅチなのねー。じゃあ防汚とか適当に魔法効果を付けておくのねー。」
「お願いします。じゃあまた来ますね。」
「よろしくお願いします。」
「ピュイピュイ」
「またなのねー。」
さーて、まだまだ行くぜ!
「よし、次行くよ!」
「え? まだ何かあるの?」
「ふふふー。次は靴屋。チャウシュブローガに行くよ!」
「う、うん。」
たった今思いついたことがあるのだ。
「こんにちはー。」
「こんにちは。」
「ピュイピュイ」
「いらっしゃい。いい素材でも手に入ったかい?」
名人と評判のおじいさん靴職人、サントリーニ親方だ。
「ええ、まずはこちらを見てください。これを靴底に使えますか?」
「ほほう、これは珍しい。古龍の牙かい。それも根元から上手に抜いてあるね。時間と費用はかかるけど、どうにかできそうだよ。決してすり減らない、溶けた鉄に足を突っ込んでも平気な靴底ができるよ。」
「では二足ほどお願いできますか?」
「いいとも。使えない部分を差し引いても、充分足りそうだよ。では採寸しようか。」
「お願いします。」
「いいの? 相当すごい靴ができるわよ? 代金もすごいわ……」
「もちろんいいんだよ。あっ、しまった。親方、この子のブーツですけど、膝上まであるやつでお願いします。色は黒で。」
「難しいことを言うね。やってみるよ。」
「革はいつものこれです。僕の方は前回と同じこのデザインです。」
アレクはロングブーツ、私はとんがりウエスタン風ブーツだ。出来上がりが楽しみだ。それにしてもあの時の虫歯ドラゴンは古龍だったのか。だから寝てばっかりで虫歯になんかなってしまったのか。お見舞いに行ってみるかな。
久々に高い買い物をしてしまったな。しかしこれで一段とおしゃれ度アップ、防御力もアップだ。
「じゃあまた二週間後ぐらいに来てくれるかい? 細かい調整をするからね。」
「はい。よろしくお願いします。」
「お願いします。」
「ピュイピュイ」
いやーいい買い物をした。後はどこかで甘いものでも飲んで帰ろうか。
いや、アレクを領都に送ってそっちで飲んでもいいな。そうしよう。
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