第652話 ギルド受付嬢殺人事件

カースが毒により倒れた夜。

ギルドでは使いに出た受付が帰らないため多少の騒ぎになっていた。


「クラーサは遅いな。無尽流の道場に行ったんだよな? 誰か見てきてくれないか?」


「ああ、じゃあ帰り道なんで行ってみますよ」


「そうか、すまんが頼む」


そこに冒険者が飛び込んで来た。


「おい! 組合長いるか! 受付の女が死んでるぞ!」


「モーリスさん!? ホントですか!? 一体どこで!?」


以前カースとヘルデザ砂漠で会ったブリークメイヤーのモーリスだ。


「二区だ! 無尽流の道場からここへの帰り道だ! でかい何かに首を噛み潰されてるようだ! 騎士団にはうちのエルク達が行ってる!」


「噛み潰されて? クタナツの城壁内に魔物なんか……あっ!」

「カースさんのカムイか……?」

「でもあの狼は大きい割にかなり大人しいぞ? そんなことするか?」


「じゃあ確かに伝えたぜ。いくら魔力を失っていても魔王とは関わりたくないからよ」


ブリークメイヤーのようにありし日のカースの恐ろしさを知っているために、侮ることも可愛がることもせず、とにかく関わらないよう心がけている者もいる。


「話は聞いた。現場へ行くぞぉ!」


「組合長! いつの間に……」




現場ではすでに騎士団が検分を始めていた。


「おう、アランはいるかぁ?」


「何!? あぁ組合長か。アランさんは今頃バランタウンだ。戻りは明日の夕方だろう。」


「ふぅむ。カースの狼の仕業かも知れんと聞いたがどうなんじゃあ?」


「分からんな。確かに大型の魔物、それも犬か狼系の噛み跡だった。マーティン家にも他の者が行っているからじきに判明するだろう。」


「そうか。もし犯人があの狼ならギルドうちとしてもケジメをとるからのぉ。」


「好きにするといい。こっちはこっちで法の通りに裁くだけだ。しかしそれより前に手を出そうってんなら騎士団としても黙っていないがな。」


「情報は隠すなよ? おめぇを信じるからのぉ?」


「当然だ。騎士団とギルドが争ってもいいことはないからな。」




「フランク先輩! あっちでも三人死んでます! 外傷はありません!」


若い騎士が駆け込んで来た。


「何ぃ!? またか! そっちには誰が行ってる!?」


「第三騎士団のエリックさん達が行ってます!」


「そうか。なら任せておけばいい。お前は戻れ。こっちは任せておけ。」


「はい!」


「そういうわけだ。組合長にも協力を頼むかも知れん。犯人が誰であれ、な。」


「いいだろう。だが魔女だろうが魔王だろうが必ずケジメは取るからのぉ。じゃあ連絡を待つぜぇ!」


現場を後にする組合長。ギルドに帰るにしては方向が違う。どこに向かったのだろうか。


「フランク先輩! マーティン家に行ってきました! 末っ子、キアラちゃんしかいませんでした! その子によると三男カースの身に何かあったらしく聖女様とメイドが慌てて出て行ったそうです!」


「ふーむ、何かあった……か。よし、じゃあ治療院に行ってみろ。何か分かるかも知れん!」


「はい!」


着々と真相に近付いているのか。それとも……

ヤコビニ派の動乱が終息してからもうすぐ四年。果たして今回の事件が新たな動乱のきっかけになるのか、ならないのか。知る者はいない。

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