第651話 レスキューコーネリアス

コーネリアスは先にマーティン家に帰り着いていた。


「ピュイピュイ」


「コーちゃんおかえり。カース君はまだなの?」


愛らしく頭を縦に振る。

「ピュイピュイ」


「まだなのね、遅くなるのかな?」


またまた頭を縦に振る。

「ピュイピュイ」


「よく分からないけど遅くなるのね。先に食べる?」


今度は横に振る。

「ピュイピュイ」


「じゃあ待ってようね。奥様ー、カース君は遅くなるそうです。」


「そう。コーちゃんが知らせてくれたのね。ありがとう。」






「カー兄まだなの? 私お腹空いたー。」


「じゃあ食べましょうか。ベレン、運んでちょうだい。」


「はーい! コーちゃんはどうする?」


「ピュイピュイ」

首を横に振っている。


今夜のマーティン家はイザベル、ベレンガリア、キアラの三人である。アランは例によって夜勤だろうか。




夕食の最中、突然コーネリアスが「ギャワワワァ! ギャワワッ!」と、鳴き出した。


「どうしたのコーちゃん?」


コーネリアスはイザベルの手に巻き付き頭を外に向ける。

「ギャワワ!」


「あっちに何かあるの?」


「ピュイッ!」


「奥様、もしかしてカース君に何か?」


「ピュイピュイッ!」


コーネリアスは頭を激しく縦に振る。


「行くわよベレン! キアラは待ってなさい!」


「はい奥様!」


「はーい……」




文字通り飛んで駆けつけたイザベルとベレンガリア。二人が見たものは、瀕死のカースと即死だと思われる受付嬢。そしてカースを守るように立ちはだかるカムイだった。


「カース!」

「カース君!」


「ガウガウ!」


「毒ね……私が治療院に連れて行くからベレンはマリーを呼んで来て!」


「分かりました!」


ベレンガリアを送り出したイザベルは解毒を試みるが……


『解毒』


「やっぱり効かないのね……でもこの症状……不幸中の幸いかしらね。カムイ、行くわよ。」


「ガウガウ」


イザベルはカースを木の板に乗せて治療院まで飛んで行った。もちろんその間も解毒の魔法は使い続けている。そしてカムイは後ろを追走する。




「お邪魔するわよ! ベッドを借りるわね!」


「へっ? ま、魔女様? ど、どうぞどうぞ!」


イザベルはカースをベッドに寝かせて目や口の中を確認している。


「やはり……」


「奥様!」


そこにマリーもやって来た。


「マリー! 待ってたわ! 見てくれる? きっとアレよ。」


「はい! 坊ちゃん……」


マリーの後ろにはオディロンもいる。


「こ、これは!?」


「あの時、エリが受けた毒より酷いわよね?」


「ええ奥様……しかし幸運でしたね。あの時のエルフの飲み薬、私達は持っていますから。」


「そうね。マリーを待っていたのはそれなの。今のカースに飲ませて大丈夫かしら?」


「むしろ他に手段はないかと。問題は飲み込んでくださるかどうかですね……はっ! 奥様! ペイチの実をお持ちではないですか?」


「ええ、あるわよ。どうするの?」


「それを絞ってエルフの飲み薬と割りましょう! それなら坊ちゃんは無意識でも飲まれるかと!」


「なるほど。さすがマリーね。ありがとう。」


エルフの飲み薬の在庫はイザベルが一本、マリーが三本。まずはマリーがペイチの実を絞っている。


「できました奥様! これを飲ませてあげてください!」


「ありがとう。飲んでくれるかしら?」


「ピュイピュイ!」


あの時のようにコーネリアスが薬を飲んでしまった。


「コーちゃん! 何を!?」


「そうでした! 奥様、前回もコーちゃんはこうやって坊ちゃんにポーションを飲ませたんです。」


コーネリアスはカースの口から頭を突っ込んでいる。


「ピュイピュイ!」


コーネリアスは何かを訴えようとしているが……


「どうしたのコーちゃん? 何か困ってるの?」


「ピュイピュイ!」


コーネリアスは頭を縦に振っている。


「もしかして一本では足りないのでは?」


「ピュイピュイ!」


さらに頭を縦に振っている。


「分かりました。もう一本使いましょう。」


同じようにペイチの実で割ったエルフの飲み薬をコーネリアスはカースに飲ませた。


結局カースはエルフの飲み薬を二本分飲んだことになる。果たして助かるのだろうか。


「ピュイピュイ!」


「どうしたのコーちゃん?」


イザベルが問いかける。


「ピュイーピュイー!」


「もしかしてまだ足りないの?」


「ピュイっ!」


コーネリアスは頭を縦に振る。


「マリー! もう一本お願いできる!? これを絞って!」


「お任せ下さい!」


それから三本目の薬をカースに飲ませ、コーネリアスも安心したようだ。


「コーちゃん、カムイ。あなた達のおかげよ。ありがとうね。」


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


「街中で毒をくらうなんて情けない……坊ちゃんを鍛え直す必要がありますね。」


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


どうやらカースは命拾いしたらしい。本当に幸運な男である。

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